第73話 騎士団長の息子は究極を目指す

「こんにちは」

「あら、エクス様。お待ちしてましたよ」


女性ものの品が多い店に一人で入るのは多少の勇気がいるがこうして職人と会わない意味がないので仕方ないだろう。この国で衣服においては一番の職人であるメンデルさんに俺は聞いた。


「頼んでいたデザインでいけそうですか?」

「少しだけ難しいですが、出来なくはないかと。ただ、問題は生地なんですがね……」

「やっぱり今のままだとクオリティ低いですか?」

「ええ、そうですね。シルクワームでは足りませんね。最高級のホワイトエンペラーシルクワーム辺りが出来れば欲しいですが、なかなか入手は困難でして」


シルクワームとは、かいこのこと。シルクを作るには必要なのだが、この世界には更に上位個体が存在する。それがホワイトエンペラーシルクワーム。生息地すら限られるレアな存在なのだが、最高のウェディングドレス造りのためなら仕方ない。


「わかりました。調達して来ましょう」

「エクス様がですか?」

「ええ。代わりに持ってきたら最高のウェディングドレスに仕上げてください」


その言葉にメンデルさんはポカーンとてから頷いて言った。


「わかりました。他ならぬエクス様の頼みですからね。何より婚約者のためにここまでする殿方は滅多にいませんから全力を尽くさせていただきます」


虫とりなんてあまり好きではないが、アリスのウェディングドレスのためなら仕方ない。そうして約束を取り付けてから俺は次に結婚指輪のためにアクセサリー店に訪れた。


「ミッシェルさんいますか?」

「これはこれはエクス様。ようこそ」


店のオーナーで、採掘場と加工のための工場をいくつも持つアクセサリーに精通するスペシャリストのミッシェルさん。彼に頼むのはダイヤの指輪だ。


「要望通りのものは手配できるかと。ただ他ならぬエクス様に是非お耳に入れたい話がありまして」

「と、言うと?」

「実はつい最近、私の下請けの店に奇妙なダイヤを持ち込んだ客がおりまして。確認したところどうやら新種のものらしく、今現在どこでそれを手に入れたのか調査していたんですが、どうにも質の悪い盗賊の住みかの近くの鉱山らしいんですよ」

「なるほど、しかしそれは本当にダイヤなのか?偽物の可能性は?」

「少しだけお待ちを」


そう言ってから裏に下がってからミッシェルさんは二つのアクセサリーを持ってきた。片方は普通のダイヤモンド。もう一つはそれより遥かに純度の高いものだとわかる。


「なるほど、確かにこれは凄いですね」

「ただ、これは加工に失敗してましてとても人前には出せません。なるべくならきちんとした品をご提供したいのです」

「わかりました。なら、盗賊を殲滅してきてから鉱山を私の物にしてきましょう。その上で取り引きというのはいかがですか?」

「ええ、お願いします。幸いなことに盗賊の住む鉱山は我が国のギリギリの場所にあります。発見者としてエクス様が国に報告するならそれで構いません」


別に鉱山はいらないけど、どうせ盗賊を全滅するならそれなりにギャラは貰わないとね。それにしてもさっきのシルクといい、最近はお使いクエストが多いな。


「私の私兵はいりますか?」

「いえ、ただ、鉱石を見るだけでは判断できないので、出来れば目利きが出来る人材をお借りしたいです」

「わかりました。弟をお貸ししましょう」

「弟さんがいるのですか?」

「ええ、呼んできますね」


そう言ってからまた裏に戻るとしばらくしてからミッシェルさんによく似た顔のミッシェルさんより背が高い青年が現れた。後ろから出てきたミッシェルさんが紹介してくれる。


「弟のルーテルです。まだ若いですが、目利きに関しては一流ですので足を引っ張ることはないかと」

「よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく。えっとルーテルくんでいいかな?多分年近いよね?」

「はい。エクス様」

「えっと、じゃあ後日改めて連絡するけど何かあるかな?」


そう聞くとルーテルくんは少しだけ考えてから聞いてきた。


「あの、無礼じゃなければ聞きたいのですが、エクス様は婚約者のためにどうしてそこまで出来るのですか?」

「そんなの好きだからに決まってるだろ?」


むしろそれ以外にどんな理由が必要なのかむしろ聞きたいくらいだ。アリスのことが好きだ。だから最高の結婚式にしたい。ならば例え小規模な式でもアリスのために出来ることをするだけ。まあ、着飾ったアリスをみたいだけなのだ。ウェディングドレス姿のアリスを拝めることなんてそうそうないからね。まあ、終わった後でもアリスに頼めば着てもらえそうだけど、それはそれだ。そんな俺の言葉にルーテルくんはぽかーんとしてからくすりと笑って言った。


「エクス様は凄い人ですね」

「ルーテルくんもそうだろ。兄にこれだけ信頼されているんだから」

「そうでしょうか?まあ、僕でお役に立てれば喜んで協力させていただきます」


こうして材料集めをすることになるのだった。まあ、直ぐに終わらせてアリスの元に帰ろうと思うのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る