第9話 誤解と後悔

 『あの〜メリクルスさん?』


 「ん何にぃ?」


 『そろそろやばいです…』


 「ん何がどう…やばいのかなぁ?」


 小太郎は身体の底から湧き出てくる熱気を必死に堪えた。


多分、このままの状況が続いていたら完全に理性崩壊ノックアウトしていただろう。


 「まぁ…やっぱりこうなったか。」


 『メリィ〜助けてぇ。』

 

 間一髪でバスタオルを首から下に巻いたメリィが、メリクルスを引き剥がした。


 「んもぉ〜、やめてぇ。んいいとこなのよぉ〜。」


 『本当危なかったよぉ。

ありがとうメリィ。』


 小太郎は湯船から出て、メリィに握手をしに行った。


 「すみません……。」


 『はい?』


 「ー!」


 『ブフうふぇっ!!』


 メリィは全裸の小太郎を足蹴りで、銭湯内の石壁めがけ蹴り飛ばした。


 「変態スケベ勇者。」


 『いてててぇ…それはないよぉ。』


 「これくらいしないと、にゃんころは何を仕出かすか。」


 『俺はにゃんころじゃねぇよ!』


 「そうですか…。」


 メリィは颯爽とメリクルスを担ぎ、銭湯から去っていった。


 『俺はご主人様じゃないのかよっ…ったく。』


 小太郎は貸切の銭湯を一時の間、満喫する事にした。

そして、キリのいい頃合いで銭湯を後にした。


 『いい湯だったなぁ〜。風呂上がりといえば…』


 風呂上がりには、やっぱりこれだという飲み物がある。


勿論言わずと知れたことだが、異世界であるブリテンに存在するのか。


まず、牛くんとコーヒーチェリーがあるだろうか。


 『あれは!』


 小太郎は脱衣所の洗面台の側にあるガラス張りのショーケースを見つけた。


 早速、内容物を確認すると、例のものがあった。


 『これはまさに、ではないか!』


 お金を徴収する貼り紙もない。


ショーケースの中の牛乳瓶には、なぜか昔懐かしいラベルが巻かれている。


 実際に手に取ってみると、幼い頃親父とよく飲んでいた商品とよく似ている気がする。


 『ごくっごくっごくっ…っかぁ〜!』


 小太郎は周囲に警戒しながらも、コーヒー牛乳らしき物を飲んだ。


 やっぱりこの味だよなぁ。

シメの一杯はこれに限る。

しかし、何かを感じるのは気のせいだろうか。


 「うわぁぁ…勝手に飲んでる!」

 『ぎくっ!』


 小太郎は持っていた瓶を、背後から見えない様に慌てて隠した。


そして後方に振り向くと、いかにも腕白そうな、少し長耳で銀髪の少年がいた。


 「ふしんしゃが勝手にヒヤク飲んでるぅ!」


 『見られてました?』


 「ふしんしゃ、ふしんしゃ〜!」


 『勝手に飲んだの謝るから…っね?』


 「メリィ姉ちゃんに言いつけてやる!」


 『ま、ま、待ってくれ…って、弟?』


 小太郎をよそに、銀髪の少年は勢いよく走り去ってしまった。


 『どう言い訳しよう…大人なのに面目ない。』


 小太郎はとぼとぼと、用意されていた寝巻きに着替えた。


 


 


 


 

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