第115話 副団長は今夜も楽しむ

チリンチリンと涼し気な音が響く。


「綺麗な音ですね」


街歩きで見つけた、風鈴に近いものを宿の窓際に飾ってみたのだが、アリスはかなり気に入ったようだ。


「別荘が出来たらそっちにも飾ろうか」

「良いですね」


別荘の計画自体はアリスも知っているので、その言葉に嬉しそうに笑みを浮かべる。


それにしても、この風鈴っぽいの本当に質がいいな。


この職人にも後日話をしてみようかな。


「お嬢様、ご夕食の支度が整いました」


そんな風にアリスとのんびりしていると、メイド姿が板に着いたヒロインが呼びに来る。


「ありがとう、マリア。では、行きましょう」

「そうだね」


ナチュラルに手を繋いでくるアリス。


俺からの方が圧倒的に多いとはいえ、こういうアリスから自然としてくれるシチュエーションは何とも素晴らしい。


「今日のお夕食は、昼間の方が作ってくださるんですよね?」

「色々と頼んでいおいたからね」

「楽しみです」


昼間食べたお寿司を思い出したのか、嬉しそうな笑みを浮かべるアリス。


ワサビに若干涙目にされたシーンを脳内で永遠と再生してしまう俺は意地悪だろうか?


可愛いものは可愛いのだから仕方ない。


「わぁ……!凄いですね」


相変わらず、眺めの良い場所にある食堂のテーブルには、海の幸がこれでもかと言うくらいに並べられていた。


寿司や刺身だけでなく、海鮮丼まであるのは少しやりすぎな気もしなくはないけど、アリスが嬉しそうだし無粋なことは言うまい。


「アリス」

「はい、ありがとうございます」


エスコートは男の役目。


ヒロインに任せるべき場面でもないので、俺が椅子をひくとアリスは綺麗に座る。


所作ひとつひとつが美しいのだからうちの嫁マジ女神!


そんな感想を抱きつつ、俺も座ると一緒に夕食を楽しんだ。


本日の夕食の魚は、近くで獲れたものだけでなく、人魚からのお土産もあるのだけど、綺麗に刺身や寿司として並んでいる。


あまり人里には出回らない品だが、扱いを心得てるようだし中々いい拾い物をしたのかもしれないと多少のお得感を得ていると、アリスは嬉しそうに言った。


「お刺身、美味しいですね。生のお魚って少し怖かったんですが、とっても美味しいです」

「調理の腕がいいからだろうね。あとはこの辺の魚は美味しいのが多いようだし、調味料も間に合ったからね」

「お醤油でしたよね?黒くてびっくりしましたけど、お魚ととってもあいます」

「だね」


アリス用に、小さめの海鮮丼を作るように指示を出す。


今ある海鮮丼は大き過ぎるし、アリスが食べ切るのは難しいだろうから、アリスに気づかれないようにヒロインを使うけど、呆れたような表情をされてしまう。


『別にマナーとか気にしないなら、二人で半分こすればいいじゃない』


アイコンタクトで伝わるのが憎らしいが、ヒロインを上手く使うにはこれが一番。


仲良くなる気はないけど、アリスが嫉妬しないように、程々にコミュニケーションを取れるレベルではあるので問題なし。


『ふ、甘いな』

『何がよ?』

『丼物の経験が浅いアリスに良さを分かってもらうには小さくても食べ切ったという達成感が必要なんだよ』

『お嬢様が小さい皿で食べるのが見たいだけでしょ?』


否定はしない。


半分こもいいけど、アリスが小さな口で小さな器から可愛く食べる姿が見たいというのは中々に贅沢な望みだと思う。


「昨日のお料理も良かったですけど、今夜のはまた違った良さがありますね」

「お気に召して貰えたかな?」

「はい、とっても」


その笑顔だけで、頑張った甲斐があったよ。


「すまない、ワインを」


そう言うと、昼間に買ったお高いワインがグラスで出てくる。


昨日は飲まなかったけど、何となく今日は飲みたくなったのだ。


「昼間のですか?」

「ああ、二人で選んだものだよ」

「二人で……えへへ……」

「アリスは葡萄ジュースどうかな?」

「はい、いただきます。二人で選んだもの……ですからね」


そうはにかむアリスが最高に可愛すぎる。


昼間、色々見て回った時に、今夜用に二人でワインと葡萄ジュースを選んだのだけど、その時のテンションも相まって、こうして些細なことを共有できてるのが嬉しすぎる。


そんな風にのんびりとディナーを楽しんだのだが、アリスが思いの外魚を気に入ってくれたのは大きい。


ここに来る口実がまた出来るし、新婚旅行の思い出も更に増えていく感じがするからだろうか?


食の好みなんてそこまである方ではないと思っていたけど、こうして二人で食べることで俺も魚料理が特別枠になるのだから、我ながらチョロいものだ。


とりあえずは今夜の夕食のクオリティには合格を出せたし、今後もこちらでの料理は彼に任せて問題ないだろうことは確認できた。


こうして少しづつ不足している人材を埋めていくのもいいけど、やっぱり俺はアリスだけに集中したいという想いもあるし複雑なところ。


……うん、面倒ごとは手早くで、アリスメインなのは変わらないし問題なし。


よし、今夜もアリスをとことん愛そう。


新婚旅行の残りは明日のみだし、楽しまないとね。


そんな事を思いながら、夕食後のお風呂を二人で楽しんでから、今夜も大変ヒートアップするのでありました。


アリスが可愛すぎるので仕方ない。

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