第102話 副団長は人魚と出会う
その日の夜中。
アリスと愛し合って、今日も充実していたと思ってい時にそれは出てきた。
俺の感知魔法に、さっきまで無かったはずの存在を確認。
場所は昼間の海辺だけど……立ち入りを禁止して、人よけの魔法を夜でも展開してるのに急に感知範囲に入ってきたのはかなり妙だ。
プレデターから魔法を渡されて、それら全てを完全に把握して使いこなせてるからこそ、その不自然さには違和感しかない。
考えうる可能性の中で最も最悪を想定しつつ、寝ているアリスを起こさないそうにベッドを抜け出す。
本当はアリスから離れたくないけど……仕方ない。
日が昇る前には確実に戻れるようにしよう。
そう思いつつ、そっと頬に口付けをして俺は現場へと向かう。
夜の海は独特の暗さと月明かりが同居してる不思議な空間。
その中にそれはいた。
上半身は紛れもなく人間の女性。
特に目を引く訳では無いけど、それなりには整っている顔立ちの女性。
それだけならば、そこまで驚くことも無い。
問題は、その女性の下半身が魚だということ。
人魚と言うのだろうか?
ボロボロに傷ついた人魚が倒れており、霞んでいる視界でこちらを見ている。
意識はあるようだ。
さて、どうしたものか。
プロメテウス関係の厄介事の気がしていたが、それよりも別の面倒事の予感がしてくる。
見なかったことにするにしても、決断は早い方がいい。
しかし……
「ま、折角の新婚旅行で手を汚すのもね」
アリスとの折角の新婚旅行で、嫌な記憶を残したくはない。
俺はその人魚に敵意と害意が無いことを確認すると、魔法によって治療を施す。
プレデターは治療系の魔法をいくつか所持していたけど、使っていたのは徐々に回復するような効果の低いものばかりだったようだ。
主に、傷口を広げたり、痛みで苦しむ様子を眺めるのに使っていたようだが、プレデターの性格を知った今としてはその理由も凡そ理解出来た。
その理由というのが、実験と……自我を保つための些細な息抜き。
恐怖の中で、新しい魔法に目覚める可能性をプレデターは期待していたようだ。
実際効果があるのかはさておき、それをする事でプロメテウスの想いを更に意識したりといった副産物もありそうだが、何にしても俺はそんな悪趣味な使い方は多分しない。
アリスに危害を加えたり、少しでもアリスの心を曇らせるような輩には、何度でも死の痛みと苦しみを味わせることくらいはしそうだが、基本的には俺はアリスを害さないのならそこまで過激にやるつもりはない。
それに時間が勿体ない。
そんなくだらないことしている暇があるならアリスを愛でたいからだ。
やっぱりアリスこそ至高。
そんな事を考えていると、傷が癒えた人魚が魔法の効果からの驚きが落ち着いだようで、ゆっくりと体を起こした。
「助けて頂き、ありがとうございます」
「気にしなくていいよ。善意で助けた訳でもないし」
「……見返りは体ということでしょうか?承知しました」
「いや、それだけは止めてくれ」
人魚と交わるような真似はご遠慮願いたい。
というか、俺はアリス以外の女を抱く気は無い。
なんでわざわざそんな汚らわしい真似をせにゃならんのじゃか。
好きな人を抱くからこそ意味があるというのに。
「それよりも確認だ。お前は人ではなく、更に言えば何者かに敗れたか追われてこの地に居る……その認識で大丈夫か?」
「ええ、そうです。私達のことは、人魚と呼ばれてるそうですね。人の世界では」
なるほど、感知魔法に反応が無かったのは知らない種族だったからか。
人魚なんて、この世界でもおとぎ話に近い存在だし、俺自身、旧エクスさんとして出会ったことがないのでカウントされてないということだろう。
ひょっとしたら、前の所有者のプレデターですら知らなかったのかもしれないな。
人魚が居た以上、他にも人間以外に種族がある可能性を考慮に入れるべきか。
その辺は再検討するとしてだ。
「事情の説明をする気はあるか?」
「巻き込まれてくださるのなら」
「すぐに済む要件だったら考えなくもない」
今すぐにでもアリスの元に帰りたいのに、長引く要件など御免こうむる。
とはいえ、放置する訳にもいかないし、放置してアリスに危害が加わってからでは遅い。
余計なことに首を突っ込みたくはないが……最低でも話だけは聞いて対策を練っておかないと。
それにしても、事前に面倒事の芽を摘みまくってこいてこの様とは。
もっと思考を柔軟にして、更に可能性を探っておくべきだったが、悔やんでも仕方ない。
早期解決と、早期の撤収が最優先。
アリスの方には部屋中に多重に魔法による防御を張っておいたし、護衛も宿内に複数配置している。
今すぐプレデターが複数攻めてきても守りきれる自信のあるそれだが、単純に俺自身が早くアリスの添い寝に戻りたいという気持ちが強いのは仕方ないだろう。
新婚旅行に影響が出ないようにしようと決意を固めていると、俺の治癒の魔法を見た人魚が期待をしたような視線を送ってきながら事の経緯を説明し始めた。
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