第二章 第四話 野草商店のトリッタ、魚料理の陰謀に巻き込まれる……!?
「トリッタ? まさか、それ?」
エッセルバートは、瞠目しながら震える指で私の手元を指で示した。
怪訝に思った私は、エッセルバートの人差し指が示すものを目で追う。
すると、私の手には一枚だけ『トリュフ草』の楕円形の葉があった。
「あ、これ……?」
私の頬から汗がしたたり落ちた。
「『トリュフ草』だと思わなくて、100万Gで売っちゃった……!」
『チョコット草』なら1万Gで売れたら良い方だ。
しかし、それが『トリュフ草』だったので、結果的に900万G損をしたことにならないか。
そのことで、エッセルバートは口元を
「嘘だろ!『トリュフ草』は若覇者に届ける手はずだったのに!」
ようやくエッセルバートが絞り出した言葉に、私は瞠目した。
「えっ……! 若覇者……?」
「そう! 若覇者!」
私は、怒っているエッセルバートより、また出てきた若覇者の名前に驚いた。
嫌な予感がする。
そう思えば、エッセルバートは城下町に食べ歩きに出かけたと言っていた。
ま、まさか……!
「ま、まさか……! また……!?」
「そう! また、食べ歩きに出かけたんだけど、そこで出された魚料理がね!」
「さ、魚料理……?」
「そう! 魚料理の臭みが全く取れてなくてね! 折角の『オイシイ
「あの、『マズイ
「そう! でも、その料理人は、高級魚料理店のシェフだというから、物凄く文句を言っちゃったんだよねぇ!」
「またぁ……?」
「そう、また、そこで居合わせたのが、若覇者!」
「うそでしょ……! また、喧嘩売ったの……!」
「そこで、若覇者はこう言った!『それなら、この『オイシイ
「えーっ……!」
「若覇者はこうも言った!『料理対決で勝って償わなければ、またシルヴィーン家の一族を地下牢に繋いでやろう』と! だが、俺は今回は無理だと分かったので、打開策を探った!」
「えっ……? それで……?」
私は、何故かそれが腑に落ちなかった。
前回のように、格安の予算で料理バトルをしないのか。
みすみす負けを認めてしまうのか。
憮然として私は言った。
「どうなったの……?」
「野草なら何とかなるかもしれない! でも、問題は魚料理で対決だ!」
「うーん……!」
「魚は、『カラス・ガイン』シェフなら、おそらく使うのは高級魚だ!」
「う、うん。前回の流れだと、店で余った高級魚を使うかもしれないもんね……!」
「2千Gで無理だろ?」
「うーん……!」
「だから、俺は無理だと思った。そうしたら、『それなら、めったに自生していないという『トリュフ草』を見つけて、僕に届けよ! それで、許してやろう!』とのこと! それで、俺は見事に見つけたんだ、その『トリュフ草』を!」
喜びかけた私の笑顔が固まった。
その『トリュフ草』はここにはない。
消化されてどこかに行ってしまった。
あるのは、私の汗ばんだ手で握りしめられている『トリュフ草』の葉っぱ一枚だけだ。
あの時、籠の中には沢山の『トリュフ草』があったはずなのに。
私の脳裏に、してやったりのフィッシュ・ロードバードの顔がよぎった。
そうだ。
私は、この女に安値で叩き売りさせられた!
「私……! 私、『トリュフ草』を食べて、売っちゃった……っ!」
もとを正せば、エッセルバートがシェフに喧嘩を売ったのが元凶だ。
でも、『チョコット草』だと思って、100万Gで売り払った私も運が悪かった。
100万Gだと900万Gの――。
「なんてことを!」
エッセルバートは怒っているが、しっかり『トリュフ草』を味わって食べた私は、微妙な気分だった。
なんで、珍しい『トリュフ草』があんなに採れたのか。
一応、100万G儲けたのに、損をした理不尽な感じで、変な立ち位置でいる。
「メモに書いてあっただろ!」
エッセルバートは、更に怒鳴った。
私は、慌ててメモを確認する。
【籠の中の『トリュフ草』は食べないでね! エッセルバートより】
「って! 俺はちゃんと書いているよね?」
「えっ……!」
どういうことだろう。
メモの内容が全然違う。
「えっ、でも、これ……! このメモを見て……!」
そこには、しっかり紛れもなく、
【籠の中の『チョコット草』が高値で売れたら教えてね! エッセルバートより】
と、書かれてあった。
エッセルバートは、そのメモの内容に目を見張っている。
【籠の中の『トリュフ草』は食べないでね! エッセルバートより】
上記が、エッセルバートの言い分だ。
下記が、実際に記されているメモの内容だ。
【籠の中の『チョコット草』が高値で売れたら教えてね! エッセルバートより】
エッセルバートが、私の持っているメモに瞠目している。
『チョコット草』ではなく、『トリュフ草』だと本物のメモには書いてある。
しかも、本物のメモには『食べるな』と書いてあるのに、偽物のメモには『売ってね』と書いてある。
「えっ? どういうことだ? なんだ、これは?」
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