第121話 副団長は親友に誘われる

「エクス、少しいいかな?」


その日の仕事を終えて、さて早く帰ってアリスの顔を見ようと思いながら転移するタイミングで、リンスが声をかけてきた


「どうかしたのか?」

「夕食のご招待をね」

「俺が新婚なの分かってて言ってるんだよな?」

「夜までには帰すから、付き合ってくれない?」


まあ、リンスがそこまで言うのだから何かあるのだろう。


「分かった。でも夕飯は向こうで食べてくる」

「なら、お酒を準備して待ってるよ。良いのが入ってね」

「飲めるのか?」

「そこそこ強いと自負してるよ」


成人してからそんなに経ってないけど、自信があるようだし気にしなくてもいいか。


「分かってるとは思うが……」

「大丈夫。二人の夜を邪魔するような真似はしないって。話自体はそれほど多くないしね」

「ならよし」


俺はそう言ってから、屋敷に戻ってアリスと夕食をとる。


新婚期間中だからこそ、こうしてアリスとの時間を大切にしたいのだけど、まあ、リンスことだしその辺を分かっていてどうしても必要な話があるのだろうと一応は納得しておく。


それはそれとして、やっぱりアリスの顔を見ると安心して帰ってきたーという感じになるのだから、馴染んだものだ。


「リンス殿下にですか?」

「少し呼ばれてね。お風呂までには戻ってくるよ」

「分かりました。でも、エクスは本当に殿下と仲良しですね」


微笑ましそうにそう言われてしまうけど、普通に親友なだけで、アリスが一番なのは変わらないのだが、まあ、それはそれなんだろうなぁ。


「アリスも、シンシア様が嫁いできたらフォローを頼むこともあるかもだけど……」

「大丈夫です。シンシアさんとは仲良しですし、私はエクスのお嫁さんですから」


自信満々に微笑むアリス。


俺が事実上リンスの一番の腹心で私的な場所では親友と呼ばれている。


アリスはその俺の嫁で更にシンシアとも仲良しなので、他国から嫁いでくる彼女のフォローを時々頼むことになるだろうけど、それを分かっており、大丈夫と言うアリスは本当に頼もしい。


何よりも、俺の嫁であることを誇ってくれてるようで嬉しすぎる。


「ありがとう、でも無理はしなくていいからね」

「はい、でもそれはエクスもですよ」

「俺も?」

「エクスは頑張り屋さんですから、私の前ではもっと肩の力を抜いてください」

「……うん、ありがとうアリス」

「いえ、私たちは夫婦……ですから……」


頬を赤くしてそう言うアリスが愛おしすぎる。


思わず抱きしめそうになるけど、夕飯の途中だしイチャイチャは後にとっておこう。


「そういえば、今日、お義母様が昔のエクス様の使っていた服を見せてくれました」

「まだ残ってたんだ」

「はい、小さい頃のエクス様はとても可愛かったとお義母様は言ってました。姿絵を私も見ましたけど、同じ気持ちです」


母上的には、俺の自慢をしたのではなく、恐らくアリスに俺との子供を意識させるような無意識な誘導の一つなのだろうけど……それは黙っておこう。


プレッシャーになっては困るし、子供は天からの授かりもの。


気長に焦らずが大切だろう。


「そういえば、前にミスティ公爵家に言った時に、俺もアリスの赤ちゃんの頃の姿絵を見せてもらったよ」

「え?ほ、本当ですか……?」

「うん、お義母さまが自慢してくれたよ」

「はぅ……少し恥ずかしいです……」


天使のような赤ちゃんだったのは語らずとも分かるけど、お義母さまも孫を望むオーラが強かった。


親にとってはやはり孫とは魅力的なワードなのかもしれないが、俺とアリスの子供が結婚したら俺も孫を求めるようになるのだろうか?


間違いなく期待するけど、俺達の子供が大人になって結婚してと考えると少し切ない気持ちにもなるけど、やはり幸せになって欲しいものだ。


これから出来る子供のためにも、プロメテウスや面倒事の種は詰んでおかねば。


生きてれば、苦労は勿論あるだろうけど、子供の代までプロメテウスのような面倒事を引きずるつもりはない。


俺が片付ける必要があるし、そうしないと誇れる父親とは呼べそうにない。


それに今のまま放っておくと、父上が無茶して一人でプロメテウス討伐に旅立ちそうだし、それをして万が一があっても困る。


背負い込む気はないけど、プレデターの事もあるし俺がやるのが当然だろう。


そんな事を考えはしたけど、それでもアリスを前にするとアリスのことだけを考えてしまう俺はやっぱり心の底からアリスに惚れていて、アリス第一なのだろうと当たり前な事実を確認することになる。


嫁との楽しい夕食……これを楽しまない男がいれば俺はきっとそいつをはっ倒してしまうだろう。


まあ、他人事なのでどうでもいいという気持ちもなくはないけど、やっぱり夫婦円満のコツはコミュニケーションと好かれる努力を忘れないことだと思う。


特に俺のように圧倒的なイケメンではない者にはね。


可愛い嫁が照れてる様子を見ながらの食事は……最高だね。


更に笑顔であれこれと話してくれるアリスが非常に可愛くて美しいのだが、アリスは日に日にその可愛さと美しさを増してる気がする。


贔屓目なしにそう思うので、もっとアリスに惚れられる自分にならないとね。


努力あるのみ。

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