第37話 アルマニ領に行こう

セバスさんからアルマニ領の哀しい話しを聞いて、イリヤ王女様はすすり泣いている。


俺はもちろん、イリヤ王女様も生まれる前のことだし、アリオ様のことは知らない。

ただ、戦争やら魔物の脅威が日常的なこの世界では、ある意味感情移入してしまうのかもしれない。


平和な世界から来た俺にとっては哀しく遠い昔話で感情移入までいかないのだが。


それでも、アルマニ領を2度とそんな悲劇にさせないと、俺はひとり心に誓うのだった。


その後会場に戻った俺とイリヤ王女様が解放されたのは、日付が変わってしばらくしてからのことだった。


3日後、屋敷にいた俺はお城に呼ばれた。


そして正式に公爵に陞爵され、アルマニ領の領主となったんだ。


上手く騙されたような気がしなくもないけど、セバスさんから聞いたアルマニ領の悲劇を考えると、何か使命感みたいなものも湧いてきたし。


陛下や王妃様、イリヤ王女様と話しをして、今住んでいる屋敷はそのまま王都の別邸として置いておき、一旦アルマニ領に向かうことになった。


王女殿下の伴侶として新たに領主となる俺が、アルマニ領に入ることで、復興の進むアルマニ領に更なる活気が出るだろうとの考えからだ。


イリヤ様は一緒に行けないことを寂しがったけど、未だ向こうの受け入れ体制が整っていないだろうから、危険があるかもしれないからね。


王家騎士団から10人ほどが護衛について来てくれることになったし、屋敷からもセバスさんとサリナさんが来てくれることになった。


そして、それから1週間後、屋敷前に停まっている2頭立ての豪華な馬車に荷物を積み込み、俺達はアルマニ領に向けて出発した。


もちろん俺の膝の上にはタマの姿となったミーアが丸くなっているよ。


ちなみに馬車にはサスペンションを着けてある。


板バネなんだけど、鍛冶屋に無理を言って作ってもらったんだ。


何に使うかなんて説明してないよ。


だってラノベでも馬車のサスペンションってすごく驚かれるし、注目されるじゃない。


公爵になっただけでも目立って大変なのに、これ以上目立ちたくないしね。


舗装されていない街道でもほとんど揺れを感じさせないから、馭者やセバスさん達もサスペンションの効果に満足そうだ。


アルマニ領までは馬車で1週間の旅になる。


途中4つの街で宿泊し、3回の野宿。

道中3回盗賊団に狙われた。


3回ともあらかじめ気配察知で分かっていたから、気配遮断結界を全体に掛けて気付かれずに済んだけどね。


当然休憩時間にトイレに行くとか言って、サクッと壊滅させといたよ。


だって他の人達が襲われたら危ないからね。


民を守るのは領主の務めだよ。




屋敷を出てからちょうど1週間後、予定通りアルマニ領に入る。


領境の検問所では、アルマニ領の代官と警備隊長が出迎えてくれた。


「これはこれは、遠路お疲れ様でした。わたしはアルマニ領の代官職を預かっておりますステファンと申します。


こちらは警備隊長のマティスです。


ヒロシ様におかれましてはこの度の陞爵並びにイリヤ王女との婚約、誠に喜ばしく存じます。


また新しくアルマニ領の領主としてお迎えするにあたり、領民を代表して歓迎致します。」


「ありがとうございます。ヒロシ・デ・アルマニです。

わたしはお会いしたことがありませんが、亡き父に負けぬよう、良政を行いたいと思っておりますので、よろしくお願いします。」


「こんなご立派な御子息がおられて本当に良かった。


ヒロシ様、ご立派だったお父上の意思を受け継ぎ、このアルマニ領を昔のような豊かで繁栄した地にして下さいませ。」


陛下の考えられた設定じゃ、俺はアリオ様の隠し子ってことになってるからね。


ステファンさんもマティスさんも号泣しているよ。


ちょっと後ろめたいけど、しようがないよね。


「ごほん。お取り込み中のところ申し訳ありません。


わたくし、アルマニ公爵家の執事長を賜っております、セバスと申します。


公爵様におかれましては、長旅のお疲れが残っておられるご様子。


お城の方にご案内頂ければありがたいのですが。」


「こ、これはわたしとしたことが…


つい感動のあまり、我を忘れてしまいました。


では、早速ご案内させて頂きます。


ところで、セバス様とおっしゃられると、先王の時に侍従長を務めておられた前ユズル男爵様では?」


「ええ、今はヒロシ様の執事長ですが。」


「おお、王国始まって以来の天才と名高い前ユズル男爵様までご一緒だとは…


本当にこの上ない喜びだ。くうっ くっくっ ううっ うっうっ…」


おーい、また泣き出したよ。

いつになったらお城に着くんだろうか。





ステファンさん、マティスさんに案内されてお城に向かう。


領境の検問から15分ほど移動すると、舗装された石畳みの街道が見えてきた。


街道の両側には宿屋や食堂、飲み屋などが並んでおり、旅姿の人々が出入りしている。


更に進むと、城壁に囲まれた門が現れた。


ここからが城内になるようだ。


マティスさんが先に進み、門番に話しかけている。


馬車が到着する頃には門が大きく開けられ、警備隊のメンバーが整列している。


「旦那様、窓から手を振ってあげて下さい。」


セバスさんにそう声を掛けられて俺は窓から手をゆっくりと振る。


出来るだけにこやかに、そして威厳を持って。


俺なりに頑張ったんだけど、やっぱりぎこちなかったんだろうな。


セリナさんが苦笑してセバスさんに叱られていたからね。






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