第107話 副団長は四天王最弱を倒す
「いくぜ」
最初に動いたのはゼノスだった。
その巨体からは信じられない程の速さで、俺の背後に回るとその巨大な拳を振り下ろす。
速く、そしてかなりの威力のパンチだが、俺は少し考えてからそれを片手で受け止める。
避けると人魚の都へのダメージが増えそうだし、上手いこと威力を殺して受け止めた方が良さそうだと思っての行動だが、結果として少しクレーターが出来る程度で終わる。
思ったよりも強い威力だったが、素の身体能力で捌けない相手ではない。
「いいな、そうこなくっちゃよ!」
先程の拳よりも速い蹴りが迫ってくる。
鉄を仕込んでそうな重そうな靴を履いてるようで、当たるとそこそこ痛そうだけど、このまま人魚の都の地面で戦うよりは浮いて戦う方が良いだろうと判断してそのまま空中へと上がる。
「まだまだいくぜ!」
なんとも楽しげにその巨体で縦横無尽に動き回る四天王のゼノス。
俺が上手く捌く度に、歓喜している。
紛うことなき戦闘狂だが、恐らくまだ全力は出してない。
楽しんでいるのだろう。
俺としてはそれに付き合う義理もないのだが、どうするか。
長引くのもなぁ……仕方ない。
「俺を殺すには、この程度じゃ足りないぞ?」
挑発を交えてみると、更に嬉しそうに獰猛な笑みを浮かべる四天王のゼノス。
「いいだろう!ならばここからは本気だ!」
その言葉と共に、四天王のゼノスの両腕に凶悪な鉄のグローブが現れる。
ゴツゴツして一撃で相手をズタズタにしそうなそんなやつ。
「これこそが俺の切り札!この拳を受けたものは誰だろうと必ず殺す!」
あの巨体から繰り出される凶悪な鉄のグローブでの一撃。
確かにどんな強者だろうと一撃だろう。
「お前なら耐えてくれると信じてるぜ!」
嬉しくない信頼と共に拳を繰り出してくる。
受け止めてもノーダメにすることも出来なくはないのだが、場所的にも人魚の都や隠れてる人魚に被害はないので避けることにすると、その一撃は海面を突き破って空まで届くように雲を貫いていた。
……おいおい、どれだけの威力だったのやら。
津波の心配が過ぎるけど、強すぎる威力故に最小限の被害で済んだようだし、問題なさそうだ。
この距離でも分かるのだから魔法とこのチートな身体能力には感謝しかないが、避けると被害が広がるのはよく分かった。
俺が上手いこと捌くのが一番か。
「ふはは!避けるとは連れないな!もっと楽しもうぜ!」
気楽なものだ。
しかし、様子見ばかりしても仕方ないか。
「なら、行かせてもらおう」
「おう!」
水中の足場を利用して、俺はいつもよりも少し速くを意識して、懐へと飛び込む。
「ふんっ!」
かなり強めのパンチをそこそこ余裕を持って防がれる。
やはり、いつも通りでは勝てないか。
なら仕方ない。
身体強化、いくつかある魔法、それらの使用を一瞬考えてから、止めて、俺は我が家の家宝であるゼロを抜いた。
魔法の無効化によって、鉄のグローブにヒビが入る。
水中での呼吸や動きも魔法だったのか、少し鈍くなるが、それでもいつもよりかかりが悪い。
やはり、何らかのゼロの無効化を阻害できる何かがあるのかもしれないが、効いてない訳では無いし問題ない。
「ふはは!面白い力だな!いいぞ、そうこなくてはな!」
戦闘狂怖い。
そう思いつつも、俺は久しく無かった相手の力に少し心が踊ったような気もした。
多分気のせいだろう。
そう思いながら、俺は加速する。
身体強化の魔法なしの、今の素の身体能力でのMAXに近い加速。
すれ違いざまに5連撃。
「ぐぅ!ぬあ!」
そこそこ深く入った斬撃にも負けず何とか拳を振り下ろしてきたが、ゼロの側面で弾いてから更に5連撃。
「がっ!ぐっ!がぁ!」
かなり出血が酷くなりそうだったので、海を汚さないために俺は人魚の都の結界内までゼノスを蹴り飛ばす。
吹っ飛んだゼノスに先回りして移動してから、迎え打つように俺はゆっくりとゼロを構えて言った。
「終わらせるぞ」
「――望むところ!」
心からの笑みでゼロの効果でボロボロになった鉄のグローブを付けた拳を向けてくるゼノスを俺は軽くいなしてから、最速の20連撃にて仕留める。
「ぐぼぉ!……見事……」
血反吐を吐いて、ニヤリと笑ってから膝を着くゼノス。
「プロメテウス様……四天王最弱の……俺をお許し……」
崩れ落ちながらそんなことを言うが、最初に戦う四天王が最弱と相場が決まっていたようだ。
にしても、これで最弱なら残りがどれだけ強いのやら。
そして、その先にいるプロメテウスという存在への警戒も増すというもの。
あの父上や祖父が勝てないと言う化け物なので、当然警戒はしていたけど、想像よりも更に強い可能性もあるとよく分かった。
四天王最弱でこれだけ強いのだから残りのメンバーもそしてトップのプロメテウスもかなりヤバいだろう。
ゼノス相手に割りとマジで剣技を使ったし、身体強化とその他の魔法は使わなかったにしろ、力だけなら今世で最も強い相手だったと思う。
そう思いながら、俺はゆっくりとゼロを鞘に仕舞うのであった。
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