オルゴールの日
~ 十一月十日(火) オルゴールの日 ~
※
同じ趣味
部活が抱える問題。
それを解決したいと。
今日も思い悩んで。
むむむと唸りながら隣を歩く。
意味も分からないまま。
部活探検同好会を継いだはいいが。
楽しさよりも。
苦悩が多い。
それもこれも。
リストに問題ありと書かれたとこしかまわってねえから。
当然だよなとようやく気付いて。
今日訪問したのは……。
「ここか」
部活棟の隅っこ。
プレートには『アンティーク同好会』。
六本木さんから託されたリストには。
問題なしと書かれているが。
その代わり。
活動内容の欄に。
『?』
と書かれた謎の部活。
早速ノックして。
扉を開けると。
二人の女子がおずおずと頭を下げて来たんだが。
それよりも。
「なんだこりゃ」
「すごい数……、ね?」
「気に入ったものを集めていたら……」
「こんなに集まって……」
先代が『?』と評したのも頷ける。
これはもう。
ウナギの寝床。
いや、部屋が細長いわけじゃねえ。
両脇に積み上げられた。
壁一面の木目調カラーボックス。
こいつのせいで。
部屋がウォークインクローゼットみたいなことになっている。
しかも。
「これ、アンティークって言っても」
「箱ばかり……、ね?」
「は、箱じゃないの……」
「オルゴールなの……」
同好会員。
二年生女子二人。
大人しそうな二人が。
まるで誰かさんのようにわたわたと。
オルゴールだということを証明すべく。
次々にオルゴールの蓋をあけ……、やかましいわ。
「分かった分かった。鳴らすんじゃねえ」
「そ、そう……?」
「これ、おすすめ……」
「増やすな。中華料理屋でメニュー全部一つの器に混ぜられたら代無しだろう」
「マーボラーメンは美味しい……」
「やかましい」
「ホイコーローチャーハンもなかなか……」
「いいから蓋を閉めろ」
まるで秋乃としゃべってる気分。
無表情なのにおどおどとして。
おどおどしてるのにずけずけと喋る二人が。
俺にも分かる、見た目が美しいオルゴールの箱をいくつか抱えて。
じっとリアクションを待っている。
「…………ああ、そうな。確かに魅力分かる」
「そう? どれが気に入りましたか……?」
「えっと、あんたが持ってる右の方」
「開ける?」
「開けんな」
メンバーは二人だけ。
その二人ともオルゴールが好きだから。
看板はそのままで。
中身はオルゴール同好会になってるってわけだ。
「……そういう事もあるのか」
「でも……、これは構わないよ、ね?」
構わない。
そう語るってことは。
構うような問題だったら。
解決しようとしてたのか。
部活探検同好会の閻魔帳。
全クラブを網羅したリストに書かれた。
問題や危機についての情報。
そんなものを託されたから。
俺たちは。
問題を解決するのが。
自分たちの義務のように感じていたのかもしれねえ。
多分。
そうじゃなくて。
この人たちみたいに。
楽しむために。
俺たちも活動するべきなんじゃないのか?
「アンティーク、では、無いかもだけど……」
「これが好きなの」
「は、はい。私も、素敵だと思います……」
「どれが好き?」
「えっと……、これ、とか?」
「開ける?」
「開けなくていいです……」
先輩方の押し売りを柔らかく受け流して。
棚の一つ一つをゆっくり眺めて歩く秋乃。
その微笑は、いつもの仮面じゃなく。
心から楽しんでいるように見える。
そのうち、ひとつのオルゴールを。
ため息と共に手に取ると。
「こ、これ……。素敵です、ね?」
そんな言葉と共に。
先輩方を笑顔にさせた。
「あたしたちの、一番のお気に入り……」
「あなたも気に入ってくれて、嬉しい……」
飴を焦がしたような風合いの小箱は。
天使が舞い踊るレリーフも実に繊細で。
秋乃じゃなくとも。
この二人じゃなくても。
誰だって、ずっと見つめていたくなる。
そんな品だった。
「……部活探検って看板掲げてても、七不思議の調査したじゃねえか」
「え? …………そっか」
急な話でも。
こいつは、意図を正しく理解してくれる。
看板なんて関係ない。
大切なのは。
中身。
「オルゴールも、同じ……、ね?」
「なるほど。上手いことを言う」
オルゴールの中身。
メロディーを奏でる部分は。
取り換えが利く。
「ケースに似合う曲は、手にした人次第ってことだな」
「そう、ひと、それぞれ。あたしたちは、その曲が似合うって思ったの……」
「静かな名曲……」
そんな言葉に促されるように。
秋乃が飴色の蓋をゆっくりと持ち上げると。
厳かな赤いビロードには。
メノウがいくつも並んでいて。
そして優しく耳朶を打つ。
静かな名曲。
佐渡おけさ
…………笑いてえ!
でも笑ったりしたら。
うっとりしてる三人に叱られちまう。
春姫ちゃん直伝。
腿つねりでなんとか堪えたが。
ひと、それぞれって言ったって。
お前らのセンス。
変。
うっかりすると噴き出す。
必死に笑いをこらえていると。
秋乃が、ようやく蓋を閉じて。
そして二人に話しかける。
「作ることは……、しない、の?」
「作るセンス、無いから……」
「興味、ないから……」
どうしてそんな質問したんだろう。
俺には意図が分からなかったが。
秋乃は黙って。
肩を落としてる。
…………あ。
ひょっとして。
実はお前も。
佐渡おけさはねえって思ってて。
いつもみたいに。
勝てるお返しを考えてみたけど。
思いつかなかったからがっかりしてる?
「……まあ、諦めろ。これには勝てん」
「仰る通り……」
やっぱそうだったか。
秋乃は、しょんぼりしながら。
オルゴールを棚に戻して。
「写真、撮っても?」
先輩の了承を得てから。
携帯を取り出す。
……高校生にしては。
シックな意匠の携帯カバー。
かつて、俺も目を奪われた品に。
先輩二人も興味津々。
そして、奏でられた着信音を聞いて。
二人は感動の余り。
口に手を当てて瞳を潤ませる。
……その着メロ。
阿波踊りのヤツ
「うはははははははははははは!!!」
お前。
この同好会にも勧誘されそうだな。
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