第33話 国王陛下は本気みたいですね
「例えばイリヤを娶るとかな。」
お湯にのんびり浸かっている陛下の少し間延びした声から漏れた衝撃的な言葉に思わず吹き出してしまった。
「うん?イリヤは嫌か?」
少し顔が怖い。
「い、いえ、嫌とかそう言うのじゃ無くてですね。
お姫様ですよね。俺なんて庶民も庶民、キングオブ庶民なんですから無理でしょう。」
「うん?庶民は分かるがキングオブなんとかとはなんだ。
キングと言うことは王か?
じゃあなんの問題も無いじゃないか。」
「そ、そうじゃなくて、そうだ、お姫様が嫌がるのではありませんか?」
「それは無い。王妃がよくここに来るだろう。あれはイリヤがここに来たがるからだ。
そちに好意が無いわけなかろう。
まあ、ふたりとも未だ成人前だ。
婚姻は数年後となるだろうが、婚約だけでもどうだ?」
陛下にここまで言ってもらったのだから、これ以上は不敬罪になるだろうし、イリヤ王女様って可愛いし。
「不束者ですが、よろしくお願いします。」
「それは女が言うセリフだ。ガハハ。
とにかく、めでたい。
よし、近いうちに婚約披露パーティーをやろう。」
温泉に当てられたのか、真っ赤な顔いっぱいに笑いをたたえた陛下は、立派なナニを豪快に振り回して更衣室に消えて行った。
しばらくして俺も温泉を出る。
しかしえらいことになってしまった。
目立つのが嫌で静かにしているつもりだったのに、王女様と婚約ってどういうこと。
思いっきり目立つじゃないか。
庶民はもちろん、貴族達全てを敵に回すようなものだ。
この世界で本当に100年も生き残れるのだろうか。
「ヒロシ様、あらやだイリヤの旦那様ってお呼びした方がいいかしら。うふふ。」
「もぉ、お母様ったら。
ヒロシ様が困っておられるじゃないですか。
ヒ、ヒロシ様。
ふ、不束者ですがよろしくお願い致します。」
ウチのみんなもニコニコしちゃって。
「こちらこそ、生粋の庶民ですがよろしくお願い致します。」
「旦那様、姫様との婚約内定おめでとうございます。
ささやかではございますが、祝賀の宴を用意させて頂きましたので、こちらにどうぞ。
王妃様、姫様、国王陛下が既にお待ちになって居られます。
一緒にこちらへ。
おっと、わたしとしたことが、嬉しさのあまり忘れておりました。
さ、こちらのコーヒー牛乳をどうぞ。」
その場で腰に手を当ててコーヒー牛乳を一気に飲み干す。
やっぱり風呂上がりはこれに限る。
王妃様や姫様と食堂に向かうと、豪勢な食事が並んでいた。
イリヤ様との婚約の話しってまだついさっきのことなのに、こんな準備が出来てるなんて、どういうこと?
陛下も既にワインを飲んでるし。
知らぬは俺ばかりということか。
とりあえず、なってしまったことはどうしようもない。
しばらくは流れに身を任せよう。
陛下から婚約内定を言い渡されて3カ月が経った。
その間、俺は午前中はミーアと一緒にラスク亭とスタイロンさんの店の依頼をこなし、午後からはお城でマナーや近隣諸国について学んでいる。
マナーの中には食事方法やダンス、貴族としての作法など多岐にわたり、その他にも領地経営や帝王学なども学ばされている。
普通の中学生だった俺に貴族のマナーなんて分かるわけがないんだけど、案外難しくない。
3年の夏に学校の研修旅行でアメリカに行ったんだけど、その時に教わったテーブルマナーで基本は良いらしい。
言葉使いもそんなに注意はされなかったよ。
マナーの先生には本当に庶民の出自かって聞かれたけど、あっちの世界の方が文明が進んでいるから、その分全体的な水準が高いみたい。
だけど、貴族の作法には閉口した。
話し方とかじゃなくて腹の探り合いみたいな会話の仕方とか、足元を見られないための駆け引きの仕方とか、果てには決闘の仕方まで、細かな決め事や暗黙の了解がたくさんあって覚えきれないんだ。
あとは、勉強については褒められた。
算術については、あっちの方が何百年も進んでいるからね。こちらの宮廷学者にも知識では負けない。
科学や物理などは過剰すぎる知識を持っているので、こちらに合わせるのが大変なくらい。
言葉に関しては、話すのはどこの国の言葉でも全く問題ないみたいだ。書くのはできないけどね。
でも文法は日本語に似ているから単語さえ覚えればどこの国の文字もかけそう。
運動は....うん体力が有り余ってるからね。
ダンスについては褒められたよ。音感とリズムがいいって。
あっちに比べてこちらの音楽はリズムも遅くて単調だし、音域もそんなに広くないから、ハードロックを愛聴していた俺としては欠伸が出るくらいだ。
あっそうそう、イリヤ王女様の兄弟つまり第1王子のフランシス様や第1王女のエレーヌ様にもお会いした。
フランシス様は18歳で今年成人になられたばかり。
王太子として政務に忙しい日々を送っておられるそうだ。
エレーヌ様は17歳で隣国ジーポン王国の王太子と婚約されており、18歳の誕生日に嫁ぐことが決まってるそうだ。
おふたりとも気さくな方で、フランシス様とは魔法やスキルの話しで盛り上がるし、エレーヌ様とは編み物の話しで盛り上がる。
特に編み物についてはあちらの世界の方が進んでいるみたいで、俺の編み方を熱心に研究されている。
「ジーポン王国に行ったら王太子様に編んであげたい」って、可愛らしいよね。
こんな感じであっという間の3カ月間だったよ。
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