アルマニ領で領地経営

第38話 セバスさん大変です。

アルマニ領はエレクトス王国の西端にあり、領地の半分がスワリング教国、インディアナ神国、ジーポン王国に接している。


この4国が接する辺りの地は肥沃な土地でこの地を巡って争いが絶えなかったそうだ。


はるか昔、この地には30ほどの小規模な部族が存在し、小競り合いを繰り返しながらそれぞれがこの地を統治していた。


500年ほど前、インディアナと呼ばれる小さな部族にひとりの男がやって来る。


彼は傷付いた者を回復させる不思議な力を持っていた。


彼が何処から来たのか誰も知らない。


ただ、最も危険を伴うはずの戦場のど真ん中にいるにも関わらず、自らは傷付くことも無く、怪我人を次々と回復させる彼の力は、インディアナの民を心腹させるには充分であった。


彼の力により、傷ついても次々と立ち上がるインディアナの兵士達は、その圧倒的な人数不足を補うかのように次々と戦線復帰し、次第に戦を有利に進めて行く。


やがて、弱き部族は亡び統合され、最終的に4つの部族が残った。


もちろん、強大な3部族と共にインディアナの民もそこにあった。


残った4部族はこれ以上の争いは自らを滅ぼすことを知っていた。


そしてそれぞれの部族長が集まり、講和することとなる。


この地は4つに分割され、国となった。


インディアナの民は、この平和を齎した彼のことを神と崇め、彼を王として敬った。


彼もまた善政を行い、民の安寧を計った。


こうして、インディアナ王国が誕生したのである。



「ヒロシ様、ヒ、ロ、シ、 様、しっかり聞いておられますでしょうか?」


アルマニ領に来て1週間。


歓迎式典や貴族や大商家の挨拶などあり、すごく寝不足な今日この頃、明日はインディアナ神国の使者が来るということで、ステファンさんからインディアナ神国に関する講義を受けている。


「聞く気はあるんですよ。ただ、瞼がね。」


少しひねくれた話し方になってしまったが、勘弁して欲しい。


「たしかにこの1週間はお疲れ様でございましょう。


でもあと少しだけ聞いて下さいね。


それでインディアナ王国なんですが、善政はその王(初王)が亡くなるまで続き、他の強大な3国に匹敵する経済力を持ちます。


その後、初王の子孫が善政を引き継いでいくのですが、4代目の時に問題が起こります。


4代目はジーポン王国から妃を娶ったのですが、この妃が王家に内紛を起こします。


第3王子である自分の息子を次期王位につけようと、上のふたりの殺害を画策しました。


結果、第1、第2王子は殺害され、件の第3王子も第2王子の側近に刺し違えられ死亡することとなりました。


そして、残った第4王子が王位継承者となったのですが、彼は王位に就く事を拒否したのです。


彼は王政を廃止し国名もインディアナ神国と改めます。


そして自らは司祭と名乗り、政治の舞台から降りて粗末な教会で初王を祀り、生活弱者を中心に施しを授けていきます。


また政治は民衆による合議制に移行させました。


再び安寧を取り戻したインディアナ神国はその後約400年に渡り、合議制による政治が続いております。


明日使者として参りますのは、その合議制を司る議員50名のうち3名でございます。


なお、インディアナ神国には教会を守るための神軍と呼ばれる軍隊があり、議会の不正を取り締まる役割を担っておりますが、その神軍の隊長も使者の護衛兼使者として来られる予定です。」


「その口ぶりだと、神軍の隊長が今回のキーマンってこと?」


「よくお気付きです。

そうです、神国と言われるくらいですので、初王に対する信仰はかなりのものです。


おそらく人口の9割以上は熱狂的な信者だと思われます。


当然教会の力も絶大で、議会の決議も最終的には大司祭から発せられる初王の神託により最終決定されることになります。


もちろん、教会が議会の決議に反論することは少ないですが、教会が否定した決議は、一部の特権階級のみ利益を享受するものなど、問題のあるものばかりだったそうで、それが更に教会の権威を高めているのです。


そして、神軍の隊長は現大神官の弟であり、潜在的に持つ権力は、議会全体よりも強いと言われています。」


なるほど、その隊長と誼を取っとけってことか。


「ステファンさん、分かったよ。

で、彼らの目的は?


まさか、新領主の就任祝いだけってことはないだろう?」


「さすがはヒロシ様、ご理解が早くて助かります。


おそらくですが、用件は3点あると思われます。


1つ目は、定石通り就任祝いでございましょう。


他国に先駆けて、誼を取っておきたいということだと思います。

アリオ様の御子息との情報も当然持っていると思いますので、敵意の有無を判断したいのかもしれません。


2つ目は、ヒロシ様の能力についてです。


既にあちらの国でもヒロシ様が特殊な能力を持っておられることに気付いているでしょう。


可能であれば、その能力を知りたいと思っているはずです。


3つ目ですが、これが一番面倒だと思います。


おそらく隊長のスペル殿は、ヒロシ様の強さを知って、勝負を挑んで来ると思われます。


シルバーウルフの話は近隣諸国でも噂になっておりますから。


あの方の性格から言ってまず間違いないでしょう。」


なんて迷惑な奴。


まぁ、腹の探り合いをするよりはよっぽど分かりやすいが。


「勝っちゃ不味い?

負ける方が不味いよね。」


「そうですね。あの方に勝ったという人を見たことが無いので、勝った時にどういう反応をするのか分かりかねますが、引き分けたのは見たことがあります。


以前、王家魔法師団長のマリル様との一騎打ちで、引き分けになったのですが、それ以来彼はマリル様のことを親友と呼んで憚らないようです。


マリル様は嫌がっていましたが。」


全くもって面倒なやつだなぁ。


とりあえず、上手く引き分けに持っていくか。



翌日、朝早くに国境警備隊の隊員が、お城に慌てて駆けて来た。


「申し上げます。インディアナ神国の使節団御一行様、大量の魔物に襲われておられます。


どうやら、国境近くでスタンピードが発生した模様。


まもなく、魔物の大群が領内に侵入してくると思われます。」


それだけ言って、その隊員は気絶してしまった。

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