第39話 やっぱりスペルさんは面倒な人でした。

国境に魔物のスタンピードが発生したという知らせを受けて、とりあえず俺は現場に向かう。


風魔法でひとっ飛びだ。


国境を少し越えたところで、魔物の大群が見えてきた。


熊とかトカゲだとか犬や虎、尻尾が蛇のライオンもいるぞ。


どいつもやたらとデカい。


小さいやつはデカいやつに踏み潰されるから、大きいやつばっかで当たり前か。


いや小さいのがひとり剣を振り回して魔物達を食い止めているぞ。


しかもこの状況で高笑いしてるじゃないか。


もしかしてあれがスペルさん?


いや間違いないだろう。


でも、高笑いの割には状況は悪そうだ。


森の中にある道は幅5メートルくらい。いくら剣の達人とはいえ、後ろに逃がさないように魔物を食い止めるのは至難の業だろう。



俺はスペルさんの近くに飛んで行って声を掛ける。


「アルマニ領のヒロシと言います。


大変そうですねー。お手伝いしましょうか?」


スペルさんは俺をじろっと一瞥して言う。


「おお、アルマニ領の新領主ヒロシ殿か。


俺はインディアナ神国のスペルだ。


助力助かるぞ。楽しいんだけど、こんなに数が多くちゃ、いい加減ウンザリしていたんだ。ガハハハー。」


やっぱりやばいやつだった。


「じゃあ、俺は奥の方からやっちゃいますね。」


この世界に来て最初は魔物に恐怖感があったけど、人間の慣れって恐ろしいものだ。


そりゃこんだけの数がいたら、ちょっとは怖いけど、特に不安は無い。


俺は風魔法で宙に浮くと気配遮断の結界を身体に纏わせる。


スペルさんの前方30メートル、魔物の隊列の真っただ中に移動し、さあ狩りの開始だ。


まずは1匹、近づいてファイヤニードルで一撃。


この世界に来て最初に使った攻撃魔法だけど、これが案外効率が良い。


一回に必要な魔力量も少ないし、起動も早い。


至近距離に近づいて撃つ必要があるけど、俺には気配遮断があるし。


でも数が多すぎて、ええい面倒だ。


魔物達の少し上に移動し、上から1匹づつファイヤニードルを撃ち込んでやると、静かに魔物達が倒れていく。


密集しているので、少し位置をずらしながら連発していくだけの簡単なお仕事です。


ちょっと面倒臭いけどね。


前のやつが死んだのも分からず、その倒れた死骸につまづいてすぐ後ろにいる魔物が倒れ動きが止まる。


更に後ろから来たやつらがつまづいて、動きを止める。


やがて俺の目の前にいる魔物達の動きが完全に停滞したので、俺は風魔法ウインドカッターで幅5メートルほどの巨大な風の刃を飛ばし、止まっている魔物達、数10匹を一度に狩った。


前進してはウインドカッター、また前進してはウインドカッターと繰り返しながら魔物を倒していくと、魔物の最後尾に到達。


「ふう、これで終わりかな。」



もう前には魔物がいないので、気配察知を利かせて辺りを探る。


うん、大丈夫そうだ。


俺は気配遮断を解除し、スペルさん達の方に飛んで行った。


下には俺が倒した魔物がいっぱいで、本来なら回収したいところだけど、他国の人達がいる前で収納を使うのはよくないだろうし、ここはインディアナ神国内だ。


魔物を横取りしたと言われるのも嫌だし。


おっ、スペルさんも全ての魔物を倒したみたいだ。


部下の人達に指示を出して魔物を片付けさせている。


何人か魔法を使えるみたいで、火魔法で焼くみたい。


「スペルさん。焼くの手伝いましょうか?」


「おお、ヒロシ殿助かりましたぞ。しかし見事な活躍ぶりでしたな。戦っているところが全く見えなかったのに、ドス!ドス!と魔物が倒れていく音だけが響き渡っておりましたな。


しかも、こんなに早くあっという間に数100匹を倒してしまうとは!



いやはや、噂以上の力をお持ちですな。これは対戦するのが楽しみだ。ガハハハハ!」


いやいや、あんたは使者でしょ。俺と戦いに来たわけじゃないでしょ。


盛大に突っ込みたいのを我慢し、俺はインディアナの魔法師達に交じって魔物を焼き払いだした。



あらかた片付いたのでスペルさんのところに戻ると、小太りのおじさん3人がスペルさんの近くで何やら話している。


どうやらあれが今回の使者である議員さんみたいだ。


俺の知っている議員タイプの人達で良かったよ。


皆んながスペルさんみたいだったらどうしようかと思った。



「「「おおー、あなたがアルマニ領新領主のヒロシ様ですか。危ないところ助勢頂き助かりました。」」」


もみ手をするみたいに手を動かし、『いやー凄かったなあ』とか『これはアルマニ領の発展が楽しみだ』とか口々に言っている。


さすがは口八丁の議員さん達だ。分かり易くて嬉しい。


まあ、スペルさんも別の意味で分かり易いが。


いちおう気配察知を強めてみるが、悪意は感じられないので裏表の少ない人たちなのだろう。


根付いた信仰心と安定した国内情勢がこういう素直な性格にしているのかも。


「さあ、一緒に参りましょうか。」


倒れた馬車を起こし、散らばった荷物を積みなおして移動の準備が全て整った使節団を見ながら俺は使者の皆さんに声をかけた。



お城までの道すがら、スタンピードの発生時の状況などスペルさん達に聞いてみるが、よくわからないとのこと。


突然小さな魔物が襲ってきたと思ったら、それを追いかけるようにだんだん大きな魔物がやってきたそうで、何故そうなったかまでは分からないみたい。


逆に俺も聞かれたんだが、最後尾にも特に何もなかったから、俺にも皆目見当がつかない。


やがて国境をまたぎエレクトス王国アルマニ領へ。


ようこそアルマニ領へ。歓迎いたします。


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