第74話 騎士団長の息子はドラゴンを狩る
「うおー!ヤバい!マジでヤバい!助けてくれー!」
『グラァァァァァア!!!』
目の前でドラゴンに追い回される我らがファンくん。正確にはドラゴンの見た目のスペックは限りなく低いドラゴンなのだが、それでも魔法がないただの人間のファンにはキツいようだ。愉快に走り回って避けれてる時点で気づきそうなものだが、人間やっぱり外見に惑わされることは多いようだ。
「先生、助けなくていいの?」
「さ、流石に可哀想じゃないですか?」
「でも、楽しそうじゃない?」
連れてきたのはファンだけではない。教え子のガリバー、マナカ、ライアの三人も一緒に本日はウェディングドレス作りのためのホワイトエンペラーシルクワームを捕まえに来たのだ。三人にはホワイトエンペラーシルクワームを捕獲して馬車まで運んで貰っている。
では、何故ドラゴンなんかと鉢合わせたのか。簡単に言えばドラゴンの巣の近くがホワイトエンペラーシルクワームの生息地だったからだ。まあ、ドラゴンからしたら食べる理由がない存在だから逆に安心して巣作りできるのだろう。
「おーい、ファンや。追いかけっこもいいけど、そろそろ倒していいんだぞー」
「無茶言うな!こんな化け物テメェじゃないと倒せないだろうが!」
そんなことはないと思うが……しかし、流石にいつまでもドラゴンと遊んでいて貰っては困るので俺は仕方なく俺が自分で片付けることに決めた。
「ガリバー、マナカ、ライアの三人は作業を進めてくれ」
「先生はどうするの?」
「俺はファンを連れてくるから」
「先生、俺がやっつけようか?」
「気持ちは嬉しいが、流石にそれはファンが本気で泣きそうだから遠慮しておこう」
ただでさえこの三人よりも弱いのにそれをさらに自覚させるようなイベントは控えるべきだろう。というか、自分より幼い子供に助けられたら男のプライドがズタズタになるだろうからね。
俺はゆっくりとドラゴンに近づくとドラゴンはファンから俺にターゲットを移したようで、ギロリと視線をこちらに向けてから爪を突き立ててくる。当たれば確実にざっくりいきそうなそれを俺はゆっくりと爪の先端を見極めて片手で受け止める。
「な……か、片手でドラゴンの爪を……」
「ファン、さっさと作業に戻れ。いつまでもここで油を売るのは許さない」
「いやいや、そんなデカブツ俺には無理だから!」
「倒す必要はないだろう。こうして……」
俺はゆっくりとドラゴンの爪から力を入れてドラゴンの身体を思いっきり浮かせるとそれをしばらく維持する。力学的にはあり得ない光景だろうが、常識で計れるレベルは越えてるから仕方ない。そうしてしばらくドラゴンを持ち上げるとドラゴンは最初はもがいていたが、やがて子犬のように大人しくなっていく。力の差を本能的に察したのだろう。そうして大人しくなってからドラゴンを離すとドラゴンは大人しく巣へと帰っていくのだった。
「これで解決だろ?」
「いやいやそんな解決俺には出来ないから。というかなんで倒さなかったんだ?」
「そんなの決まってるだろ?あのドラゴンが家族を守るために戦っていたからな。殺したら家族が可哀想だ」
「家族?」
言われてからドラゴンの帰る道を見て洞窟に他のドラゴンがいることに気づいたのだろう。唖然としてから聞いてきた。
「最初からわかってたのか?」
「当たり前だろ。守るのに人間も動物も関係ない。家族を守ろうとする心はいつだって伝わるものだしね」
「いや、意味わからない」
「せ、先生……凄いぜ!」
「びっくりです……」
「ねー、本当に面白い」
教え子達の手が止まっていることに気づいたので俺はため息混じりに言った。
「さあさあ、邪魔は消えたからさっさと作業だよ」
「と言っても……お前の婚約者のドレスのための素材になんで俺らが駆り出されるんだ?」
「嫌なら帰ってもいいぞ?でもここで取れたシルクを分けることはしないけどね。どうせならお前も侍女のドレスのために頑張ってみたらどうだ?」
「偉そうに……わかったよ」
なんだかんだ言いながら作業を始めるので使いやすい駒だ。残りの生徒達も作業を進めてるしこれならすぐに終わるだろう。まあ、このメンバーを連れてきたのは単純にこの仕事に人手が欲しかったからだ。なるべく大量に仕入れて他のドレスにも使えるように数を揃えておく。こっちは予定通り終わりそうだ。残りは結婚指輪……鉱山の方か。まあ、そちらは俺と目利きと護送要員以外は連れていくつもりはないが。
流石に対人で魔法を使える生徒を連れていくわけにはいなかいし、何かあった時に困るので一人がいいのだ。あと、ファンは単純に役に立たなそうなので置いていく。まあ、そもそもこんな化け物が仲間をぞろぞろ連れていくのは相手に申し訳ないというか、そもそも俺は単体で戦うのが一番手っ取り早いのだ。
まあ、それは建前で本音はこれくらいは一人でやらないと格好悪いだろうからね。アリスのためにやってることだから、折角なら誇れる自分であろう。
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