第125話 副団長は城に忍び込む

警戒がガッチガチではあったけど、入れないほどではない。


ザルとは言わないけど、まだまだ隙の多いその様子を見ながら、悠々と城内へと入る。


城の中は中で中々慌ただしいけど、目的の人物は玉座に居た。


「ロウガイ、これでいいんだな?俺は正しいんだよな?」

「ええ、勿論でございます。シルクルやその他の有象無象を蹴散らして、我がルーデリン王国の威光を知らしめれば、亡き娘様に必ずや良い報告が出来るかと」

「……そうだ、そうだよな。あの愚王も殺せたんだ。シルクルの奴らだって殺れる。俺の最愛の娘を苦しめたこの世界に復讐してやらないと」

「その通りでございます。全ては陛下の御心のままに」


短い会話だけでも、ある程度察してしまう。


要するに、唆しているロウガイとか言うのがプロメテウスの配下なのだろう。


そして、付け込まれて操り人形になっている現国王。


何かに取り憑かれたような怪しい瞳。


明らかに正気じゃないけど、唆してる奴の魔法のようだ。


解くのは容易いけど、見たところ魔法の種類は精神に作用する物。


俺には効かないとはいえ、城の人間にも多少なりとも作用してるようだし、念には念を入れておこう。


それに、今国王に作用してるよう魔法を解いても代わりにルーデリンを率いる頭が居ない。


無用な混乱を招いても仕方ないし、とりあえずは候補者と会ってからだな。


そう思いつつも、ロウガイとやらも観察するけど、俺に気づく様子はない。


四天王クラスでは無いだろうとは思っていたけど、思ってたよりも小物でもないようだし、プロメテウスの部下のランクにもかなり振り幅があるのかもしれない。


「ご報告。予定していた量の武具が届きました。これにより後は兵たちの準備に数日頂ければいつでもシルクルには攻め込めます。ですが……」

「なんだ?」

「その……その後の他国からの非難が予想されます。シルクルを落としたとしてもしばらくは守りに入るべきかと……」

「ロウガイ」

「かしこました。その場にひれ伏せ」


何をするのかと思っていると、報告をしてきた男を蹴り飛ばすロウガイ。


「出てゆけ。それと貴様は陛下の下に着くには臆病すぎる。見せしめとして貴様は明後日、公開処刑だ。勿論、一族郎党含めてな」

「そ、そんな……お待ちを!どうか!どうか家族だけは!」

「連れてゆけ」


酷いパワハラを見た。


とはいえ、ある程度ロウガイの実力の方も把握出来た。


多少の動きだけでも、どのくらい強いかくらいは分かる。


隠すのが上手いと見分けるのに多少手こずるけど、ロウガイの方は最低限、護身術を習った程度の動きがせいぜい。


あの老人の力は、ほとんどが話術と魔法による洗脳がメインなのだろう。


いつでも始末できる。


国王の方も常人に毛が生えた程度だし、城の兵士のレベルも問題なし。


あとはプロメテウスがどの程度噛んでるのかを確認したかったのだけど、この国に来た時点でその辺もある程度は察しがついた。


この一件、恐らくプロメテウスはまるで関わってない。


ロウガイによるスタンドプレイだろう。


四天王のようなプロメテウスに近い位置にいる相手でないのは初見で大体分かる。


その上で、薬の売買よりは近い位置に居るのがロウガイなのだろうが、何にしても始末しても得られる情報が少ないのは少し残念。


折角、新婚生活で忙しい中出向いただからもう少し情報が欲しかったけど……長居は無用かな。


「ロウガイ様、例の武器が届きました」

「ふむ、よくやった」


そんな事を思っていると、一つの盾を持ってきた兵士。


それを受け取って満足気な様子のロウガイだけど、その後に別の兵士が持ってきた薬を見て更に笑みを深める。


「くくく……これで彼奴を呼び寄せて、討ち果たせば……ワシもナンバーズの末端くらいには入れてもらえるはず……くくく、早く来い、エクス・ロストよ。ワシ、ロウガイがプロメテウス様のために必ずや貴様の屍を晒してくれよう!」


独り言の多い爺さんだ。


しかし、俺を呼ぶ意図はやはりあったのか。


なるほど、その自信も先程持ってこさせた盾と薬があればというところか。


しかし、ナンバーズか。


予想外の収穫に喜ぶべきか、それとも四天王以外に警戒するべき相手が見えてゲンナリするべきか。


とりあえずは後でアイツの頭から情報を引き出すけど、ナンバーズの詳しいことを知ってるなんて都合の良いことは考えてない。


知ってればラッキー程度。


そもそも、幹部だろうとプロメテウスの情報が期待できるか微妙なのだから、いちいち期待してたらキリがない。


城の中もある程度把握出来たし、一人で落とす場合も問題ないと確認できた。


城攻めは多少面倒だけど、最悪の場合はそれを想定。


ロウガイと現国王の始末が優先だけど、ロウガイの魔法が消えても残ってる不穏分子がやらかすかもだから、注意しておこう。


ロウガイの秘策らしきものも確認できたし、次に行くとしよう。


そう思いながら部屋を出ていくけど、狂ったように笑っているあの老人が中々にホラーであった。


気持ち悪い笑い方だけど、楽しそうで何より。


まあ、それはそれとして下らないことで俺を呼び出した報いは必ず受けさせよう。


アリス成分もかなり切れてきた。


次の場所で一度アリスの元に戻ろう。

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