第十五話 野草商店のトリッタ、若覇者の態度に一喜一憂する……!?
「さて、あなた達のパンは……?」
若覇者は、オオセツカのパンを完食して、満足そうに椅子の背に凭れている。
私は、持ってきた野草パンの入ったバスケットを、そのままテーブルの上に置いた。
しかし、若覇者は顔をしかめている。
「私たちのパンはこれです……!」
そのまま勧めようとしている私の間にエッセルバートが綺麗な立ち振る舞いで入ってきて、トングで皿に取り分け始めた。
そして、若覇者のテーブルの前にそっと置いて勧め直した。
「これは?」
若覇者の問いに、エッセルバートは緊張した面持ちで顔を上気させた。
「野草パンです! 二千Gに抑えるため、パンに野草を使いました!」
「何? 野草を? 僕に野草を食べさせるというのか?」
エッセルバートは、瞠目して固まった。
私は想った。
エッセルバートが最初に用意したのも、野草を使った野草パンだった。
若覇者に野草を食べさせてはならない。
そういう考えには至らなかった。
そんな後悔が固まった表情ににじみ出ている。
しかし、野草商店の私はそうは思わないのだ。
固まっているエッセルバートの前に進み出た私は、若覇者に説明しようと試みた。
「若覇者は知っていると思いますが……! 野草は、一割毒で、一割マズくて、一割普通で、二割まあまあ美味しくて、三割美味しくて、二割は、悶絶するほど美味しいのです……!」
「ふーん?」
若覇者は、まるで野草に興味がなさそうだ。
「その、悶絶するほど美味しい野草は何千万Gという値が付くほどなのです……!」
「ふーん?」
若覇者は、それでも半眼のままだ。
「そして、私が野草商店を経営している社長なので、そんな野草も目利きできるというわけです……!」
若覇者は、やっとハハハと笑った。
「知ってるよ」
思いも寄らない言葉に私の顔が上気するのが分かった。
「私のことを知ってるだなんて……!」
「いや、知らないよ? そういう野草を取るための野草ハンターを牛耳っているのは僕だからね? だから、野草のことは良く知っているよ?」
「あっ、そういわれてみれば……!」
もしかして、若覇者は私のことが好きではないのだろうか。
しかし、何故かショックは受けなかった。
「そういうこと。高価な野草なら話は別だけど。でも、トリッタが目利きできる社長とはいえ、この野草パンにそんな高価な野草が使われているとは思えないけどね?」
やはり、野草ハンターを牛耳っているだけあって、高価な野草で舌が肥えているのだろう。
普通の野草パンでは、満足できないというわけなのか。
あれほど、意気込んでいた私なのに――。
「た、確かに、そうかもしれませんが……! でも、味には自信が……!」
私の言葉がしりすぼみになって消えそうになった時、後ろから肩に手が置かれた。
エッセルバートだった。
「だ、大丈夫だよ、トリッタ……! 多分、きっと大丈夫……!」
エッセルバートは不安なのを必死で隠して励まそうとしている。
そんなエッセルバートに私も励まされて頷くしかできなかった。
「では、トリッタの野草パンを……」
若覇者が、野草パンをちぎって口に運ぼうとしている。
そんな時、オオセツカがニッコリと微笑んだ。
「楽しみですよ、トリッタ」
「……」
私は、そんなオオセツカにげんなりするのだった。
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