第6話 ラカド村③

 はてさて、嫁が急に3人になったわけだが…

俺に愛はあるのか?

「お付き合い」をすっぽかして結婚してしまった。

俺はチーレムを目指しているのは間違いないが、愛がないのはよくない。と思う。

というわけで、今日は愛を確かめに行きたいと思います。


 ちなみに俺たちはまだラカド村にいる。旅に出る準備を進めているところだ。

急ぐ旅でもないので、ゆっくりしている。

 俺自体は暇なので、また魔物が来ないかの見回りだ。【千里眼】を常に発動しているので、遠くまでばっちり見えている。3人の嫁がどこにいるかも手に取るようにわかる。



 まずセレナに会いに行ってみる。

我が妹よ。といっても、妹という実感は薄い。記憶にはあるのだが、転生してからの妹歴しかない。


「あ、お兄ちゃん、お疲れ様です。見回りですか?」

「まあ、そんなようなもんだ」


 洗濯物を干しているセレナ。うん、小動物可愛い。少し背が低めなので、背伸びしてシーツを広げている。

 ふむ、なぜこんな優しい女の子が、ヤンデレになってしまったんだろう。

俺じゃない頃のヒデルよ、何をしでかした。


「な、なんですか?そんなにじろじろ見て。顔に何かついてますか?」

「いや、なにもついてないよ。とってもかわいい顔してると思うよ」

「きゅ、急になにを!あ、ありがとうございます!」


 アレ?なんか耳が赤いぞ。

風邪かな?

ふと、思い出した。

俺、ラカド村に来るのに必死で、生き返ってからセレナに手を出してない。

この時間軸では、セレナは嫁でもなんでもない!

ただの妹だ!どうする!

とりあえず落ち着こう。

作業しているセレナを後ろから抱きしめ、つむじを思いっきり吸う。

くは~、麻薬的な匂いだ。空も飛べそう。

よし、落ち着いたぞ。


「ななななな、なにをするんですか~!」


 しまった。つい、自然な流れで吸ってしまった。

落ち着いた俺とは裏腹に、セレナの顔は真っ赤なリンゴのようになっていた。


「こうしたら落ち着くんだ。ずっと吸っていたい」


 言い訳してみる。


「そ、そういうのは、お嫁さんにしてください」

「セレナだから落ち着くんだ。許してくれ」

「そそそ、そうですか、なら仕方ないですね!」


 よし、許可を得たぞ。

うん、セレナがいないと落ち着かない。

きっとこれは愛だ。間違いない。


洗濯物が進まないというので、離してセレナと別れて歩きはじめる。

さあて、次はどうしようか。


「あ~な~た~!!」


ドス!

小さな衝撃が腰を襲う。


「何してるの~?ミカと遊ぼう~?」


 ミカ。8歳だ。赤毛を肩辺りでまとめている。姉そっくりのそばかすがキュートだ。そして天真爛漫なのはいいことだ。

日本にいたころと違い、この世界では結婚に年齢制限みたいなものはないらしい。だからセーフだ。

 しかし、ミカとはまだ会ったばかりだ。愛って難しいね。

俺はミカを肩車して歩き出す。


「おお~、あなた、とってもいい眺めだよ~」

「ヒデルって呼んでくれよ。肩車してほしければいつでもするから安心して」

「ヒデルね、優しい。パパみたい」


 パパちゃうねん。旦那やねん。

エミとミカには父親がいない。ミカが5歳くらいの頃に死別している。


「お、そしたら旦那じゃなくてパパになってやろうか?」

「え~、やだ。ミカ、お嫁さんがいい。」


 そうかそうか。

なんか父性が出てきそうだ。


しばらく歩いて、エミとミカの家までたどり着く。

ちょうど馬車に荷物を載せているエミがいた。


「あ、ヒデル、ミカをお世話してくれてありがとう」

「お嫁さんなんだから当然だろう?」

「そ~だそ~だ!お嫁さんだ!」


 ブーブー言うミカに対して、エミが

「そういえば村長さんがミカを探していたわよ?なにしたの?」

「あ、忘れてた~。ちょっといってくるね」


俺の顔に覆いかぶさるように身体をまげて唇にキスをするミカ。

意表を突かれて驚く俺の肩から空中で一回転して地面にスタっと降りる。

え、なんて運動神経してるんだ。ミカ、侮れない!


「じゃ~ね~!ヒデル、またあとでね~。」


パタパタと走っていく後ろ姿を目で追う。

キスされちゃった。なかなか小悪魔な子だ。将来が心配だ。

ヤンデレ妹に小悪魔娘。う~ん。俺は尻に敷かれるだろうな。


「旅の準備、整ったよ。いつでも出発できるよっ」


 エミ。赤毛のロング。年齢は二つ下。

笑顔がまぶしい美人系だ。パンツスーツとか似合いそうだな。眼鏡アリがいいな。

幼馴染なのだが、記憶にあるだけで今回の件で初めて会ったからな。

愛…わからん。


「なあに固まってんの?お嫁さんになったけど、いつも通り接してよね」


 そのいつも通りがわからんのだよ。

ところがスッと近寄って抱き着いてくる。


「邪魔者もいなくなったし、うち、寄ってく?」


 ふぁああああああ!

腰に回ってる腕が強く締まってる。

グイグイ来る系だこの子!

このままだと食べられちゃう!


「まままま、まだ日が高いから!夜ねっ!見回りの途中だから。」

「ふふっ冗談よ。ヒデルは可愛いんだからっ」


 じょ、冗談か、ふう。

で、でも、キスくらいいいかな?

こちらを見つめてる青い瞳。吸い込まれそうだ。

そっと目を閉じ、唇に唇を近づける。

ふにっとした感触。

こっそり目を開けてみる。


「ざんねーん、指でした~」


 そうですか~。指ですか~。でも柔らかかったからアリかな。


「見回りいってらっしゃい。」

ハグを解かれて背中を叩かれる俺。

あかん、こういうもったいぶらせ方…惚れてまうやろ?



 うん、三人とも、大事な嫁だわ。

愛、かどうかわからんけど、好意は確かだ。


明日からは大きな街に向けて出発だ。

早めに寝よう。





続く












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