第十四話 野草商店のトリッタ、オオセツカの料理にしてやられる……!?

「それでは、どちらから先に食そうか?」


 若覇者の言葉に戸惑った私は、エッセルバートを見やると、彼はオオセツカの方を手で促した。


「オオセツカさんから、先にどうぞ!」

「それでは、私のパンを」


 オオセツカがキッチンに消えて、暫くすると皿に盛られたパンがテーブルの上に並んだ。

 私は、違和感に気付いた。

 ロールパンから湯気が出ている。

 しかも、それは見た目から違っていた。


「これは……!」

「なんで、こんなに外側はカリカリのサクサクで……! 中はしっとりとふっくら……!」


 オオセツカは、大したことじゃないとばかりに苦笑している。


「ええ、先ほどで焼き上げたところなのですよ」

「い、石窯いしがま……? オーブンじゃなくて、石窯……?」


 石窯なら、熱の伝導率も、焼き上がりも違ってくる。

 エッセルバートは怒りでわなわなと震えている。


「こんな、焼き立てを出してくるなんて、卑怯じゃないか!」

「まあ、焼き立ては良いだろう。肝心なのは味だ」


 若覇者は、お抱えのシェフだったせいか、やはりオオセツカに甘いようだ。


「そ、そうですよね……! こんな、プレーンなロールパンだし……!」


 言い聞かせるように自分をなだめながら、ちぎったロールパンを口に運んだ。

 ふわっと、口の中に『バター』の味が広がった。


「えっ……!」


 衝撃が脳の中を走った。


「何これ……! 『バター』の味がとんでもなく良い……!」

「『発酵バター』なんですよ。しかも自家製のだから材料費がかかりません」

「そ、そんな……! しかも、この甘いくちどけはどうやって出しているの……?」

「お城でしか使われていない小麦粉の品種の『極みの粉』です」

「えっ、この小麦粉は、二千G超えるんじゃないの……?」

「ルール違反だ!」


 エッセルバートは、勢いよくテーブルを叩いて立ち上がった。


「そんな高価な『極みの粉』なんて、材料費がオーバーしてしまうじゃないか!」

「契約農家に作らせたので、材料費を二千Gに抑えることが可能なんですよ」

「そんなの卑怯じゃないか!」


 オオセツカは、してやったりとばかりにエッセルバートを目の下でとらえた。


「これも、策のうちですよ」

「……くッ!」


 エッセルバートはひどく悔しがっている。

 若覇者は、拍手し始めた。


「流石だね、オオセツカは」


 オオセツカは、ニッコリと黒い笑みを見せた。


「では、あなた達のパンを拝見しましょうか?」

「……」


 余裕綽々のオオセツカに闘志を燃やしながら、私は静かに立ち上がった。

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