第122話 副団長は親友と酒を飲む
時間も惜しいので、リンスの部屋に直接移動する。
転移の魔法が便利すぎるけど、アリスとの時間を作るにはもってこいな力なので存分に活用させてもらおう。
「やあ、来たね」
俺の突然の転移にも動じずにそう笑顔で手を上げるリンス。
リンスの部屋には、何度か来たことはあったけど、相変わらず広いし装飾品もセンスのある部屋だ。
流石は王子様というべきか。
シンシアの姿絵が飾ってある辺り、婚約者を愛してるのがよく分かるのも悪くない。
「悪いね、無理を言って」
「全くだ。とはいえ、何か理由があるんだろ?」
俺がアリスとの時間を何よりも大切にしていることを知ってるリンスが、新婚生活を楽しんでる俺をわざわざ呼んだのだからそれなりに理由があるはず。
「やっぱり君には敵わないね」
そう言いながら、グラスを用意するとウイスキーらしき酒を入れるリンス。
「少し強いお酒だけど、割って飲む?」
「最初はストレートで構わない」
「じゃあ、僕もそうしようかな」
椅子に座ると、目の前にグラスを置いて対面に座るリンス。
とりあえず一口飲むけど……なるほど、これは強い。
度数かなり高そうだけど、流石に王族が用意するだけあって良い酒だ。
最も、ワインとかの方がリンスの場合似合いそうだけど。
「うん、美味しい。でも強いから水で割ろうかな。秘蔵のワインもあるけどそっちもどう?」
「時間が許せばな」
「確かに。奥さんを待たせるのも悪いよね。そういえば、新婚旅行はどうだったの?」
「最高だったぞ」
「だろうね。帰ってきてからますます君が元気になってたし聞くまでもなかったね」
そんなに分かりやすいだろうか?
リンスとは転生してから、一年ほどの付き合いになるけど、それまでまるで付き合いがなかったとは思えないくらいに親しくはなったと思う。
とはいえ、俺の場合、友情よりも妻への愛情を取る男なのでベタベタした友情でないかもしれない。
仲良しこよしも普通の人ならいいのかもしれないけど、その時間で好きな人と出来るだけ長く過ごしたいという気持ちは当然といえば当然だと思う。
「副団長の仕事はどう?」
「まずまずだな。仕事量は問題ないけど、技量で父上に勝てるようにならないといけないのからな」
「僕のような凡人には分からない世界の話だねー」
いや、リンスが凡人ならその他が論外になるのだけど?
紛れもない天才なのに妙なところで謙虚だよな。
「そういうそっちはどうなんだ?」
「僕かい?一応、父上から合格ラインは貰えてるよ。このペースならあと二年ほどで継がせても良いとは言われたけど、継いでもしばらくは父上のアドバイスは貰いたいかな」
「あの陛下の場合、お前が困ってるのを面白がって隠居しそうだけどな」
「有り得るね」
そんな話をしていると、いつの間にかウイスキーを一本飲み終わっていた。
「流石だね、全然酔ってない」
「お前もな」
酒に強いと言うだけのことはあると思っていると、今度はグラスを変えてワインを注ぐリンス。
「エクスはルーデリン王国とシルクル王国は知ってるよね?」
「ああ、毎年喧嘩してる所だな」
うちの国とは隣接してないけど、比較的近い場所にあって隣合ってる小国同士。
仲が悪く、小さい理由で毎年小規模な争いが起きてるのは耳にしている。
「いつも通りの喧嘩なら気にしなくてもいいんだけどね。実はルーデリンの方が本気でシルクルを潰すつもりみたいなんだ」
「確か、ルーデリンはこの前クーデターで国王が変わったんだったな」
「そうそう。それでその新しい国王がシルクルに相当深い恨みがあるみたいでね。それを焚き付けた存在も確認できたんだ」
「……なるほどな」
プロメテウス関係の可能性が高いというのが、リンスの考えのようだ。
俺としては有り得る話ではあるけど、プロメテウス本人ではなく恐らく下っ端の可能性が高いので、無理に動く必要もないとは思うのだが……
「ルーデリンがシルクルを滅ぼすだけで止まるとは思えないんだ。集めてる武器の量からして、その他の国も支配下に置くつもりみたいでね」
「大した情報網だ」
「これでも王太子だからね。君という強いカードを有して慢心してるだけだと足元を掬われかねないし、僕は僕で次の王としてこの国を守らないと」
「そうか、まあ話は分かった」
リンスの読みでは、ルーデリンがシルクルを滅ぼすのは確定路線。
その後に大陸中を巻き込んだ戦争になりそうなので、早めに叩きたいということだろう。
「気乗りはしないけどな」
「だろうね。僕としてもなるべく君に負担をかけずに、ルーデリンの新しい国王や焚き付けた存在を暗殺出来たら良かったんだけど……新しい国王はともかく、焚き付けた存在はかなり強いみたいでね。君に頼むのが確実だと思ったんだ」
それにね、とリンスはニヤリと微笑む。
「シルクルには、子宝に恵まれる神様の像があるらしいよ。せっかくだし片付けるついでにお参りしてくるのいいかもね」
「……仕方ないな。手早く済ませるとしよう」
「うんうん、ありがとう」
新婚生活も楽しいけど、子宝に恵まれるという神様の像には確かにお参りしておきたい。
そのついでに片付けてくるとしよう。
上手く乗せられた感が強いけど、それが不快でないのだからこのイケメン王子様は凄いと思いつつ、話を受けてから、ワインを飲み干して屋敷に帰るのだった。
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