第5話 ラカド村②
「はッ!ここはどこだ!」
目を覚ますと辺りは月明りで照らされていた。
ラカド村はどうなった!?
俺はいったいいつからリスタートしたんだ!
「お兄ちゃん?そんなとこでなにやってんの?」
俺にもわからない。今はどのタイミングなんだ?
「お兄ちゃん?外寒いから早くお家はいろ?」
あ、あの転生課のオンナ!やりやがったな!
これ、完全に、「1から」じゃねえか!
「セレナ、俺にはわかる。ラカド村が魔物に襲われるみたいなんだ!俺は助けに行きたい!」
「え?そうなんですか?そ、それじゃあ、村長さんにも話して、応援を呼ばないと!」
ダメだ。それじゃ間に合わない。
「時間が惜しい。俺は今から出発する。応援を呼ぶのはセレナに任せる!出来る限り早く来てくれ!」
言いながら、駆け出す。
今から走れば、あの火事が発生する前に着けるはずだ!
俺は【魔法能力】がある。
ラカド村までの距離をどう詰める?
【身体強化】を使用する。これで足が速くなった。
【フライ】?飛べないか試したが、これは効果がなかった。
【ジャンプ】は使用出来た。脚が光り、10メートル級の大ジャンプができるようになった。
今は【身体強化】と【ジャンプ】でなんとかしよう!
俺は生前、帰宅部だった。マラソンなんてまともにやったことがない。
でも今は、向かい風を受けて景色が瞬時にかわってゆく。
気持ちがいい。走るとこんなにすがすがしいんだな。
全力で走ったので、ラカド村までの行程を1日たらずで踏破できた。
夕日がまさに隠れようとしていた。
やっぱり運動はすべきだったな。ハアハアと息が上がる。
「あれ?ヒデルくん?どうしたの?そんな汗だくで」
赤毛にそばかす顔。間違いない。エミだ。
よし、間に合ったぞ!
「エミ、落ち着いてきいてくれ。この村に魔物の群れが向かってきてる。すぐに村のみんなを避難させるんだ」
「え?ちょ、それ、ホントなの?」
「ああ、信じてもらえないかもしれないけど。ここに来る途中見ちまったんだ」
「わかった。みんなに声かけてくる」
よかった。これで信じてもらえなかったらどうしようかと思った。
数時間後。夜も更けた。住民は俺と妹がいた村へと避難し、ラカド村には俺一人となっている。
村の物見やぐらに登り、遠くが見える【千里眼】の魔法を使って辺りを警戒していると、ついに魔物の一団を見つけることができた。
松明を掲げ、まっすぐこちらへ向かってくる。
さて、俺の魔法がどこまで使えるのか。
転生課のお姉さんにチート能力を頼んだんだ。
ここで試させてもらう!
俺はその場で弓を構えるように魔物へと狙いを定め、
【ファイアアロー】
瞬時に身体を炎が包み込むと、弓の形に変化し、燃え盛る火の矢が番えられる。
ふっと一息、矢を放つ。
一筋の光は魔物の中で一番大きかったオークに刺さり、どさりと倒れて動かなくなった。
よし!これならいける!接近戦には不安が残るので、出来る限り遠距離で戦いたかった。
【アイスアロー】!
同じく氷の矢の一撃がゴブリンに刺さる。
魔法の知識がもっとあればよかった。技名と効果がわかれば、もっといろんな魔法が使える気がする。マジックポイントというべきか、魔法を使うための魔力も全然減っていない。
攻撃されたと判断した魔物たちは、雄たけびを上げて迫ってくる。
だが、遠い!
俺は【ファイアアロー】と【アイスアロー】を連射して、ついにはすべてを打ち倒した。
念のため、そのまま朝まで警戒したが、それ以上は来襲する感じではなかったので、一安心した。
オーク5匹、ゴブリン20匹。
今回倒した魔物の数である。こんなちっぽけな村に来るには多すぎないか?
だけど、まあ、村も無事だったし、いいとするか。
ホッとしたら疲れたけれど、村の人たちに知らせないとな。
「このたびは村を救ってくださり、ありがとうございました」
ラカド村の村長さんが、くしゃくしゃの涙と笑顔でお礼を言ってくれた。
エミも村も守れたし、俺のチートな魔法力も試験することが出来たので、成果は上々だ。
「なにかお礼をしたいのですが」
お礼か。考えてなかったな…。あ、でも、そうだな。
「なら、馬車が欲しいです。それと、馬車を引いてくれるエミ」
「な、なんと、よろしいのですか!?」
「え?なんで?」
「いえいえいえ、こちらとしては喜ばしいことでございます。おーい、エミ」
エミが笑顔でパタパタと駆けよってくる。
「なんですか?村長さま」
「エミ、ヒデルさまは馬車とエミをお望みじゃ。ゆえにこれからお前はヒデルさまの伴侶である。よくよく尽くすのじゃぞ」
「承知しました。このエミ。誠心誠意頑張ります。」
ん?いまなんて?
「ヒデルさまが馬車と引手であるおなごを選ばれた。村の風習では、これは結婚の申し出なのですじゃ」
マジかよ!
そういうつもりじゃなかったけど、たなぼただな!
「そそそ、そういうことだから、エミ、よろしくな?」
どもる俺、カッコ悪い。
「あ、でも、心配なことが一つ…」
エミの顔が曇る。
え、なに?俺との将来が不安とか?
「私がいなくなった後の妹のことが心配で…」
「そっか、妹ちゃん…名前はなんだっけ?何歳なの?」
「ミカだよ、まだ8歳なの。」
少し遠くでみていた女の子がこちらを不安げに見ている。
「わかった。なら、ミカちゃんも一緒についてくるといいよ」
「え?いいの?」
「残していくのも心配なんでしょ?俺に任せてよ。」
「ミカ、こっちおいで。ヒデルが旦那さんになってくれるって。」
「お兄ちゃん、旦那さん?」
ちょっとまって。急に嫁が増えたぞ?
まあ、いっか!
なんとかするって言っちゃったし!
「ちょ、ちょっと待ってください!」
村長たちとともに合流していたセレナが挙手した。
「お兄ちゃんと呼んでいいのは、私だけです!」
うわ、8歳の女の子に対抗心燃やしちゃったよ!?
うーんとミカちゃんは唸って一言。
「えーっと、じゃあね、「あなた」ね!」
あ、あなた…。8歳にあなたといわれる禁断の果実。
お、俺は断じてロリコンじゃない!巨乳のお姉さんがタイプだ!
だが、俺の大望はハーレムだからな!来るもの拒まずだ!
こうして、ラカド村を救った俺は馬車と2人の嫁を手に入れました。
続く
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