第106話 副団長は四天王と出会う
近づくにつれて、その大きさがはっきりと分かる。
前世で子供の頃に見た特撮の巨大ヒーローや巨大ロボット、そしてその敵役の巨大怪人やらに通ずるようなそんな大きさ。
普通ならそのサイズ差はかなり絶望的なはずなのだが、不思議と恐怖はない。
大きいだけなら楽なんだけど、はてさて。
「ん……おかしなのが来たみたいだな」
俺の接近にアホ面でイビキをかいていたそいつはむくりと起き上がる。
寝起きでボケた様子もなく、真っ直ぐに俺に視線を向けてくる。
油断していたてくれたら楽なのだが、そんな様子は欠片もないようで少し残念。
「魚の仲間にしちゃ、気配の強さが段違いだな。何者だ?」
「ただの助っ人だよ」
「そりゃ凄い。お前みたいな大物を連れてくるとは、人魚ってのも意外とやるのかもな」
サイズ差と距離で本来なら会話になるか分からない普通の声量。
なのに普通に届いているのだから、魔法の力は偉大だ。
1つでも持っていたらそりゃ強いわな。
「人魚の都を襲ってるのは誰かの差し金か?」
「ただの俺の暇つぶしだ。水の中で動ける力を授かったし、魚が食いたくなってな」
授かったねぇ……。
「プロメテウスという名前に心当たりは?」
そう聞くと、そいつはスっと瞳を細める。
「知ってたらどうだというんだ?」
「四天王だと名乗ったそうだな。誰の四天王を自称してるのかと思ってな」
心を読む魔法のかかりが少し悪い。
何らかの魔法による妨害だろうか?
それでも、ある程度の情報は読み取れるので確信はしっかりと得ることができた。
「……なるほど。ただの偶然で人魚に連れてこられた訳でもないということか」
しばらくの視線の交差を経て、そいつは居住まいを正して名乗る。
「俺は暗黒神プロメテウス様の四天王が一人、ゼノスだ。名前を聞かせて貰おう」
「愛する妻を持つエクスだ」
名乗る必要も義理もないけど、端的に名乗る。
すると、その言葉にしばらく考えるような様子を見せてからそいつは思い出したように呟く。
「確か、サルバーレからの薬物のルートを潰された辺りから聞くようになった名前だな。プロメテウス様が珍しく少し気にされていたようだったが……なるほど、お前みたいな奴がいるとは、まだまだこの世界も楽しめるようだ」
「楽しむ?」
「ああ、壊すだけなのにも飽きてきてな。色々と弱者をいたぶる方法も模索していたが……やっぱり強いやつを倒すのが一番楽しめる」
文字通り、人魚の都を襲ったのは暇つぶしということか。
アホらしい。
「随分と勝つ気満々だな」
「お前の強さを舐めてる訳じゃないさ。だが、プロメテウス様から力を授かった俺たち四天王はそこいらの雑魚とは別格ってだけさ」
不敵に微笑むそいつだが、確かにその自信に見合う力はあるようだ。
借り物だろうとその力を使いこなしてるようだし、その辺は油断するべきではないだろう。
とはいえ、それでもさして問題はないけど。
「そうか。なら、戦う前に最後に質問だ」
「ん?何だ?」
「プロメテウスは何を探してる?いや、何を求めて今動いている?」
海を経た別の大陸で動いているとはいえ、情報が入らない訳じゃない。
だからこそ、俺はプロメテウスの動きを簡単には把握出来ていた。
そして、その動きを知ると、何か目的があるように思えて仕方なかった。
いや、むしろその可能性が高すぎる。
プロメテウスがこの大陸で動いていた頃の様子からもそう思える。
なので答えは期待せずにそう聞くと、そいつは端的に答えた。
「詳しくは知らない。だが、あの方が探しているのはあの方にとって宿願とも言えるものらしい」
「宿願ねぇ……」
何れにしても、厄介この上ないな。
そう思っていると、そいつはゆっくりと近くの大きな樽を持ち上げるとそれを一気に飲み干してから地面に放り投げる。
大きさからかなりの衝撃になるけど、こちらを狙った攻撃ではないし何も問題はない。
直撃してもダメージにはならないし、飛んできた埃を払う程度で済む。
「さて、いつまでも世間話ってのもつまらんだろ。強者が揃ったらやる事は一つだ」
構えてから戦闘モードに移行する四天王のゼノス。
「元から、お前さんの目的は俺を殺すことだろ?俺もお前さんを殺したくて仕方ないんだ。だから――」
ニヤリとそいつは笑みを浮かべて「――早くやろうぜ」と言う。
心から戦いに飢えていて、相手をかっ食らうようなそんな獰猛な獣の視線。
殺し合いこそが生きがいのような、そんな本心がよく分かる笑み。
正直言うと、理解に苦しむ。
そういうノリは好きじゃないのだが……まあ、聞きたいことは聞けたし得られたものもあった。
俺としても早くアリスの元に戻りたいし、早めに決着を付けるのには賛成だ。
ゆっくりと俺も体を解してから、軽く構える。
剣を使うべきかもしれないが、あまり派手にやりすぎて人魚の都をめちゃくちゃにするのも不味い。
そのくらいの力加減は慣れてきたが……何にしても、使うタイミングは選ぶべきだろう。
相手はかなり強者。
その大きさは人間では絶望的だけど、恐怖はなく、油断もない。
俺はただ、アリスの元に早く帰れるように最善を尽くすだけ。
そう思いながら俺は相手の出方を見守るのであった。
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