第32話 まずは温泉でも掘りましょう3
ドラゴン討伐後、俺達はギルドに戻った。
声高々にドラゴン討伐を喜び、ドラゴンスレイヤーのふたりを讃える冒険者達が引く巨大な荷車は、その荷車を小さく見せるほどの大きなドラゴンの死体を積んで、遅々とはしているが、前に進んでいる。
本当はラスク亭に寄って、依頼を受けたかったんだけど、この盛り上がりの中、そんなことは誰も許してくれなかった。
まぁ、宴会の準備をするためにギルドに来ていたラスクさんに会ったから結果的には良かったけどね。
ついでに、食材も5日分ほど渡しておいたから、明日から当分は温泉掘りに集中出来るだろう。
ラスクさんと一緒に来ていたリルちゃんもミーアと一緒に稀少なドラゴン肉の焼肉をつついてホクホク顔だったしね。
翌朝、朝から温泉を掘る。
ひたすら掘る。
と言っても、ポーション片手に土魔法を連発するだけの簡単なお仕事ですが。
昨日ドラゴンを倒したからか、朝一発目の土魔法で、土魔法上級まで獲得した。
そこそこ魔力量を使うから、さすがに補充無しでは連発出来ない。
脳内アシスタントさんの助言でポーションを作ったら、上手く出来たので、それを飲みながらの作業だ。
魔力量が枯渇したら魔法で作ったポーションで回復って、ある意味、無限動力源みたいなもんだよね。
とにかく土魔法上級のアースホールを使うと、10メートルくらいの深さまで一気に掘れた。
岩盤とかもあるから、毎回10メートル掘れるわけじゃないけど、200回くらい連発していたら、穴の底からゴゴゴゴーって音がしてきて、ついにお湯が湧き出てきた。
「アチチチ」
直後、間欠泉みたいに熱いお湯が噴出して、30秒ぐらいでチョロチョロに変わる。
穴の周りに土魔法で枠と蓋を作り、枠の下に溝を掘ると、その溝から勢いよくお湯が流れてきた。
溝を浴槽のすぐ横まで繋げ、浴槽内にお湯が入り込むように細工する。
空だった浴槽が10分くらいで満タンになり、溢れたお湯が排水口から流れていく。
井戸が出た時に炊事場とは別に風呂にも水路を作っておいたので、そこから出る水と合わせると丁度良い湯加減になった。
硫黄の匂いが懐かしい温泉の記憶を呼び出させる。
匂いを嗅ぎつけたセバスさんやマイヤーさん、メイドさん達も風呂場にやってきた。
珍しそうに風呂場に入って来て、お湯に触れたりしていた。
俺はと言うと、当然露天風呂作りでしょう。
直径10メートル深さ1メートルくらいの大きな穴を掘り、コンクリートとセメントで固めていく。
排水溝と取水溝を付けて、取水溝の端を風呂場まで引いている溝に連結したら露天風呂の完成。
源泉掛け流しのお湯が流れ込み、硫黄の匂いが入浴気分を高める。
早速服を脱いで入ろうとしたらセバスさんに止められた。
「旦那様、女性陣が見ております。
お控え下さいませ。」
あっ、更衣室を作るのを忘れてた。
それと、男女の仕切りも必要だな。
「あら、素晴らしいお風呂だこと。
他国では、外でお風呂に入れる施設があると聞いたことがあるけど、まさかこんな近くに出来るとはね。」
いつの間に来たのか王妃様とイリヤ王女様が横に来ていた。
「これは是非とも入らせて頂きたいのですけれども、もう少し仕切りが欲しいわね。
少し恥ずかしいわ。
それと仕切りが出来たら景色が見えないから、何かお花とかお庭なんかがあれば良いわね。」
王妃様、入る気満々で注文が多いよ。
俺は、風呂全体をひと回り大きく囲うように竹垣を作る。
それと小さな坪庭を風呂の周囲にいくつか作った。
それぞれ少し趣向を変えた坪庭は、風呂に入って見る方向により様々な景色を見せてくれる。
なかなか乙なものだ。
最後に更衣室を2つ作って終わり。
テラスでお茶を楽しんでいた王家のふたり?いや3人になってるよ。
陛下なんて、出来上がったと同時に風呂に入ってる。
俺が一番風呂のはずだったのに。とほほ…
女風呂との仕切りの向こうではキャッキャッとお湯を楽しむ声も聞こえてきた。
「きゃー可愛い猫ちゃん。あなたも一緒にはいるのね。」
ミーアも向こうに入ったみたいだ。
俺はと言うと、陛下が先に入ってしまったため、入れずに困っている。
「ヒロシ殿、良い湯加減だぞ。
そちは入らないのか?
遠慮せずに入ってはどうだ。」
陛下のお許しが出たところで、俺も入ることにする。
お城のそれと同様、少し滑りのある乳白色のお湯は入るだけで疲れが取れる気がする。陛下がいなければだけどね。
「本当にお湯が出たのだな。昨日といい、本当にそちには驚かされるな。
街の中にも公衆浴場として設置したいものだ。
その時にはよろしくな。
ところで、昨日ドラゴンが討伐されたそうだな。
ホールドのやつが報告に来よった。
ヒロシ殿、瞬殺だったそうだな。
ホールドがそちのことをS級にしたいと言っておる。
わしは構わんのだが、そちが嫌がると思って、保留にしてある。
どうする?」
「辞退致します。」
「ふっ、冒険者の永遠の憧れであるS級を速攻で断るとは。
まあ分かっていたけどな。
よし、この話しは無かったことにするようにホールドに言っておこう。
しかしな、ホールドがS級にこだわるわけが分かるか?
S級冒険者は国の所属になるのだ。
それほどの実力者を野放しにしておいたら国が滅んでしまうからな。
今回S級を断ると、ホールドと禍根を残すやも知れんぞ。
なに、S級冒険者にならずとも、この国から離れんことを約束するのでも良いぞ。
例えばイリヤを娶るとかな。」
ブッー。
思わず吹き出してしまった。
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