第109話 副団長はお土産を貰う
「さてと……帰るか」
ゼノスの消滅を確認してから、俺はさっさと帰ろうと都から離れる。
転移の魔法もあるので、今すぐにでもアリスの元に戻りたいが、ゼノスが残したプロメテウス手製のペンダントを持っているので些か魔法の調子が悪い。
水中での動きにはそこまで支障はないけど、転移系統を使うのは少しリスキーだ。
早く帰りたい気持ちはあるけど、アリスのためにも無理や無茶は最小限で済ませたいのだ。
必要なら厭わないだけで、好き好んでアリスに心配はかけられない。
アリスの場合、俺の変化を敏感に感じ取るので本人の前に行くとすぐにバレる。
なのでその辺はちゃんと線引きして、大人しく安全ルートで戻ります。
このペンダントを持ち帰る必要はないのかもしれないが、とりあえずこれはうちの国のとある天才科学者にでも見せてみよう。
あいつなら、これを見て色々と解析してくれるかもだし、それでプロメテウスの対抗手段が増えるかもしれない。
まあ、念には念を入れておく。
「強き者よ」
人魚の都から直接帰ろうとすると、途中で声をかけられる。
俺をここまで案内して、他の人魚を退避させていた人魚のロアだ。
「悪いが早く帰りたい」
「存じてます。救っていただいことも既に承知しております。本当にありがとうございました。お時間がないのは無論分かってます。その上で僅かばかりの手土産をと思いまして」
そう言って渡してきたのは、不思議な水色の水晶玉と、魚介類の入った網だった。
「人魚族の秘宝と人間達の住む領域では滅多に取れない海鮮物です。愛する人への迷惑料とお土産としてどうか受け取って頂きたく」
……初対面でも思ったけど、ロアは俺の譲れない部分と引き受けざる得ない部分を的確に弁えてるように思える。
余計な荷物はいらないけど、海産物はアリスが喜ぶだろうし、人魚の秘宝とやらはアクセサリーに加工したらアリスに似合いそうだ。
「なら貰っておこう」
「ありがとうございます。なお、こちらの海産物はこの辺では簡単に取れますので定期的に献上することも可能です」
「美味しかったら頼むが、俺の妻が気に入ったらだな」
「きっと奥様も気に入ると思いますよ」
念の為に毒なんかの鑑定も魔法でしてみたけど、海産物は特に問題なし。
ロアの魔法の『水支配』による影響で今日明日辺りまでは、このままの鮮度を保つことも可能と見える。
俺も似たようなことは出来るし、なんなら新鮮なまま食卓に並べれるように時間を停めておくこと可能だけどそこまでせずに済むのは楽でいい。
人魚の秘宝とやらの水色の水晶は……これは古代の遺物だろうか?
ただの水晶ではないけど、これ単体では特殊な力の宿った水晶でしかないようだ。
加工して使えば色々と役立ちそうだけど……まあ、その辺は帰ってからかな。
これも件の天才科学者と協力すればアリスのアクセサリーとして効果のある物も作れそうだ。
どのみにそれは新婚旅行の後だな。
「ロア、悪いがアイツは自分勝手に消えた」
言うべきかは少し迷ったけど、ゼノスの事をそう伝えると分かっているとばかりにロアは頷いた。
「我々の怒りや憎しみは消えません。でも、それはあくまでも我々の気持ち。今回強き者に願ったのは我々を脅威から救っていただくことで、その解消は我々だけのものですから」
なるほど、それもそうだな。
気を使った訳では無いけど、向こう側にそう考える相手がいるのなら問題は無いだろう。
「死ぬ前にあいつから奪った魔法があるが居るか?」
「いりません。分かってて仰ってますね?」
「まあな」
いくら強い魔法が手に入るチャンスと言っても、自分たちを蹂躙してきたゴミみたいな相手の力はいらないだろう。
俺だって奪ったはいいけど、どう処分するか迷ってるほどだ。
ゼノスは水中での呼吸と動きの魔法と、手に鉄のグローブを纏う魔法以外にも何個かの魔法を所持していた。
あくまで嫌がらせのために奪ったが、これらはそのうち誰かに渡すか、適当に捨てるか魔法自体を合体させてみるしかないかな。
魔法の合体……正確には合成かな?
そんな真似まで出来そうなので、あの女……プレデターのストックの多さとその質にはいつまでも驚かされるが、これでも足りないのだからプロメテウスはやはり化け物だ。
「じゃあ、俺は帰るから」
「はい、このお礼はまた改めて」
「そういうのはいいんだが……まあ、俺の邪魔をしないなら好きにするといいよ」
「勿論です。ありがとうございます、強き者よ」
そう言ってから、俺は土産物を異空間に仕舞うとなるべく早くを心がけて海を移動して、宿まで戻るのだった。
異空間の魔法にプロメテウスお手製の魔法妨害のペンダントを仕舞えれば良いのだが……それをして異空間に問題が生じても困る。
仕方ないのは分かっているが……まあ、とにかく厄介事が片付いたのだから早く帰ってアリスを愛でないとな。
我ながらそこそこ頑張ったし、アリスにこの辺、人間の済む範囲ではなかなか見かけられない海産物を食べさせてあげられるのは喜ばしい。
そのために動いたと思えば悪い気はしない。
四天王?そんな奴もいたけど、俺は海産物のために戦ったので。
だって、その方が思い出にするには綺麗だろうしね。
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