第十六話 野草商店のトリッタ、完成した野草パンに勝負をかける……!?

「トリッタが自作した野草パンはこちらです」


 エッセルバートが、若覇者に野草パンが乗った皿を勧めた。

 それを、そっと若覇者が手に取り、珍しそうに眺めている。


「ふーん……。野草の色がくっきりと出ている……」

「そうなんです……! 冷たいパンでも野草の匂いもしっかりと……!」

「だが、この香りは高価な野草ではない」


 一刀両断に言われてひるみそうになったが、私は負けなかった。


「でも、手でちぎるとしっとり……!」


 仕方なさそうに、若覇者は野草パンをちぎっている。

 その若覇者の目が、その野草パンの断面に瞠目した。

 若覇者は、手で野草パンの断面を触って確かめている。


「……確かに、冷たいパンなのに、どことなくしっとりしている……」

「そうなんです……! 今回は、『イイスト菌』を使用しなかったのです……!」

「使用しなかった……?」

「嘘だろ、トリッタ?」


 若覇者だけではなく、エッセルバートまでもが驚いている。

 オオセツカからは、余裕の表情が消えていた。


「『イイスト菌』を使用しないと、パンは発酵して膨らまないと思うけど?」

「そう……! エッセルバート、私は、その菌に着目したの……! 菌なら『ヨーグルル』の乳酸菌でも膨らむのではないかと……!」

「『ヨーグルル』だって?」と、若覇者。


 エッセルバートは、合点したようにポンと手を打った。


「あっ! 『ヨーグルキノコ』を『ジャージットミルク』に入れて発酵させていたのって、だったんだね!」

「天然酵母というわけか……」と、オオセツカは、『ヨーグルル』が天然酵母の代わりになることを教えてくれた。


「では、一口……」


 若覇者は、野草パンの欠片を口に運んだ。

 それを咀嚼していく。

 その咀嚼された野草パンの欠片が、若覇者の喉を通るとき、若覇者は衝撃を受けたように驚いていた。


「……っ! この野草パンの深いミルクのコクがこのごく普通レベルの野草の味を底上げしている……!?」

「『バター草の実』をふんだんに使用させて頂きましたので!」


 やられたとばかりに、オオセツカは笑っている。


「『バター草の実』をですか。あれは、バター代わりになりますからね。しかも、ミルク感が濃厚だ。その上、ヨーグルルとの相性も良い」

「なるほどな……!」


 若覇者は、味わうように食べている。


「しかも、この口の中で噛むたび果実の味と、小さなビーンズがはじけてスパイスのような匂いが混ざり合って!」

「『ピリットミカン草』と『ラリルレモソ草』、それと、『ザッコク草』と『七椒』です……!」

「普通レベルの野草でこの味が出せるのか!」


 若覇者は、感動を歌うように言った。

 私は、満足そうに首肯する。


「はい、全て野草です……! でも、この野草の実、『ピリットミカン草』と『ラリルレモソ草』は主に匂いだけで、んですが……!」

「だが、この野草の実は甘いぞ?」

「ですので、使……!」

「トリッタ、本当に『ニガアマ草』を使ったの?」

「うん、エッセルバートが使うなって言っていた、あの『ニガアマ草』を使ってみたよ……!」

「『ニガアマ草』? あの雑味のある『ニガアマ草』を?」

「雑味は、『』と一緒に茹でることで、『ニガアマ草』の苦みを取ることができます……!」


 私は、ニガヌキ草というレアアイテムな野草を使った。これさえあれば、苦い雑味のあるニガアマ草を甘くすることができる。


「それを『ピリットミカン草』と『ラリルレモソ草』と少量の湯で茹で続けることで、野草の実を甘くすることに成功しました……!」


 『ピリットミカン草』と『ラリルレモソ草』を、雑味を取って甘くした『ニガアマ草』と一緒に茹でる。

 そして、ジャムのような野草の実、『ピリットミカン草』と『ラリルレモソ草』を作り出したのだ。

 かくいう私は、『チョットシタ洞窟』で、レアアイテムな野草『ニガヌキ草』を手に入れたのだ。

 そういうことだった。

 完食してしまった若覇者の口元が緩む。


「ハハハ……! ハハハハハハハハ!」

「えっ……?」


 別人のように笑い出した若覇者に、私は置いてけぼりになっている。


「……っ!」


 エッセルバートはそんな若覇者に歯噛みしている。

 そんなエッセルバートをオオセツカが、首を傾げて訝しそうに眺めている。


「どこかで会いましたっけ?」

「えっ?」

「どこかで、エッセルバートさんに会ったような気がするんですが?」

「……それは、俺がオオセツカさんと料理対決をする原因になったあの時に会ったのではないかと……」

「違うんです! 自分でも不思議なんですが、最近ではなく、会った事があるような気がするのですが……?」

「えっ……!」


 エッセルバートと、オオセツカに妙な空気が漂い始めた頃――。

 若覇者がようやく話し始めた。


「それにしても、二千Gの壁をクリアするには、相当苦労したようだな……!」


 次に続く言葉に、私は――。

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