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『今SNSで話題の、驚愕のスケボーダンス動画がこちら!』

テレビからそのような声が聞こえる。ギャル系のモデルや、お笑い芸人がかわるがわるワイプに映り、驚いた顔や手を叩いて笑う様子を見せた。俺は歯を磨きながら、画面をぼんやりと見ていた。テレビでSNSの動画流して、それを出演者が見て、それをさらにテレビで見せるのかよ。独り言にするには長いので、頭の中で思った。

まあ俺も、足を止めてるんだけど。

スケボーを使って華麗に踊っていた男の人の動きが止まると同時に、ガシャンと画面上に幕が下りる。そんな演出だった。


「桐田もう決めた?ゼミ」

後期から始まるゼミのガイダンスで、高校時代からの友達である河野と会った。お互いガイダンス以降授業がなかったため、学食で一緒に昼食を食べることにした。

「やー もうちょい迷うかな」

「俺も」

河野はAセットの台湾まぜそばの麺をほぐしている。

「辛いのいけんの」

「いや わからん」

「そうなんだ」

食べられるか不明なまま選んだようだったので、俺は少し笑った。

「そういえば彼女とはどうすか」

学食の入り口に運動系のサークルが大人数で入ってきて、騒いでいる。

「先月別れたよ」

「えっ

 結構長かったよな」

「まあ、高校からだからな」

河野の彼女は俺の同級生でもあり、何度か話したことがあった。記憶では、吹奏楽部で、副部長をしていたと思う。

「高校と大学って全然環境違うし、定期的に会っててもなんかずれていっちゃうんだよな。しょうがないけど」

河野は麺をすすりながら、けっこう辛いな、とつぶやいた。

さみしげに語っているが、何かひと段落ついたような表情にも見えた。

俺がぼーっとしている間にも、人生の転機を迎えている奴がいることを知った。

「陸は?」

「俺はこのざまですよ」

河野が俺の言葉に笑った拍子に、香辛料が喉に詰まったのかせき込んだ。

「大丈夫か」

涙目になりながらも河野は手を前に上げて俺に無事を伝えた。

大学に入学したての頃や学年が上がるときなど、学生生活の節目に合わせて知り合う人が増え、その時に彼女ができることもあった。その時はそれなりに楽しく過ごすのだが、気づいたら一人に戻っていて、別れた理由もあまりよく覚えていない。河野の一件を聞いてからだと、自分がとんでもなく薄情な人間に思えてきた。そして、思わず言った。

「俺地獄に落ちるかもしれないわ」

「なんだよ急に」

目の前の台湾まぜそばの赤いひき肉が、地獄の釜のような色をしていて、今の俺には何かのメッセージのように感じられた。


「もおーーー、おれは、ひとりで、いきていく!」

ろくに回っていない呂律で、大声で叫ぶ河野を背負いながら、俺は駅への道を歩いていた。

『相席居酒屋、行かない?』

河野が突然誘い出したのだ。

初対面の人間と話すがそこまで得意ではない俺にとって、そんな場所に自ら赴くことは時間の無駄以外の何物でもない。現に大学に入学したての頃、新しくできた友達に連れられて行ったが、かなりエネルギーを消費した。河野は「ノリだから」と言い張りつつも、真剣としか言いようがないまなざしで俺を半強制的に店に連れ込んだ。にもかかわらず、自分が酒に弱いことを忘れて酔いつぶれ、同席したOLたちに涙ながらに元彼女との思い出を語り、その挙句俺に引きずられて店を出たのであった。

普段はほとんど怒ったりしない河野が荒れているのは、珍しい。

「ちくしょーーーーー!!」

「やっぱ新しい出会い求めてたんじゃん」

俺は思わず本音を口にした。高校からの付き合いだから、多少はいいだろう。

「りくもおれも じごくいきだーーー!!」

「二人ともかよ」

顔を真っ赤にして叫ぶ河野を見て、飽きれながらも少しうらやましいような気がした。

すごく、人生を生きている感じがする。

(俺は俺で生きてるけど)


「げっ」

アパートのドアの前で、思わず声が出た。

河野の介抱をしている最中、家の鍵を落としてしまったようだ。久々の危機的状況に、じわじわと心が焦り始めているのがわかる。俺は廊下に停めていたクロスバイクに跨り、夢中で元来た道を辿った。

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