第八話 野草商店のトリッタ、試作品②の野草パンを作り始める……!?

 『ウラノウラハオモテ山』を三周した私は、いつもの木々の開けた場所に降り立った。

 プレートを停めて、私はご機嫌で野草を摘み始めた。

 収穫は、この間の四種類と新しい二種類だった。

 摘み終わっても、一時間ほどしか経過していなかった。

 けれども、この『ウラノウラハオモテ山』に来るのは、今日は二度目なので、もう夜の帳が落ち始めていた。


「プレートがあって良かった……! 山道を真っ暗で帰るのは危険だからね……!」


【全部で、『シソシソの葉×5』、『バジバジの葉×7』、『ニガアマ草×2』、『ザッコク草×8』、『ウマミ草×7』、『オイシ草×7』を、みつけた!】


 私は、プレートを光らせて、夜空を横切るように、シルヴィーン家に簡単に帰宅できた。

 玄関のドアを開けると、エッセルバートが笑顔で待ち構えていた。


「お帰り、今から行くと日が暮れてヤバそうだったけど、帰宅できて良かったね!」

「あ、ああ。プレートがあったので、なんとか……!」


 プレートを貸してもらった手前、怒っていいものか。

 かといって、嘆いていいものか。

 人任せにするなと楯突こうと思ったが、エッセルバートの野草パンを食べてしまったのは、この私だ。

 嘘みたいな話だが、私が何とかしなければシルヴィーン一族はダンジョンに繫がれてしまうらしいし、全力を出してエッセルバートに劣らない野草パンを作らなければならないようだ。


「はぁ……。一応、心配してくれたようだし、良いか……!」

「それで、野草は採れたの?」


 キッチンまで移動した私は、追いかけてきたエッセルバートに手の中の籠を見せた。

 沢山採れた野草が、籠の中からのぞいている。


「うん、採れたよ……! この前の四種類と、新しい二種類がね……!」

「へぇー、籠の中見せてよ!」


 私は、籠をシンクの上に置いた。

 シートをテーブルの上に広げると、その上に野草を次々と置いていく。


「『シソシソの葉×5 バジバジの葉×7 ニガアマ草×2 ザッコク草×8』は、この間と一緒……!」


 私は、籠の中を確かめながら、もう二種類を取り出した。


「それと、『ウマミ草×7』と『オイシ草×7』は出汁が本当に出るの……!」

「ふうん! 美味しそうな野草なんだね!」

「そうなの……! 昼間作った試作品その一は、野草のうまみが足りないと思ったんだ……!」


 エッセルバートの試作品は、冷めているのに物凄く美味しかった。

 それなのに、私の試作品その一は、ほんのりと野草の香りがするだけで、エッセルバートの試作品にはおよばなかった。


「まずは、味だと思って、出汁が出そうな野草があるかなって探したの……!」

「それが、これだね!」

「そう、それが、これ!『ウマミ草』と『オイシ草』なの……!」

「なるほどねー!」

「じゃあ、早速試作品その二を作ってみるね……!」

「ちょっと待って!」


 しかし、試作品その二を作ろうとしたその時、エッセルバートが私が作った試作品その一の野草パンを手渡してきた。


「えっ……? 何……?」

「絶対、出汁が出ても、この『ニガアマ草』がだめだよ!『ニガアマ草』が雑味になってるって言っていたよね?」

「え、あ、そ、そうだけど……!」

「だとしたら、『ニガアマ草」は入れない方が良いよ!」

「えっ……! あー、うーん……!」


 せっかく摘んできたというのもあるが、そういうことなら仕方ないかもしれない。


「分かった……! それを考慮に入れて、試作品その二を作ってみるね……!」


 そして、また私は野草パンその二を作り始めたのだった。

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