第105話 副団長は人魚の都に着く
海の中なのに、その場所は不思議と光に溢れていた。
薄い膜が覆うように、都の周囲を円形に包み込んで、広がっている。
その中に都はあった。
古代都市がそのまま海の底へ沈んだと言われても納得しそうなクオリティだが、それらは戦闘によって半分くらい壊れていた。
きっと、こうなる前は更に綺麗だったと納得出来るので、少し残念。
アリスが喜びそうな光景だし、報酬として都の完全な状態をアリスに見せられるかと思ったけど……まあ、その辺は片付いてからだな。
「他の人魚は?」
「各地に応援を呼びに行ってるのが半数。逃げ出すか、果敢にも挑んで散ったのがその半数、残りの半数は近くの場所で篭城してます」
だろうな。
人の気配がなさすぎる。
いや、人ではく人魚か。
人魚は比較的穏やかな気性だと聞いたけど、種族差別とか言い出す輩のために言葉には気をつけないと。
そんな事で面倒事を呼び込むなんて嫌すぎるしね。
「じゃあ、あそこでイビキかいてるのがその襲撃者って訳だ」
「そうです」
都の中心部。
城を半壊させて、その中でイビキかいて寝ているのが件の四天王を名乗る襲撃者のようだ。
遠目からでは普通のサイズに見えるが、この距離から城のサイズと比べても釣り合ってる時点でおかしい。
人魚の城は普通の人間の大きな城ほどもある。
それと同じというのがね。
相当、本体は大きいのだろう。
「ああして、あそこでアホ面で寝てますが、それでも太刀打ち出来ません。寝込みを襲っても余裕で殺されます」
起きてる時は、人質の人魚を弄んでるとのこと。
具体的には、泣き叫ぶ人魚を面白がって、手足をもいだり、拷問器具で遊んだりと実にクレイジーらしい。
その同胞たちの様子に歯ぎしりするしかない人魚達を楽しんでいるのだろうと。
「襲われてからずっとあの調子なのか?」
「一ヶ月ほどはそうしてるようですね」
聞けば、他の都でもそうして一月程過ごしてから、飽きたように残ってる人魚達を大虐殺して次の都を目指してるのだとか。
「我々のこの都に来てから半月ほど。あと半月もすれば私達は皆殺しにされるでしょう」
水中には人魚の屍は一つもなかった。
外に張ってある、円形の薄い膜が結界になって、海に不純物が流れないようになってるらしいが、その結界も壊されたように一部が欠けている。
その上で、人魚の屍はがない理由。
「奴は悪魔です。そうとしか思えません」
嬉々として痛めつけた人魚を食べるらしい。
その様子は悪魔にしか見えなかったそうな。
「思ったよりも大物が釣れてそうだな」
正直、もう少し楽な相手なら良かったのにとしみじみ思う。
いや、そもそも新婚旅行期間に相手をするような奴ではないと思うんだ。
何だってせっかくのアリスとの新婚旅行先でそんな怪物を相手にしないといけないのか。
……愚痴っても仕方ないのは分かるけど、心底そう思った。
「一つ質問がある」
「なんでしょうか」
「結界というのは壊れてるみたいだけど、今でも効果は発してるのか?」
「まだ辛うじて動いてます。これ以上欠損が激しくなれば分かりませんが」
「ならなるべく小規模に倒せば、あれの血で海は汚れないってことだな」
果たして血のある生き物なのか定かではないが、プレデターを相手するよりも気が楽になる。
プレデターのように己の想いを持ってるようなタイプではないだろうし、対話する価値もない。
ただ、聞けることは聞いとくべきだろう。
答えるかは別にしても、それだけで心を読む魔法で読み取れる可能性もなくはない。
軽くストレッチをしてから、体の感覚を確認する。
問題なく動けそうだ。
道中の移動で慣れたのは大きい。
「あの結界の仕組みは後で教えて貰えるのか?」
「私達も知りません。先祖代々の人魚族の家宝としか」
古代の遺物だろうか?
何にしても面白そうだが、同時に面倒そうな代物なので他にもないか探してみるとしよう。
「なら仕方ない。じゃあ、これからあれの相手をしてくるから、絶対に誰もこちらに来ないように通達を。そして、終わったら俺は即帰るから絡まないように話もつけといて」
「後日、我々の代表がお礼に伺うのはどうでしょう?」
「時間による。明日、明後日の同じ時間なら出向いてもいいが、俺は今大事な人と楽しい旅行中なんでね。邪魔するようなら今後仲良くはできないかな」
そもそも、今回は事前に面倒事を回避したのにこの仕打ちなので、人魚族に非がなくても多少対応が雑なのはご容赦願いたい。
必要なことと分かっていても、せっかくの新婚旅行なのにこんな事をしてる時点で四天王を名乗るアホにムカついて仕方ない。
だけど、それで油断したりはしない。
慎重にかつ、素早く倒そう。
「分かりました。我々も強き者の機嫌は損ねたくありませんし、なるべくなら友好関係を築きたい。委細承知です。では、ご武運を」
「ああ、行ってくる」
タイムリミットまではまだ多少猶予があるとはいえ、アリスとの時間は一分一秒が大切なのだ。
だから油断なく手早く片付けることを優先しないと。
遠ざかるロアの様子を見ながら、俺も都の中心部である半壊する城へと足を進めるのであった。
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