いいいろの日
~ 十一月十六日(月) いいいろの日 ~
※
男が束になってかかっても敵わねえ
昔、散々練習したんだ。
友達出来ると思って。
でも実際には。
一瞬の主役を得ておしまい。
その後は。
変だとか暗いだとか。
陰口をたたかれる始末。
その時に。
俺は悟ったね。
手品ってやつは。
エンタテインメント性とかルックスとか。
そんな要素を加速させるためのツールの一つなんだってことを。
つまり。
もともとベクトルがマイナス方向な俺がやると。
マイナスに加速するってわけだ。
そう。
絶対そうだと。
俺は信じて生きて来た。
「お前、ほんとにマジックやる男はかっこいいって思うんだな?」
「思うけど。…………ねえ」
「ん?」
「その確認、朝から十回目……」
だって。
これはもう、俺の価値観を根底から覆す話なわけで。
そりゃあ慎重になるっての。
最近分かり始めた。
そうとう特殊な変わり者。
でも、お前がいくら特殊な趣味趣向を持っているとしても。
この話を鵜呑みにできるはずはない。
「…………ほんっとうにほんとなんだな?」
「十一回目」
もしもほんとに。
手品が好きなら。
披露してやるのも。
やぶさかではないが。
……試しに今度。
見せてみようかな?
「んじゃ、変な質問ついでに」
「うん」
「トランプ手品やるとしてさ。好きなカードを一つ言ってみろって言われたら、なんて答える?」
「うそ。奇跡的」
「え?」
なんだよその返事。
身構えちまうっての。
「何でもない。ハートのエースがいい……、かな?」
「即答だね。乙女だね」
「乙女……、だよ?」
ちょっと口をとがらせて。
俺をにらむけど。
なにが奇跡的だったんだろう。
……まあ、いいか。
その情報、手品をするとき。
効果的に使わせてもらおう。
「ま、まさかそのカードが、私のポケットから?」
「出るわけあるかい」
秋乃がわたわたと。
ポケットを探っているが。
タネも仕掛けもねえんだ。
出てきたらびっくりする。
「……あった」
「あったの!?」
「ハートのエース」
「アートなケース!」
そして蓋を開けると。
「豆じゃねえか」
「はーとのえーさ」
「なんでやねん!」
「くるっぽー」
「うはははははははははははは!!!」
逆のポケットから。
鳩のおもちゃが出てきた。
と、思ったら。
ばっさばっさと。
開けっ放しの窓から空へ飛び立った。
「わっはははははははははははは!!! く、くるしい……。三連続ゴール……」
「バードのレース」
「まだあったか……」
まさか、どこかのタイミングで『ハートのエース』と言わせて。
そいつで笑わせようとしてたなんて。
奇跡的と呟いたのも。
うなずける。
「…………おい」
まあ。
それを授業中にお披露目されたら。
こうなるけどな。
「言いたい事はあるか?」
「あるさ。大声で笑ったからって、俺が立たされるのは納得いかねえんだが」
「うるさい。いいから、ろーかのスペースへ行け」
「へたくそか」
くそう。
余計なこと言うんじゃなかった。
俺は、放課後まで。
鳥小屋の中に立たされることになった。
~´∀`~´∀`~´∀`~
さて。
そんな話のきっかけにになったのは。
今日、トランプ同好会にお邪魔することになってたせいなんだが。
「すまん。駆け引きとか、まだ無理だ」
俺が、ポーカーのルールを慌てて覚える秋乃を見ながらお願いすると。
「じゃあ、純粋な得点勝負にするか」
「子供向けのやつね。オーケーオーケー」
紙に得点を書いて。
テーブルの真ん中に置いてくれた。
1ペアで1点。
2ペアで2点。
3カードで4点。
ストレートが6点……。
「なるほど」
こいつで十回勝負。
ワンチェンジで作るわけか。
確立で考えると。
ペア狙いの方が期待値が高そう。
そんなことを考えていた。
無得点の練習回。
「フルハウス」
「フラッシュ」
「ストレート」
「ウソだろ!?」
トランプ同好会の先輩方。
驚くような手札を開いて。
そして曰く。
「ちなみに、いかさまもありだ!」
「はあ!?」
そんなことを言いながら。
飄々と、ポケットや袖からカードを出す。
「俺たち、カードマジックもやるからね!」
「これも活動の一環なんだよ」
冗談じゃねえ。
そんなの勝てるわけねえぜ。
……それに。
「純粋にゲームを楽しみたいってやつもいるだろ? いかさまなしで」
いままでの部活訪問の癖で。
つい、そんなことを口にした。
――こんな方針が。
俺たちの部活探検同好会には合ってる。
お前もそう思うよな?
すると、視線を向けたお隣りで。
秋乃が、小さく頷くのに合わせて。
向かいに座った先輩が。
頭を掻きながら告白した。
「ああ、俺、たまにはまともにやりたいな」
「なんだ。言えよ」
「じゃあ。たまにはいかさまなしでやるか」
きっと言い出せなかったんだろう。
そんな先輩の、嬉しそうな笑顔と。
俯き加減で微笑む秋乃の顔を見て。
なんとなく。
俺たちらしいことが出来たと。
ほっと胸を撫でおろす。
「ただ、今はいかさまありだ!」
「そうだった!」
とは言え、勝負はこれから。
いかさまなんて門外漢の俺は。
どこを見ていたらいいのか分からねえ。
「見抜いたら指摘すればいいのか?」
「罰符は十点な」
「…………十点」
高いけど、フルハウスと同点ってことは。
いかさま前提の勝負ってことか。
なるほど。
気が抜けねえぜ。
「罰符って……? 麻雀?」
「そうそう、麻雀用語。罰点のこと」
この間。
下校中に教えてやった麻雀のルール。
こいつ、面白がって。
役も全部覚えてたっけ。
「そういうくだらないことは勉強するのな」
「くだらなくない……、よ? 楽しい」
そんな会話をする秋乃の手元。
配られたカードを三枚チェンジした手札を。
ポケットから出したカードと入れ替えてる。
他の皆さんは、俺たちがいかさまするはず無いと高をくくって。
お互いの動きに視線を集中させてるからバレてねえ。
指摘しようかどうするか。
考えてる間に。
「フ、フラッシュ……」
そう呟きながら。
秋乃が開いた手札。
確かに。
一色。
『発』『発』『二索』『三索』『四索』
「
「麻雀カード!」
「あははははははは!!!」
全員笑い転げて。
あまりの馬鹿馬鹿しさに。
いかさまを指摘もしない。
結果、秋乃の一戦目。
三万二千点入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます