洋服記念日
~ 十一月十二日(木) 洋服記念日 ~
※
さっぱりきっぱり。なんにも気にしない。
服にまつわる部活が五つ。
五つもある。
何が違うのか。
それは行ってみなけりゃ分からない。
というわけで。
今日は夢ーみんこと、夢野さんが所属する。
ファッション部にお邪魔することになっているんだが。
昨日の折り紙で。
予習しておけばもっと楽しめたと。
そんな反省を早速生かし。
オリジナルの服を授業中に作るのは。
一時間目から、丸一日。
隠してやってきたが。
この先生から。
逃げ切れるとは思えねえ。
「……あ。ここも縫わないと」
既に洋服づくりは終盤戦。
白いショート丈のジャケットを直すために。
邪魔になったピンクのワンピースを。
ばっさ
大きく広げて。
俺の机にかけるんだが。
「お……、おおー! ブランケット貸してくれるのかー! 嬉しいけど気にしないでいいぜー!」
苦しいっての。
見ろよ、先生の岩みてえな顔が。
今にも爆発しそうだ。
「ひ、膝にかけたりしたらダメ……。皺がつく……」
「どうしろっての」
「じゃあ、こっちを置いといて……」
「う、うわー。今日は冷えるけど、上着なんかいらないよー」
「き、着ないで欲しい……、な? それ、レディースのつもり……」
こらお前。
パラガスを見る時の目で俺を見るんじゃねえよ。
さすがに限界だし。
恩も感じねえようなやつを。
もうかばってやるもんか。
「出来た!」
そしてでかい声で堂々と。
ワンピースを掲げるもんだから。
クラス中から爆笑されて。
先生からはにらまれて。
さすがの俺も。
今日のは笑えねえ。
「…………保坂」
「そんでこっちくんのかよ! 今日は立たねえからな!?」
「いや、そんなことを言っているわけではない」
「だったら着ろって言いてえんだろ! ぜってえ着ねえからな!」
「違う、騒ぐなバカもん。部活は放課後になってからと、しっかり教えておけ」
「なんだ、そんなことか」
いつも不条理な事させられるから。
身構えちまった。
でも、よくよく考えてみたら。
なんで俺がこいつの面倒みなきゃならんのだ。
不条理を胸に抱きつつ。
秋乃をにらみつけると。
こいつは、はっと目を見開いて。
ワンピースを胸に抱きながら。
「き、着せない……、よ?」
「着ねえって言ったの! どうしてそうなった!?」
「だって今、立って着るって」
「どっちも逆だバカ野郎!」
「バカは貴様だ。授業中にやかましいぞ」
だから!
なんで俺が叱られる!
「さすがに不条理だ!」
「仕方ないな。では、罰は半分にしてやる」
半分?
なんだそりゃ。
「その服は、着ないでいいから……」
「立ってろってか」
納得いかねえけど。
下手うつと、ワンピースが待っている。
俺は、きっと寒いであろう廊下を目指して。
上着を羽織りながら席を立ったんだが……。
「……着たいならそう言えばいい。そいつはワンピースとセットだろう」
「くそう! 道理で袖が通らねえわけだ!」
俺は、白いジャケットを秋乃の頭に脱ぎ捨てて。
Yシャツ一枚で廊下へ向かった。
~´∀`~´∀`~´∀`~
「…………風邪ひいたかもしれん」
部室へ向かう途中。
着飾った秋乃に文句をつぶやいてみたが。
返事をして来たのは。
秋乃の隣を歩く、夢野さんだった。
「今日、寒いからねー。グミ食べて元気出すと良い感じー」
「感冒に効くとは。すげえんだな、グミ」
「そだよー? 総合栄養食な感じ―」
「……食ってると、熱っぽくなってくるんだが」
「うそだー。マンゴー、体にいいんだよー?」
「俺、アレルギー」
南国フルーツ苦手なんだよ。
なんでもほいほい口に入れるもんじゃねえな。
秋乃も苦手だって言ってたからな。
差し出されたグミを丁重にお断りしてるけど。
断り方が上手いな。
今食べたらワンピースのウエストラインが崩れるとか。
グミ一個食って。
変わるわけねえだろうに。
そんな非常識な話も。
女子には常識的な話なんだろう。
夢野さんは納得しながら。
グミをポケットにしまい込んだ。
「ゆ、夢野さん……。洋服とか好き、なの?」
「好きだからファッション部に入ったんだけどー。なんか違う感じー?」
おや?
なんだか雲行きが怪しいな。
「何が違うんだよ」
「ファッション部、コーディネートとか研究するだけなのー。私、なんか作る部が良かった感じー」
ちらりと秋乃と視線を交わす。
お前も同じこと考えてるみてえだな。
よし。
じゃあ、押し付けにならねえように。
「……服に関する部活って、他にもあるんだぜ? 被服部とか」
「あそこはギスギスしてて、いやな感じー。他にはー?」
なるほど、被服部はチェック済みだったか。
他の所はどうだろう。
活動内容を確認してえな。
俺は、部活探検同好会特製リストを広げると。
「なにこれー。見てもいい感じー?」
「いいよ、別に。えっと……、他には……」
「あ! ここいい感じー!」
「え? 早えな」
洋服系の部、そんな最初の方にあったっけ。
俺は、夢野さんの小さな指が押さえる部活を確認したんだが……。
「木工部かい!」
「なんか作る部よねー?」
「そういう作りたい!?」
服じゃなくていいのかよ。
だったらファッション部とか入るんじゃねえよ。
他にいくらでもあるわ。
呆れる俺を捨て置いて。
急きょ、目的地変更。
秋乃は、夢野さんの手を引いて。
木工部へ連れて行っちまった。
…………そして。
秋乃の善意。
クラスメイトに、興味があるという部活を薦める積極性を。
心の中で褒めていた俺は。
バカだったと後悔する。
「お前がやりたいからじゃねえか」
「わ、私は、ただのついで……」
「木くずだらけじゃねえかワンピース。目一杯楽しんでんじゃねえかワンピース」
丸一日かけて作ったのに。
台無し。
そんな秋乃が。
手にした作品。
「寒そうだったから……。上着作ってみた……、よ?」
「そうな。途中から気づいてた」
木片を、切って貼って。
木工部の皆さんを唸らせたその品は。
「……びっくりするほど体にピッタリ」
どう見てもロボの上半身。
でも。
「後ろ半分だけでどうする。まあ、前があっても嬉しくも何ともねえが」
「前半分は、あたしが作った感じ―」
「力作っ!」
二人がかりで作った俺の上着。
アンテナみたいな棒が二本突き出した、秋乃の角ばった作品と対照的に。
夢野さんの作品は、丸みを帯びた流線形のロボボディー。
瞬間接着剤で秋乃の作品とくっ付けられて。
俺の変身は完了したんだが。
「うはははははははははははは!!! これは何だ! これは!」
「ミサイル出る感じー?」
そうだな。
俗に言うなんとかミサイルが。
二発でる感じー、だな。
でも。
そうだとすると。
「これは、レディースです」
「えー? だってー」
「たつ、保坂君、ワンピース着たかったみたいだから……」
「これがワンピだったら下半身まる出しだわ」
ロボに下半身いらねえってか。
「まったく……。で? これ、どうやったら脱げる?」
そんな俺のつぶやきは。
秋乃が手にした糸鋸を目にした途端。
自分の絶叫にかき消されることになった。
……
…………
………………
「……夢野さん、ここ、気に入った?」
「ううんー? 微妙な感じー」
ここまで遊びつくしておいて。
期待に胸を膨らませていた部のみなさんを、平気でばっさり切り捨てる。
そんな彼女に。
秋乃は、もっといい部活を紹介すると。
鼻息荒く宣言しながら。
リストを片手に。
部室をあとにしたのだった。
……今日。
帰れるかな。
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