第110話 副団長は朝イチの癒しを得る

宿に戻ってから、アリスのぐっすりとした寝顔を眺めて、念の為にシャワーを浴びることにする。


汚れてないはずだけど、あくまでも念の為。


昨夜の愛し合った後の匂いなら問題はないのだけど、自分ではその辺は分かりづらい。


アリスの香りならいつだってすぐに気がつくのだが、まあ、それはそれ。


それは当たり前のことで大前提なので悪しからず。


そうしてシャワーを浴びてから、そっとベッドに戻るとアリスは気づいた様子もなくスヤスヤと寝ていた。


可愛い寝顔を見ながら、もう一度は手放した腕枕の権利を取り戻すべく慎重にアリスを俺の腕の中へと誘う。


起こさないように慎重に慎重を期すが、エクスさんのテクニックならこの程度造作もない。


ただ、多少変化に気づいたように「うぅん……」と若干悩ましげな声を上げたアリスには悶えそうになったけど。


可愛過ぎるし、俺にクリティカル過ぎる。


まあ、アリスが何をしても俺はそうなるので今更か。


「エクスぅ……」


ギュッと胸元に抱きついてくるアリス。


思わず声を出しそうになるのを必死で抑える。



アリスさん……ズルすぎる!


帰ってきたばかりで、アリスへの愛おしさが限界突破してるのに追い打ちをかけるように俺に身を寄せてくるとか……最高かよ!!


優しくそっとアリスの綺麗な髪を梳くように撫でる。


綺麗な銀髪だ。


俺の考案した美容品関連もあるけど、昔からアリスの髪は綺麗だった。


手を優しく包むような極上の触り心地は勿論、その優しい匂いが何よりも好きだ。


こうして抱き寄せてるだけでも幸せなのだが、もっとアリスを感じたくなる。


もっともっとと、アリスを求めてしまう。


自分でも贅沢だとは分かっているけど、それでも俺はアリスを求めずにはいられなかった。


新婚旅行だし、少しくらい大胆でも許して欲しい。


それと……若干入っていたバトルスイッチもアリスの温もりで消えてくれそうで良かった。


強敵を前にすると、たまにあるのだけど、謎にバトルスイッチが入って変な気持ちになる。


アリスへのいやらしい気持ち……とかなら健全なのだが、そんな健全なものではなく、俺には本来あってはいけない強者との戦いの昂りのようなくだらないもの。


プレデターの時も無くはなかったけど、あの時は互いの気持ちの強さを決めるための決闘にも近かったので少し違う。


きっとこれが前に、母上がアリスに言っていた『ロスト子爵家の男は強すぎるあまり戦いを好む――時には女を放り出して』という本能的なものなのだろう。


実にくだらないが、アリスを前にするとそれが綺麗に消えるので俺には問題ないかもしれない。


確かに強い相手には変な高揚がある。


だが、戦いなんて本来はない方がいいものだし、俺にとってはアリスを守る手段でしかない。


だからこそ、自分の中な優先順位はきちんとしておかないと。


「うぅん……エクス?」


そうしてアリスと温もりを楽しんでいると、アリスがゆっくりと目を開ける。


時間的にもいつも通りの起床だ。


「おはよう、アリス。早いね」

「エクスこそ……はぅ……」


毎朝のことになってきたが、お互いに裸なのでアリスが毎度俺を見て赤面する。


何故裸なのか……野暮なことは聞かないように。


昨夜も愛し合ったし、そのまま疲れたアリスがスヤスヤと寝てしまうのは仕方ないこと。


そう、仕方ないことなのだよ。


自分の裸を恥ずかしがるの同時に、見惚れるように俺の腹筋やらその他(下半身は勿論、上半身にも反応している)で視線を泳がせるアリス。


ただ、腕枕でしかも抱き寄せてるような格好なので離れるにも限度があり、結局赤面しつつそっと抱きついてくる。


……正直言おう、めちゃくちゃ可愛い!


なお、俺はこのためにあえてシャワーの後に裸になったのだが、アリスがそっとシーツを抱き寄せる姿にもまた萌える。


白いシーツと、真っ白なアリスの肌のコントラストは芸術品だ。


誰にも見せない俺だけの国宝だよね。


「折角だし、シャワーでも浴びようか」

「はい……」


少し恥ずかしいけど、嬉しい……みたいなそのはにかみが実にいい。


何度だって俺はこの笑みに心を奪われる。


きっといくつになっても俺はアリスに恋をし続けるのだろう。


お互いにおじいちゃん、おばあちゃんになっても変わらないと言いきれる。


それくらい俺はアリスを心から愛してる。


ベッドから起き上がって、お風呂場に二人で移動する。


俺はアリスが起きる前……帰ってきてから一度入ってるけど、夫婦の朝シャワーを見逃すようではエクス・ロストの名が廃る。


朝ごはんまで時間はまだあるし、シャワーを浴びてから更にイチャイチャすればいい。


うんうん、これこそ日常。


この世界のためになら何度だって俺は命をかけられると思う。


正確にはアリスのためならだが……アリスは自分のために俺が犠牲になることは嫌がるし何よりも悲しませてしまうので勿論無闇矢鱈に自己を犠牲にはしない。


必要で仕方ないならという感じだが……何にしてもアリスには笑ってて欲しいよ。


その隣に俺はずっと居たいのだ。


それこそが最高の幸せだと俺は思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る