第103話 副団長は仕方なく巻き込まれる

人魚という種族の歴史は古いそうだ。


人目に触れることない海の中を住処として、生活しているそうだ。


「魚や海藻が主食です」


共食いに思えるが、人魚は人でもなく、魚でもないので共食いとは違うそうだ。


まあ、割とどうでもいいけど。


「この大きな海の中には、いくつもの人魚の都があります。とはいえ、人魚の数は年々減ってるので、管理できてはいないんですが」


少子化が人魚にも来てるらしい。


世知辛いものだ。


なお、都というのは本当に海の中に都市があるらしい。


陸に住む人間と同じような都市に憧れて一時期流行ったのだとか。


本来は、そんな物は必要ないけど、海の中で人魚は最強の存在で、それだけの余裕があるのだとか。


「人間は海の底には来られません。海の動物や魔物も私達にとっては大した驚異ではないですから」


その理由の一つが、人魚にはとある魔法が先天的に宿っているかららしい。


「『水支配』という魔法が、人魚なら誰でも使えます」


人間とは違い、人魚は誰もが魔法を使える。


ただし、使える魔法は皆んな同じ。


そう聞くと何とも言えないところだけど、『水支配』という魔法の効果を聞くとかなり凄いことが分かった。


まず、水中において、この魔法を持つ人魚は無敵ということ。


水圧の調整?水の固定化?そんな可愛いものでなく、文字通り水を支配する。


息をするようにそれが出来る上に、人魚は水中において機動性も高く、力も強い。


サメの魔物を夜食感覚で狩れるらしい。


サメの魔物は一体居れば、付近の船が壊滅して、漁に影響が出るような凶悪性があると聞いたことがある気がする。


幸いこの近辺には居ないらしいが、遠くの海辺の街ではそのせいで街の機能が停止して大惨事になったとか。


まあ、それはどうでもいいとして。


人魚が強いのはよく分かった。


……しかし、聞けば聞くほど何やら知ってる力のように感じる。


「本当に人間とは関わってないんだな?」

「ええ、陸は遠いですから。でも、人間に憧れて、足を貰って人魚という種族を捨てた子も居ましたが」


たまにそういう変わり者が居るそうな。


そして、その場合海の神様に願えば、人間の足を貰うことが出来る代わりに、人魚ではなくなるらしい。


魔法は残っているけど、ほとんど使えない状態でその状態は人間としてカウントされる。


なるほど、つまり俺が知ってる力だと思ったのは、プレデターがその状態の相手から魔法を奪ったからということか。


『水支配』と思われる魔法が確かにプレデターから受け取った魔法の中にあったし、その割には感知魔法にこの人魚が引っかからなかった訳も説明がつく。


「それで?話からして人魚がここに居るのはイレギュラーということになるはずだけど」

「ええ、異常事態が起きまして」


今から数ヶ月前、穏やかに暮らしていた人魚達の都の一つが落とされたらしい。


相手は水中でも自在に動け、水中最強の人魚ですら歯が立たない化け物だとか。


なお、その敵は四天王を名乗ってるらしい。


「何の四天王?」

「聞き覚えない名前でしたので、忘れました」


四天王……前に倒した魔王もどきにも四天王はいたけど、人魚に勝てるとは思わないし、別世界に送り出したので関係ないと思われる。


そうなると、別の誰かの四天王だろうけど……何にしても、水中最強の人魚に勝てるような相手なら面倒すぎる。


「ここに来たのは、人間への協力の要請か?」

「あくまでも可能性の一つとして、私が提案して私だけで来ました」


水中でも呼吸ができて、自在に動けて、尚且つその襲撃者に勝てる強者。


確かに考えるだけでかなり可能性の低そうな話ではある。


しかし、そこにわざわざ俺が出向いてしまった訳か。


「強き者よ。是非とも我らに助力を。差し出せるものは少ないですが、何卒」


正直言えば、面倒くさいので関わりたくない。


だが、四天王を名乗る輩に人魚……放置したら更に悪化するのが考えなくてもよく分かってしまう。


「……その人魚の都はここから近いか?」

「私が居ればそんなに時間はかかりません」

「行き帰りで朝までに戻れる自信は?」

「移動だけなら問題なく」


なら、後は俺がどのくらい早く倒せるかにかかってそうだな。


「相手は魔法を使っていたか?」

「水中での動きにはそれらしき形跡もありますが、私たちとは種類が違うようです」


だとすると、人魚のようにナチュラルに水中で動ける訳でなく、魔法によって補っている可能性……陸の種族の可能性が高そうかな。


最悪、ゼロで相手の魔法を無効化して呼吸切れでギブアップが出来そうだけど、そんな生易しい相手であれはどれだけ楽だろうか。


「分かった。戦うだけ戦ってみよう」

「ありがとうございます」

「ええっと、名前は確か……」

「ロアと申します。強き者よ」

「なら、ロア。早速案内を頼む。俺も早く戻りたいからな」


巻き込まれるのは不本意だけど、放置するにも厄介そうな気配しかない。


どうせ今後自分が対処に駆り出されるのなら、早く動いて潰すに限る。


水中での戦闘はそう経験は多くないけど、この前一人で遥か遠くの海まで転移して、サメの魔物相手に水中戦の練習はしていたので、動けないこともないだろう。


魔法のお陰で水中での呼吸も動きも何も問題は無い。


あとは相手の強さ次第かな。


慢心しないで、もっと頑張ろうとそう思いながらも俺は早くアリスとの新婚旅行を満喫するために朝までには戻ろうと決意するのであった。

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