第118話 副団長は妻を連れていく

海辺でまったりと過ごしてから、夜も海産物尽くしの品が並んだりしたけど、アリスに気に入って貰えたようだし良かった。


アリスはかなり少食で、肉より野菜を好むような感じなんだけど、魚はかなり気に入ったようだしなるべく仕入れるようにしようと決意する。


新鮮なのは俺が転移の魔法で捕りにくればいいし、それ以外でも魚を仕入れるルートはあるので問題なし。


「月明かりが綺麗ですね」


夕食後、アリスを連れて二人で夜の海へと来ると、アリスはその光景にそう感想をもらしつつ、俺の傍にさらに寄る。


綺麗だけど、少し怖さもあるのだろう。


夜の海ならではだが、何にしても抱きついてくるアリスに俺はテンションが上がる。


「じゃあ、行こうか」

「行くって……船に乗ったりするのですか?」

「いや、海の中にね」


そう言うと首を傾げるアリス。


その可愛い様子に微笑みつつ、俺は自分とアリス……特にアリスに念入りに魔法をかけてから、アリスの手を引いて海の中へと入っていく。


「わぷ……あれ?息ができる……?」

「魔法で少しね」

「凄いです……こんな事もできたんですね、エクスは」

「さあ、行こうか。目的地までは少しあるけど……お姫様のエスコートは初めてだからご希望を聞こうかな?」


そう言うと、アリスは少し恥ずかしそうにしつつも、「よ、よろしくお願いします……」と身を任せてきた。


お姫様抱っこをご所望のようだ。


喜んでと、俺はアリスをお姫様抱っこして、アリスに負担がいかないように慎重に、でもなるべく海の中を楽しめるようにそこそこの速度で移動する。


海の中でも、魔法の影響で明るく見えるからか、退屈することはなかったようだ。


「わぁ……!」


そして、海の旅を楽しむことしばらく。


人魚の都に到着すると、そのどこか幻想的な光景にアリスは感嘆の声を上げる。


「ここには人魚が住んでるんだ」

「人魚……ですか?」

「うん、ほら、あそこにいるみたいな種族のこと」


手を振ってる子供の人魚を見て、アリスは驚きつつも手を振り返していた。


「たまたま見つけてね。ここのことは俺とアリスだけの秘密にしてね」

「秘密ですか?」

「人魚は本当は人間と関わる気はないらしくね。俺がたまたま知ったんだけど、アリスだけには話したかったし連れてきたかったんだ。大切な人にはちゃんと話しておきたくてね」

「大切……えへへ……」

「さて、じゃあ少し回ってみようか」


人魚の都で生活している人魚達の邪魔をしない程度に軽く見て回るけど、ロアへの仕込みの成果か、俺が先日戦ったことや先日までの人魚達の危機的な状況については話に出なかったので助かる。


余計な気苦労はさせたくないし、知らなくていいどうでもいい事だしね。


心優しい俺の妻を煩わすような事柄はあってはいけない。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん」


そうして二人で回っていると、人魚の小さい女の子がアリスに何かを囁いてから何かを手渡して去っていった。


「何か貰ったのかい?」

「えっと……秘密です」


可愛らしくそう誤魔化すアリスだけど、残念なことにエクスさんの地獄耳にバッチリと囁き声が聞こえてしまったので俺はそれが何か分かっている。


女の子が渡したのは、人魚に伝わる恋のおまじないのようなもので、持っているとラブラブになれるという効果があるとか。


軽く調べるけど、害のあるようなもではなし問題は無い。


俺が大切な人を連れてくると伝えたからか、それともロアの発案なのか、俺へのお礼ではなくアリスへのお礼にして渡してくるとはやりおる。


実際に貰ったのがそのような効果のあるものなのかは微妙なラインだけど、悪意のある贈り物ではないし、送り主が女の子なのもセーフ。


男からの贈り物は俺が嫉妬に狂って相手に何をするか分からないからね。


「人魚さんは美形さんが多いですね」

「そうかもね」

「エクスは……その……」


信じてはいても、やっぱり気になるのか言外に尋ねてくるアリス。


その返事はきちんとしておかないとね。


「アリス以外に見惚れるような男に見えるかな?」

「もう……」


少し安心したように照れた笑みを浮かべるアリス。


いくら美形だろうと、生憎と俺はアリス以外に好意を持つことがないので、その辺は安心して貰おう。


そうしてアリスを安心させつつ、人魚の都を一通り楽しんでから、程よい時間になったので帰ることにする。


最後に出てきたロアにお土産を貰ってアリスと一緒に宿に帰るけど、それにしてもロアが見たことない種類の真珠類も手土産に混ぜていたのは少し驚いた。


一般に出回ってないものだし、正直都市部に出ているものと比べる必要もないくらい圧倒的に質が良いものだし、帰ってからアクセサリーにでもするのも良いかも。


そうして宿に戻ってから、二人でお風呂に入ってベッドに入ると疲れてるのにそのまま愛し合ってしまった。


いや、俺はアリスが疲れてるだろうし自重しようと思ったんだけど、お姫様抱っことその後のお風呂でスイッチが入ったアリスさんに求められたら答えねばなるまい。


大変楽しい夜でございました。


アリスはやっぱり最高だね。

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