第七話 野草商店のトリッタ、野草パンの試作品①ができる……!?
「明らかに、違う……!」
私は、オーブンの前で茫然と突っ立っていた。
微かに、野草パンの焼ける匂いに苦い匂いが混ざっていく。
「あっ、焦げちゃうけど……!」
我に返った私は、慌ててオーブンから焼きあがった野草パンを取り出した。
そして、恐る恐る焼きあがった野草パンに手を伸ばす。
焦げると慌てて取り出した野草パンは、こんがり程度で難を逃れていた。
私は、野草パンを二つにちぎろうと手に力を込めた。
「わぁ、美味しそう、だけど……!」
野草パンの鮮やかな緑は食欲をそそる。
「……!」
ふっくらと湯気の立ちのぼる焼きあがった生地が、解けるように二つに分かれていく。
「でも……!」
けれども、私は違和感を感じずにはいられない。
「やっぱり、エッセルバートが作らせた野草パンとは違う……!」
エッセルバートが作らせた野草パンは、冷めていてもその違いがすぐに分かる。
「エッセルバートが作らせた野草パンは、香草の匂いが物凄く良くて美味しかったけど……!」
嗅いだことのないのに食欲をそそるような香草の匂いは、冷めていても己を主張するかのように引き立っている。
「私のは、野草なら匂いは結構良いから大丈夫と思っていたけど、ちょっと甘く見てたかもしれない……!」
私は負けじと、その野草パンを食べてみる。
「やっぱり、味が引けを取るかも……!」
私は、ハッとして、ニガアマ草を入れた25個分の1個を手に取った。
1個だけ食べてみる。
「うん、微妙……!」
ニガいのかアマいのか、それよりも微妙な味は雑味となるようで、うまく使えたわけでもない。
「『ザッコク草』の歯ごたえは面白くて美味しいけど……他は微妙……!」
「焼けたっぽいね! 良い匂いが俺の部屋の方まで漂ってきたよ!」
「あっ、エッセルバート……!」
「焼きあがったみたいだね!」
「失敗かもしれない……! ちょっとまた、野草を摘みに裏山の方に行ってくる……!」
「そう? 大変そうだから、俺のプレートに乗っていくといいよ!」
エッセルバートは、ひとが一人乗れるほどのプレートを持ってきた。
私が、イモダナを追いかける時に乗っていたあの乗り物だ。
元の世界で言うEV自動車並みに人気がある、異世界の摩訶不思議な乗り物だ。
巷では物凄く価値がある、
摩訶不思議というのは、このプレートの動力がガソリンや電気のEVではなく、魔力だからだ。
エッセルバートは、私にそのプレートを差し出した。
「な、なんだァこれェ……!」
動揺を隠しきれなかった私は、田舎者全開の反応を示してしまった。
「だから、プレートだよ!」
私は、いきなり差し出されたプレートに動揺を隠せない。
私の元の世界でいうところの、自動車並みの素早さが出る
「これに乗ると自分の意志でサッと移動できるから、手っ取り早いと思ってね!」
「そんな! 手っ取り早いっていうけど! 早く出してくれればいいのに……!」
「乗ってく?」
明らかに、最新式モデルのプレートだ。
プレート屋のプレートショーで、こういう最新式のが今年出ていた。
それを、新聞か何かで見た記憶がある。
「う、うん、使わせてもらう……! じゃあ、行ってくるね……!」
私はプレートに乗って、そそくさと裏山の方に向かった。
急いでいると言いながら、お祭り気分で『ウラノウラハオモテ山』の周りの上空を上昇気流になったかのように三周してしまった。
そうして、ようやく試作品二回目に使う野草を採取し始めたのだった。
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