第35話 イリヤ王女様と婚約しました。

俺が屋敷に温泉を掘り当ててから3カ月。


王都は歓喜に沸いていた。


イリヤ王女様の婚約が発表されたのだ。


この3カ月の間にここエレクトス王国は大型の公共事業をいくつも推し進め、老若男女、猫も杓子もみんな金払いの良い仕事にありついてホクホク顔だ。


もちろん、俺が王家に寄進した古代金貨のお陰だが、その俺が一番驚いていた。


まさかあの金貨を惜しげも無く、すぐに公共事業に注ぎ込んで市中にばら撒くなんて考えもしなかったからだ。


さすがは国王陛下、太っ腹。


当然王家はこれまで以上に敬われている中での今日の婚約発表なのだ。


そりゃ大歓迎ムード一色になるわ。


うん?もしかしてこれを狙って金をばら撒いたとか?


やりそうだな。いや詮索はやめよう。


仮にも国王だ。きっと俺には分からない深い判断があったに違いない。





今俺はお城の一室で絶賛着替え中。


もちろん、たくさんのメイドさん達の着せ替え人形と化している。


ガチャ


扉が開き、陛下が入って来られた。


「ヒロシ殿、外の大騒ぎを知っているか?」


「ええ、ここに来る途中で見ましたから。


すごい歓迎ムードですね。」


「そうだろう。そうだろう。


庶民に金をばら撒いたのがよく効いておる。」


えっ、やっぱりそうなんだ。


深い意味が無いなんて最初から知っていたさ。

本当だからね。


「道や下水道も綺麗になったし、なによりも宰相のやつが前からやりたいって言ってたことを全てやらせてやったから、無茶苦茶機嫌が良いわ。


あっ、宰相にだけには金の出どころを言ったからな。許せよ。」


宰相様が喜んでくれてるなら結果オーライか。


ガチャ


またひとり入って来た。


宰相のマクレガーさんだ。


「ヒロシ殿、あの金貨のおかげで、これから10年以上かけてやろうとしていた計画がたった半年で終わりそうですよ。


本当にありがとうございます。」


マクレガー様にまでお礼を言われちゃった。


「さあ、ヒロシ殿。マクレガー。


貴族達が待っておるわ。大広間に行くぞ。」


俺達は意気揚々と先頭を歩く国王陛下の後をついて、イリヤ様の待つ大広間に向かったのだ。




全国各地から集まった貴族達がところ狭しと大広間に規則正しく並んでいる。


その一番前に宰相のマクレガー様が立ち、全ての出席者が揃った。


やがて皆の前に国王陛下が立つと一同が胸に手を当てて片膝を床につく。


「皆の者。今日はよく集まってくれた。


我が国の第2王女イリヤの婚約が決まったので、この場で正式に発表したいと思う。


ヒロシ・デ・アルマニ公爵、イリヤ入るが良い。」


陛下の合図に合わせて、俺達が待つ控室の扉が開かれた。


えっ、ヒロシ・デ・アルマニ? 公爵? 何のこと?


?マークが多いが、俺の素直な感想。


陛下の前まで案内してくれるランス騎士団長の後ろをイリヤ王女様と歩きながら、俺の頭の中では混乱と冷静さがフル回転し、やがてある答えが導き出された。


しまった。嵌められてしまった。


『マスター、正解です。よく自力で解けましたね。ちょっと遅かったですけど。』


脳内アシスタントさんのしてやったり口調がムッチャ腹立つ。


そうなのだ、王国の家臣になりたくない俺を取り込むために仕組まれた巧妙な仕掛けだったのだ。


これだけの貴族に囲まれ発表されてしまったものは今更覆すことなどできないし。


脳内アシスタントさん。分かっていたんだったら事前に教えてくれてもいいじゃない。


『わたしの推論では、これが一番の上策だと考えます。あきらめて下さい。』



やがて、立ち止まったランス団長がこちらを振り返り、立ち位置を教えてくれた。


俺は他の貴族同様、胸に手を当て片膝をつく。



「ここにいるヒロシをアルマニ公爵家の正当な相続人とし、ヒロシ・デ・アルマニの名を与える。

それと同時に、第2王女イリヤをヒロシ・デ・アルマニの正妃として婚約することを宣言する。」



静まり返った大広間に凛とした陛下の声が響きわたり、何人たりとも異論を挟むことを許さない空気が覆いつくした。



「皆も良く知っておると思うが、アルマニ公爵家は我が国の建国に大いに貢献したアルト・デ・アルマニを祖とする由緒正しい家である。


だが、先の戦で非業の死を遂げた先代の当主アリオに跡取りがいなかったことで、惜しむらく家名を休止しておったことは周知のことだ。


その後、我はアリオが名もなき女性に産ませた正当な子がいることを突き止め、密かにその接触を試みておったのだが既にその女性は亡くなっており、その子の行方も知れずであった。


しかし、数カ月前に偶然にもイリヤの命の恩人として現れたこのヒロシがアルマニ家の正当な後継者であることが判明したため、この度第2王女との婚約と家名の再開を決めたのだ。


これは我が国にとって吉事である。


アルマニ公爵家の復活は、近隣諸国にとっても大きな抑えとなるであろう。


ヒロシはまだ成人前ではあるが、その聡明さと行動力、それと未知数の能力を持っておる。


これらは我が国にとっても大変大きな戦力となる可能性を秘めておるのじゃ。


皆には新しくアルマニ公爵となったこのヒロシを大いに盛り立ててやって欲しいと願う。


全ては我が国の更なる繁栄のために。」


「「「ははっー」」」


その場にいる全ての人達が、陛下の言葉に迎合の意思を表しているようだった。


満足そうに皆の様子を見ていた陛下が言葉をつなげる。


「なお、アルマニ公爵の後見として宰相でもあるマクレガー・デ・スワニー公爵を指名する。


マクレガーは、ヒロシが王太子であるフランシスを助け、次代のエレクトス王国を更なる発展へと導けるよう指導してやって欲しい。」


「ははっー」


「これにて、ヒロシ・デ・アルマニとイリヤ・フォン・エレクトスの婚約発表を終了する。


なお、この後この場で祝賀の宴を執り行うことになっておるので、皆にはぜひ参加して、ふたりの今後を祝って欲しいと思う。」


陛下の閉会の言葉で、俺の叙爵と婚約が正式に決定したのだった。



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