第124話 副団長はルーデリンに向かう
騎士団の仕事を前倒しで終わらせて、ある程度余裕を作ってから俺はルーデリン王国入りをする。
シルクルの様子も見るけど、現地をまず確認して情報の精査もしておかないと。
リンスのことを信じてないわけではないし、俺の情報網でもある程度情報を手に入れてるけど、やはり現地に入るのが一番早い。
そう思って、ルーデリン王国に来ると、王都はなんとも殺伐としていた。
クーデターによって国が変わる前に来た時は、良くも悪くも普通の国で、豊かというには少し足りなくても不思議と落ち着いた雰囲気だったのが、今では王都の町中に兵士が立っていて、民を統制してる感じ。
これから大きな戦争だからか、兵士たちの表情は固く、民兵まで募ってるようだ。
いや、募ってるなんて優しいものではないな。
無理やり一般人を徴兵していた。
断る権利はなく、逃げ出そうとすると斬り殺されていた。
男は例外なく戦場に行くことになるようだ。
老人も、盾として同行することが義務付けられているようで、空気がピリピリしている。
女子供は一応巻き込まれないようだけど、それでも愛する者を失うかもしれないと涙を流してるのがよく見られる。
とはいえ、もし仮にシルクルに勝利しても、更に進軍して他国に攻めると一気に戦力が足りなくなるだろうし、女子供も安全な訳ではないだろう。
愛する者を失って、これまでに戻れなくなるのは間違いない。
悲劇しか生まないのが目に見えてるのだが、それでも今の国王が止まることはないのだろうことは明白。
今のこの国で、余所者である俺が歓迎されることがないのは一目見てよく分かったので、姿を消して潜んで街の様子を見て回っていた。
「民兵なんた役に立つのか?」
「一人でも殺せば御の字だろ。無理でも敵との盾くらいにはなるだろうし、罠を探るためにわざと囮にしてもいい」
「うわぁ、これって新しい王の案か?」
「らしいな。ゾッとするが明日は我が身ってな」
「まあ、奪った国で好き勝手していいらしいし、いい女と酒と金目のものでも期待するか」
「いい女は独り占めはよくないぜ?俺には味見させろよな」
「嫌なこった」
くつくつと、楽しげに笑う兵士の会話。
盗み聞いて嫌悪感しかないけど、実に人間らしいといえばらしいか。
他人の不幸なんてぶっちゃけ興味無いけど、知っててスルーするのはアリスの前で誇れる俺ではない。
とりあえず兵士たちに陰ながらイタズラとしてデコピンを一発づつするけど、加減を間違って吹っ飛ばしてしまった。
すぐに音を遮断して騒ぎにはならなかったけど、知らず知らずのうちに嫌悪感で力の加減が緩んだようだ。
死んでないよね?
……良かった、生きてる。
適当な路地裏に放置してから、他の場所でも兵士たちから情報を聞いて回るけど、楽しみ半々、強制なので仕方ない半々というところか?
楽しみ派は奪った土地での略奪が楽しみという連中。
好きでもない女を抱いて何が楽しいのか分からないけど、泣きわめく様子に興奮するのだろうか?
気持ち悪い奴らだなぁ。
嫌がるのがいいとか、アホくさすぎるけど、仮に進軍が続いたらこの連中にどれだけの人達が蹂躙されるのやら。
他人事だし割とどうでもいいけど、不快なのは間違いないし、止めるに超したことはないか。
強制なので仕方ない派は、王が変われば恐らく崩せる連中だろうし覚えておこう。
「先王の亡骸をあのように晒すとは何と不敬な。この上我らのことも使い捨てにしようとしておる」
「とはいえ、俺らにゃ何も出来ないでしょ」
「馬鹿者!そのような心持ちでは先王陛下のご無念は晴らせぬぞ!」
「そう言われてもなぁ……」
とある民家の裏で、兵士たちに隠れてコソコソ密談してる連中を発見。
現体制への不満が爆発してるけど、行動には起こせない人達のようだ。
気になったのは、先王の話。
聞けば、一昨日先代の王様は民の前で公開処刑されて、その亡骸を数日晒されたらしい。
今はもう、燃やされて骨ひとつないらしいけど、その燃やし方も酷かったそうだ。
焚き火だといって、肉を焼くついでに燃やされたらしいけど、その肉を民に配ったらしい。
踏み絵でもするように、食べれない奴は殺したそうだけど、食料も少なくなっている今貴重な肉を涙を飲んで食べた人達は多そうだ。
俺としてはどうでもいいけど、敬ってた人達からしたら先代の王様を辱められたとしか思えないよね。
しかし、そこまでして先代の王様を下げるのは、何かしら理由があるのだろうか?
その辺も焚き付けた存在が上手いこと誘導してそうだけど、街で得られる情報では限界があるし、そろそろ城の方にも向かってみようか。
一度、本物を見ておきたいし、可能なら早めに始末しておこう。
改心?するくらいなら、ここまで拗らせないでしょ。
とはいえ、次の王様の候補も見つけておかないと面倒になりそうだし、その辺も城で確認しよう。
聞くところによると、ほとんどの王族は処分されたみたいけど、何人かは幽閉されてるらしいし、当たりがいればいいなぁ、程度で見に行くか。
そんな物見遊山な気持ちで俺は城へと足を運ぶのであった。
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