第116話 副団長は仕込みを済ませる

夜の日の夜、またしても俺は夜中に一人で海辺に来ていた。


夜の海は嫌いじゃないけど、一人で見るものでもない気がする。


月明かりが綺麗だし、ムードもあるけどアリスが居ないとテンションも上がりづらいというもの。


俺の世界の中心がいかにアリスで構成されてるのかを再認識するのにはいいのかもしれないが、それはそれ。


「改めまして……この度は我らをお救い頂きありがとうございました」


そう先頭で挨拶をするのは先日も会った人魚のロア。


後ろには同じ人魚族と思われる者が数人いるけど、美形が多いのは種族特性的なものだろうか?


まあ、うちの愛しいアリスに勝てるような存在はこの世には居ないんだけどね。


「今宵もお忙しいかと思いますが、この者どもがどうしても強き者に一言お礼を言いたいとのことで、改めてご挨拶に参りました」

「へー」


ぶっちゃけ、言おう。その辺の事情に興味が湧かん。


まあ、アリスが熟睡してるこの時間なら動けないこともないんだけど、それとこれとでは話が違うというもの。


動けるだけで、動きたくはなかったのだが、俺の感知範囲内に来て居座られても迷惑だし、面倒事は手早くが基本なので仕方なくアリスと一緒に寝る時間を削ってわざわざ出てきたのだが、挨拶だけだっら帰ってから適当な時間にでも頼んでおくべきだったな。


俺も急いでいたとはいえ、うっかりしてたものだ。


そんな事を思いながら、ロアの後ろの人魚達の自己紹介とそれぞれからの助けたお礼を受けるけど、善意で人助けをした訳でもないし、適当に聞き流す。


「強き者よ、お土産にはご満足頂けましたか?」


そんな中で、最後のロアの言葉には頷いておく。


「定期的に貰いたいが可能か?」

「問題なく」

「なら、事情を話せる人間を立てておく。後のことはその人間に任せるから頼んだ」


美味しい魚だったし、定期的に仕入れたいけど、俺が毎回貰いに行くのもあれだし、わざわざ市場に流すほど買い付けなくてもいいだろうから、その辺は緩めにしておく。


あくまでも、アリスの食事のバリエーションのためだしね。


「分かりました。お住まいは遠いのでしょうか?」

「隣国だからそう遠くはないが、こっちは別荘地として使っててな」


アリスとのまったりスローライフをここでするのも悪くないけど、それなりに立場のある人間になってしまったし、ここには息抜きや避暑地として来ることになるだろう。


まだ見ぬ俺とアリスの子供たちが大きくなって、俺の地位を譲れるようになるまではそこそこ頑張らないと。


「ところで、人魚の都は問題なかったか?」

「はい、強き者とあれの戦いの被害はほとんどないと言えます。お見事でした」


プロメテウスの四天王を名乗っていたゼノスとの戦いの余波をそれほど出さずに済んだのはある意味運が良かったのかもしれない。


プレデター程ではないけど、技量の上では本気を出さざる得なかったし、これで四天王最弱なら対プロメテウスを更に意識しておかないと。


面倒だけど、大切な人を守るための努力は忘れないでおく。


「そうか、なら俺の頼みを聞いてもらえるか?」

「頼みですか?」

「ああ、明日人魚の都に俺の大切な人を案内したい」


あの景色は中々に美しかったし、独り占めする気も元よりなく、俺は面倒事の部分だけ隠してアリスに人魚の都を見せたいと思った。


故に言ってみたが、ロアはあっさりと頷く。


「承知しました。我々の方で何か気をつける点はありますでしょうか?」

「強いていえば、俺が人魚を救ったという話は絶対に俺の大切な人にはしないこと。特に戦った話はね」

「分かりました、ではお好きなように回っていただけるように手配しておきます」


ロアとの話はそのように非常に上手くまとまる。


俺との距離感が上手い具合なのが理由だろうが、何にしてもアリスを連れていく以上は、人魚達に口止めはしておかないとね。


アリスに余計な心配はかけなくないし、新婚旅行の最後の夜に二人で秘密の場所に行くのは非常に良いイベントだと思う。


人魚達は、基本的に人とは関わらない方針のようだし、これからも俺のような偶然がなければ接触する機会もないようだし、俺もわざわざ人魚達のことを言いふらすような暇な真似はする気は無い。


それに……俺とアリスだけが知ってる秘密というのは中々に素晴らしい。


それだけシチュエーションというのは重要なのだ。


「それと、本日もいくつか持ってきましたのでお気に召したものがあればどうぞ」


そう言ってロアは海産物を取り出すけど、アリスに出して評判の良かったものがそこそこ多かったし、悪くないチョイスで少し満足。


この海産物と明日の仕込みで、抜け出した甲斐は多少あったかもしれない。


まあ、それでも心情的には差し引きでいえばマイナスだろうけど、明日のアリスの様子を思い浮かべれば多少は気も良くなる。


我ながら単純だが、それだけアリスが俺の中で大切な存在なのだ。


そんな事を思いながら、いくつかの明日の取り決めを決めてから、俺は自室に戻るのだった。


ベットに入って、アリスの寝顔を眺めながら眠りにつく夜……いいね。

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