【◆◇◆◇◆第二章◆◇◆◇◆】

第二章 第一話 野草商店のトリッタ、野草商店とイモダナに戸惑う……!?

 あれから、数日が経過した。

 私は、エッセルバートの館に居候しながら、ここからの『超絶天下~ナ・ラーヌ~』への地図を見て、そこへプレートに乗って行ったり来たりと、周りにどんな店があるのか等を度々確かめていた。

 不思議なことに、あの時の御者がガイドしてくれたお店は一軒も見つからなかった。


「あの……! 野草商店のあるTエリアへはここからどう行けば良いですか……!」


 勿論、あれから道行く人たちやお店の店員たちにも尋ねた。

 しかし、皆は決まってこう言った。


「Tエリアなんてしらないよ?」


 詳しそうなボックスの御者にも尋ねてみた。


「いや~、俺はタ国は詳しいけど、Tエリアなんてのは、しらないけどなァ」


 こんな答えが返ってきたときには、茫然自失になってしまった。

 何度も道行く人や店員に尋ねてみた私は、何の収穫もなく夕日の中でプレートに乗って、今日も疲れた道をエッセルバートの屋敷に向かって帰って行くのだった。

 今日も返ってくる質問の答えには期待できなかった。


「……!」


 その時、街角に変な店があることに気づいた。


「な、なんだこの店……!『蒸し風呂カフェ』……?」


 妙に購買意欲を掻き立てるような店が街角にあった。

 しかし、今日は休業中なのか『CLOSED』のプレートがドアに掛かっている。


「休業中なのか……! どんなカフェなんだろ……? サウナかな……?」


 結局、消沈してプレートの方に帰っていこうとすると、元気な呼び込みの声が耳に届いた。


「いらっしゃい! いらっしゃい!」

「あのお店は……?」


 近くまで歩いて行ってみると、看板にでかでかと『超レア野草店~ワビサビ~』と書かれてあった。


「げっ……!? 同業者だ……! しかも、結構、大きい店で繁盛してる感じだ……!」


 しかも、超レア野草店だ。超レア野草店というぐらいなのだから、超レアな野草を取り扱っているのだろう。


「本当に、超レアな野草を取り扱っているの……?」


 私は、恐る恐る『超レア野草店~ワビサビ~』に近寄って行った。

 呼び込みをしている店主が、私に気づいた。


「いらっしゃい! 『超レア野草店~ワビサビ~』は、超レアな野草を色々と取り揃えているけど、欲しい野草ってある?」

「超レアじゃなくても、レアな野草でも……?」

「もちろん! レアな野草なら、一時間あれば十分届くわよ!」

「……」


 私は、押し黙る。

 こんな人通りの多い城下町で店を開けるなら、絶対に儲かる。

 もうかれば、野草ハンターの人件費だって多く支払える。

 私だって、十分やっていける。


「お姉ちゃん!」


 夕日に染まった橋の向こう側で、蜃気楼のような影が見えた。


「イモダナ……!」


 その影は夕日に溶け込むようにして、浮橋の向こうよぎる。

 浮橋の前には、ボックスが滞空している。

 通れそうにもない。

 その横を徒歩で渡った方が早い。


「ちょっと、降ります……!」

「待って! お客さん!」


 御者が後ろを振り向いた時には、私は横の浅瀬を渡ろうとしていた。

 浮橋の上を渡れば大丈夫だろう。

 私は、急いでそこを通り抜けようとした。


「う、わ……!」


 しかし、浮橋の上に足を置こうとした途端に、浮橋がくるんと回った。


「危ない!」

「……!」


 咄嗟に、手が伸びてきて私を支えた。


「何やってんだよ!」

「うわっ、エッセルバート……? 何でこんなところにいるの……?」

「ああ、ちょっと、『アイマイモ湖周辺の土地』に行ってきたんだ!」

「えっ……! その帰りなの……?」

「そう! だから、そのアイマイモ湖で魚釣りをしてきたんだ!」

「えっ、魚釣り……?」

「そう! いっぱい釣れたから食べようね!」

「えっ……? 私も……?」


 私は、そのままエッセルバートに連れられて、プレートを抱えてボックスに乗り込んだ。

 いつの間にか、停滞していたボックスは一台もなくなっていて、その閑散とした橋をボックスの風を切る音が調子を変えて飛んで帰って行くのだった。

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