第二章 第七話 野草商店のトリッタ、魚料理対決の不穏な空気を察知する……!?

 夕方まで、『アイマイモ湖の周辺の土地』で『トリュフ草』を探していた私だったが、とうとうそれは見つからなかった。

 しかし、レアな野草ではないが、野草や香草が沢山採れたので、帰宅の途についている時まではプレートの上で高揚した気分になっていた。

 それでも、若覇者が欲しているのは『トリュフ草』なのだから、結局のところ断ることができずに、料理対決を受ける羽目になってしまうのか。

 と、意気消沈してしまうような気がした。


 屋敷の前でプレートから降り立つ私を見つけたエッセルバートが、ちょうど玄関のドアを開けて出てきた。

 すぐに私は見つかってしまった。


「お帰り、トリッタ!」

「エッセルバート、ただいま……! でも、『トリュフ草』は見つからなかったよ……! だから、やっぱり料理対決は受けることになるかも……!」

「……」

「……」


 どうも気まずい。

『トリュフ草』を見つけると豪語していたのに、気が付いた時には珍しい野草摘みに夢中になってしまった。ついには、籠の中は『トリュフ草』とは関係のない珍しくて楽しい野草ばかり――。

 嗚呼、『トリュフ草』がこのまま見つからなければ、負ける料理対決を受けることになってしまうのだろうか。そして、シルヴィーン家一族は、地下牢に繫がれてしまうのだろうか。

 シルヴィーン家の行く末を案じていると、エッセルバートの晴れやかな声が上から降ってきた。


「野草は沢山採れたみたいだね!」

「うん、そう……! レアな結構珍しい野草が沢山採れたんだ……!」


 沢山採れた野草を見せても、『トリュフ草』はないのだが。

 目が潤む私の前で、エッセルバートがクーラーボックスを開けて私に魚を見せてきた。


「トリッタ! 残念なお知らせがある! 何故か、今日は『マズイうお』しか釣れなかったよ!」

「えっ、でも、大きいよ、この『マズイうお』……!」

「うーん、数人がかりで『アイマイモ湖』で釣らせたんだけど! 全部マズイうおだった!」


 私の涙が、目の中にたまっていくようだ。

「でも、『オイシイうお』と『マズイうお』の差は……?」

「そう!  『オイシイうお』は、1万Gぐらいが相場だよ! でも、『マズイうお』は1G以下が相場だよ!」

「でも、料理対決は……?」

「挑むことにする! カラス・ガインシェフに魚料理対決を挑むことにする!」

「えっ……!『マズイうお』で勝負を挑めるの……?」

「トリッタがレアなハーブを集めてくれたからね!」

「ま、まあね……!」


 エッセルバードは笑っているが、私は大丈夫だろうかと不安だった。

 果たして、あの『マズイうお』をレアレベルのハーブでプラマイゼロに、それ以上に美味しくできるだろうか……。

 不安な私だったが、再び料理対決のために魚料理の試作品作りに励むことになった。



◆☆◆☆◆


 瀟洒な屋敷の中、シャンデリアの照明が揺れている。

 その前に、跪く侍従が数十人いる。


「本当か?」


 威厳のある声だった。


「アイマイモ湖の魚を全て『マズイうお』にしたというのは?」

「はっ、その通りでございます!」


 瀟洒な屋敷の中でクツクツと言う笑い声が、響きあっている。

 誰かの目が、窓の外の夜空を見上げている。

 笑い声はすべて、夜空が吸い取っていくかのように。

 その気配を感じたかのように、トリッタはハッとして顔を上げた。

 背景で不穏な影が動いているような気配を確かに感じ取った。


「な、なんだろう……! 怪しい雲行きを感じるような……!」


 しかし、料理対決に向かって事は運ばれていくのだった。

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