第十三話 野草商店のトリッタ、超絶天下~ナ・ラーヌ~のオオセツカとパンで対決する……!?

 ついに、『超絶天下~ナ・ラーヌ~』のシェフ『オオセツカ』と、『パン』の対決の日が来た。


「あっ、あのお店だよ!」

「えっ……! あれが……!」


 ボックスの中からガラス窓に自分の顔を押し付けるようにして、『超絶天下~ナ・ラーヌ~』の建物を探した。

 流れる景色の中から、『超絶天下~ナ・ラーヌ~』が徐々に見えてくる。

 それがあるのは城下町なのに、まるでお城の一部を切り取って持ってきたような店構えだ。


「えっ……!? 何故かこの店に既視感がする……!」

「えっ? 既視感? もしかして、前にも来たことがあるの?」

「う、うーん! 何故か、来てないのに来たことがある気がする……!」

「……そんな変なこと、俺に対しても言ってなかった?」

「……?」


 そういわれてみれば、エルバートがどうのこうのと言っていた気がする。

 でも、来たことがないのに、このお店を知っているだなんて。


「一体何なんだろう、この既視感は……!」

「あっ、もう審判する人は来ているみたいだよ!」


 そのお店の前に、やけに高そうなボックスが停まっている。


「……う、うーわ……!」


 それを眺めながら、『超絶天下~ナ・ラーヌ~』の建物の中に、私とエッセルバートは来店した。


「こんにちはー!」

「パンの対決に来ましたーっ……!」

「いらっしゃいませ! 案内します!」


 エッセルバートと私が喧しく言っていると、侍従が一人やってきて、店の中に通した。

 白いテーブルクロスがかかった丸いテーブルが等間隔に並んでいる。

 今日は臨時休業なのか、店内に客は一人も――。


「僕を待たせるなんて、良い度胸だな!」


 客は、一人だけいたようだ。

 中央の一番目立つ席を一人で陣取っている。

 しかし、その客だけは妙に綺麗でこの店の中で浮いている。


「わ、若覇者!」

「えっ……! この方が……!」

「僕が若覇者だ。それはエッセルバートの連れか?」

「そうです! 私は、野草商店のトリッタです……!」

「ふーん、野草商店ね……」


 私はハッと思い当たることがあり、若覇者に言い募った。


「あの……! 私、野草商店のあるTエリアに帰りたいんですが、ここは何エリアですか……?」

「Tエリアだって? ここはタ国の都のAエリアだが、Tエリアなんて存在しない!」

「えっ……? Tエリアが存在しない……?」

「タ国の地図を持て!」

「はい、只今」


 お付きの者が周りの者に指図して、地図を持って来させた。


「これが、タ国の地図だ。後で、目を通して置くが良い」

「……!」


 私は一礼してそれをお付きの者から受け取った。

 受け取った手が微かに震えていた。

 本当に、狐につままれていないのだろうか。

 本当に、このタ国の地図にはTエリアは載っていないのだろうか。


「トリッタ、大丈夫?」

「あ、うん……! 大丈夫だよ、エッセルバート……!」


 心配そうなエッセルバートにそう答えると、私は改めて辺りを見回した。

 若覇者はテーブルを前にして座っていて、その横には黒スーツのSPが数十人控えていた。


「あれ? エッセルバート君、トリッタさん、遅かったね?」

「エッセルバート? このひとが、オオセツカさん?」

「その通りです! 私が『超絶天下~ナ・ラーヌ~』のシェフのオオセツカです!」

「……!」


 そのオオセツカは、見るからに格式が高そうなオーラを醸し出している。

 私は、その存在感に気圧されそうになっていた。


「それでは、『パン』の対決を行う!」


 若覇者の声が高らかに響き渡った。

 黒スーツのSPの一人が、合図のドラを鳴らした。


「私のパンは、今できたところです」

「あっ! 俺たちも、完成したパンを持ってきました!」

「……!」


 私は、パン対決のぐだぐだな雰囲気に気圧されそうになっていた。

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