第104話 副団長は海を駆ける
魔法による効果を確認してから、そのまま俺は水の中に入る。
不思議と暗い海の底がクリアに見える。
魔法の効果だろう。
服も魔法の効果で濡れることも無く、陸の上と何ら変わりはない。
呼吸も普通に出来るし、上下の感覚も、動きにも淀みはない。
「流石ですね、私がフォローする必要も無いとは」
当たり前のように水中で言葉を発する人魚のロア。
陸よりも動きにキレがある。
「どっちだ?」
「あちらです。着いてきてください」
そう言われて、ロアの案内で水中を進む。
水のある場所の全てに地面があるような感覚。
その上で、蹴った分だけ前に進むのは不思議な感覚だ。
全てが足場で、全てが空間。
「ロア、もっとペースを上げても大丈夫だ」
「分かりました」
慣れるまで多少の違和感は仕方ないが、ここでのんびりする時間は勿体ない。
俺の言葉にロアは迷う様子もなくペースを上げる。
かなりの速度だけど、地面よりも体にかかる負担が少なく感じる。
魔法の影響か、はたまた重力か、その辺は定かじゃないけど、水中という場所は慣れによってはかなり動きやすいのかもしれないとは思った。
その感覚を覚えつつ、徐々に水中に体を合わせていく。
これから戦うのは、プレデター以来の強者の可能性が高い。
ならば、不慣れな場所、不慣れな環境に早く適合して条件を整えるところから初めないといけない。
ゼロの調子も悪くない。
魔法を無効化できるだけでなく、俺の武器としてもゼロは相性が良い。
手に馴染む武器は久しくなかったのだが、祖父に感謝だな。
「ロア、もっと速く行けるか?」
「最速で良ければ」
「それで頼む」
そう言うと、ロアの動きはこれまでとは別格になる。
掻き消えるようにさえ見える速度。
父上クラスでさえ目で追えるかどうかのおかしな速度だが、俺はそれに余裕で着いていく。
転生してから、何もしてなくても日々体が進化してるような感覚があった。
その上で訓練もサボらずしていたし、技術や経験以外のスペックは父上どころか全盛期の祖父を超えてる可能性もある。
ただ、その技術や経験が父上や祖父は圧倒的すぎる。
歴戦の勇士と言うのがよくわかるし、世界でも数えるほどの強者というのも納得出来る。
力だけなら勝てるだろうけど、それらをあしらう技や経験が段違い過ぎて、それだけでさえ最強を名乗れるレベルであった。
だからこそ、俺はそれらを全て学んだ上で更に先を目指さないとダメだろう。
そんな強すぎる彼らでさえ、プロメテウスには勝てないという事実を聞けば尚のことそう思う。
本当はそんな面倒な相手と戦いたくはないけど、知ってしまったのなら対処しないとアリスに何かあったら困る。
「強き者よ」
まだまだ余力のある中、道案内のロアが声をかけてくる。
……そういえば、名前を名乗ってなかったな。
「エクスだ」
「いえ、強き者と呼ばせてください。この速度に平然と着いてきてくれて頼もしいです」
「お褒めに預かり恐縮……かな」
「私はこれでも、人魚の都では最速を誇ってますから、そんな私よりも更に速くて、強そうな貴方に会えて良かったです」
というか、妙に俺の強さを信じてるようだ。
治癒しか魔法は見せてないのだが……水中での動きで複数の魔法があるのが分かったからこその反応だろうか。
人魚は一つの魔法を必ず持って生まれる。
『水支配』という強魔法だが、それしか魔法は使えない。
使えるだけで凄いけど、やはり複数の魔法の所持というのはかなり大きなアドバンテージなのだろう。
プレデター、プロメテウス。
俺の知る限り、魔法の複数所持が確認できるのは彼らのみ。
プロメテウスの方は話でしか聞かないが、各地に残る名残から警戒してもまだ足りないとよくわかる。
というか、あの化け物筆頭の父上と祖父をもってしても勝てないと言わしめる時点でヤバすぎる。
プレデターはそんなプロメテウスを一途に想って、本気で殺して自分と一つになりたいと思うような凄すぎるやつだった。
複数の魔法もプロメテウスのために備えていたけど、それだって本来人の身には余る行為なのは確かなので、その熱意はよく分かった。
俺が平気なのは……アリスへの有り余ってもまだ溢れ出す気持ちも強いだろうけど、恐らくロスト子爵家の身体強化の魔法が、特別に複数の魔法に合った結果だろうと何となく予想は出来た。
それだけなら、父上や祖父も複数の魔法を持てそうだけど、魔法を奪う魔法がないとそれは難しい。
そう考えると俺はラッキーだったと言うべきだろうか?
いや、押し付けられたようなものだし感謝はしない。
有効活用はするけどね。
アリスを守るためにあれこれと手札が増えたのは大きい。
面倒事もある程度はリンスが盾になってくれるだろうし、リンスとは良い関係を築けているので今後も面倒事はばしばし巻き込もう。
まあ、言わずとも自分から関わってきそうだけど、あのイケメンは。
今回の新婚旅行に関しても、『自分たちも参考にするから是非とも楽しんできてよ』と少し長めに休みをくれるように動いてくれたし、本当に助かる。
その分の厄介事を片付けているのだからある意味当たり前だけど、だからこそ信頼もできる。
信じすぎるのも良くないけど、その辺は上手いこと見極めば問題ない。
そうして、進むこと暫く。
かなりの距離、かなりの深度のはずなのに、クリアに見える視界で、数分もしないうちに俺は目的地である人魚達の住まう都へと足を踏み入れるのであった。
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