第36話 アルマニ公爵家って悲しい過去があるみたいです

俺とイリヤ王女様の婚約披露パーティーは盛大に絶賛開催中である。


並んで立つ俺達の前には俺達にお祝いの言葉を言おうとする貴族達が長い列を作っていた。


かれこれ1時間以上もこうして立っているが、列は初めの半分にもなっていない。


単純に祝福してくれる者、嫉妬を隠しながら笑顔を向けてくる者、俺の出自に疑問を持ち遠回しに聞いてくる者、俺を完全無視しイリヤ王女にのみ挨拶する者など様々である。


俺は体力的には問題無かったが、精神的にはだいぶまいってきていた。


イリヤ王女様の方を見ると、笑みを浮かべてはいるものの非常に辛そうだ。


そこへ救世主の王妃様が現れる。


「ヒロシ様、イリヤ、少しお時間よろしいかしら。


皆さま、イリヤがお色直しするまで、しばらくお待ちいただけますでしょうか?


ヒロシ様も今日は朝から忙しくって何も召し上がって無いでしょう。


一緒に控室に行ってらっしゃったら?」


王妃様の機転でやっと解放された。


控室に戻った俺達は用意されているお茶と軽食を楽しむ。


ソファーに座りひと心地ついたのか、イリヤ王女様の顔色も少し良くなったようだ。


「旦那様、この度は公爵位をお受けになられお慶び申し上げます。


そして御両名のご婚約の儀、合わせてお目出度く存じます。


王妃様から小一時間はお休み下さいと言伝かっておりますので、しばらくはごゆるりとなされますよう。」


屋敷からセバスさんをはじめ数人のメイドさんが応援に来ている

みたいで、俺達を迎えてくれた。


俺はセバスさんに気になっていたこと、そうアルマニ公爵家について聞いてみる。


「アルマニ公爵様のことですか。

ええ、よく存じあげております。


アルマニ公爵様は前王様と特に親密にされておられましたから。


アルマニ公爵様、アリオ様と呼ばせて頂きます。


アリオ様は、今の陛下のお従兄弟に当たられる方で、先王様の兄君の第一子でございます。


アリオ様の父上は、まだアリオ様が幼少の頃流行り病で亡くなられ、繰り上げで王太子になられた先王様が、親代わりとして可愛がっておられたそうです。


アリオ様が幼少であることや家内の不祥事などが重なり、アリオ様には無役の男爵位を与えられ、アルマニ家の公爵位は一旦剥奪となりました。


アリオ様18歳の成人の折、既に王位を継承されておられた先王は、アリオ様に対し公爵位を陞爵され、アルマニ領を下賜されました。


アルマニ領は肥沃な土地が多く、他国との交易も盛んなエレクトス王国でも有数の場所でした。


アリオ様はお父上同様、非常に才覚のある方で、様々な農作物の開発をされて農業生産力を高めたり、輸入に関する関税を安くして他国との交易を増やし商業を発展させたりと、アルマニ領の発展に大変貢献されたと聞いております。


その功績は他国にも伝わり、先王は次の王にはアリオ様をとも考えられていたようです。


そして10年ほどの時が流れ、ついにあの事件が起きたのです。


アルマニ領は、近隣諸国と3方接する『国境の地』に当たります。


先王は争い事を好まない穏やかな方でしたので、隣接する3国とは上手く付き合っておられました。


お互いの王家が交流するなど、一見なんの問題も無かったのです。


ところが、ジーポン王国で新たに軍務卿となったヒルデラが、なんの前触れも無く大軍を率いてアルマニ領を攻めたのです。


アルマニ領にも備えが無かったわけではありません。


しかしながら、アルマニ領を囲む残りの2領も参戦してきたため、アルマニ領内での戦いは凄惨を極めました。


なんの武力も持たない商人や農民を先に逃がしながら、アリオ様は奮闘されたそうです。


アリオ様が城外で奮闘しておられる間に、ヒルデラは城に攻め込み、奥方とふたりの幼な子は囚われの身になります。


そしてそれを聞いたアリオ様が城に戻ってみると、そこには奥方とお子達の無残な姿がありました。


アリオ様は仇を討つべくヒルデラのいる謁見の間に向かわれました。


そこで50人以上の敵に孤軍奮闘されます。


しかし多勢に無勢、ついにアリオ様は敵の手に落ちて処刑されてしまったのです。


ヒルデラの挙兵から僅か10日余りの出来事でした。


この戦はヒルデラに巧妙に仕組まれたものでした。


あらかじめ、2国の軍務卿を丸め込み、3国の武力を持って肥沃で豊かなアルマニ領を抑え、そこを起点に新しい国を起こすのがヒルデラ達の狙いだったのです。


慌てたのは、我が国を含む4国の国王です。


前王は、すぐに3国に使者を派遣し、事態を把握すると、すぐに派兵を要請し、4国でアルマニ領を包囲しました。


元々武力だけで立ち上がった謀反人達ですから、アルマニ領を手中に収めた時点でやりたい放題です。


ヒルデラも堕落し切った兵共々、毎晩女と酒に耽っておりました。


当然のように領民から受け入れられることもなく、4国がアルマニ領を包囲すると同時に内側から門が開かれ、ヒルデラ達のアルマニ領支配は10日余りで幕を閉じました。


先王がアルマニ城に入城されて初めて見られたものは、アリオ様の御首級だったそうです。


この戦で、エレクトス王国以外の3国は大半の兵を失い、エレクトス王国も多大な被害を受けたのです。


4国は協力してアルマニ領を復活させることに注力し、ようやく最近になって、往時の勢いを取り戻しつつあるのです。


今回旦那様にアルマニ領を下賜され、公爵位を授けられたのも、旦那様であればあの地を復活させ、守り抜くことができるとの思し召しではないでしょうか。」






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