第72話 騎士団長の息子はご家族に説明する

「やあ、久しぶりだねエクス君」

「ええ、お久しぶりですミスティ公爵」


何度会っても友好的にはならないアリスの父親。まあ、それはいいのだ。本日は隣にアリスもいるし、ミスティ公爵の隣にはアリスの母親のミスティ公爵夫人、お義母様もいるのだ。


「ふふ、エクスくん聞いてるわよ。大活躍なのよね?」

「お久しぶりですお義母様。いえ、それほどでもありません」

「聞けば殿下からの信頼も厚いらしいね」

「偶然仲良くなっただけです。ミスティ公爵こそ陛下からの信頼が随分厚いと有名でしょう」


あの狸親父の懐刀。まあ、この人ならそうだろう。そんな世辞を言い合ってからミスティ公爵は尋ねてくる。


「それで要件は?わざわざ私達二人をアリスと共に訪ねてきたのは納得できるだけの理由があるんだろうね?」


なければ許さないという雰囲気のミスティ公爵。父親のその態度にアリスが何かを言う前に俺は言った。


「本日はお願いがあってきました。アリスの結婚式を私の領地で執り行うことをお許し願いにきました」

「まあ、そちらでやるの?」

「はい。これはアリスと二人で決めました」

「私は……エクスに嫁入りします。なのでエクスの領地で小さな式をやりたいんです」


娘のその言葉に母親は少しだけ驚いてから納得したように頷いて、父親はため息でもつきそうな表情で言った。


「小さな式とは具体的にはどの程度の規模のことだ?どのくらいの貴族を呼ぶというのだ」

「貴族は呼びません。親しい友人と家族のみの式です」

「エクスくん……わかっているのか?子供のお遊びではない。結婚とは貴族同士の繋がりを知らしめるためのものだ。それを身内のみで行うなど無意味だろう」


予想通りの回答。あまりにも予想通り過ぎて驚きはしないが、俺はそれに頷いて言った。


「ええ、仰ることも一理あります。ただ、友人の中にこれから国を動かす人物がいるとすれば話は別ではありませんか?」

「ふふ、なるほど。リンス殿下ね」

「その通りですお義母様。そしてそれだけではありません。アリスの友人には殿下の婚約者のサルバーレ王国第二王女のシンシア・サルバーレ様もいます。時期的には近いうちに我が国へ嫁ぐので王太子妃になるのでしょうが」


わざわざあの王女様をアリスと仲良くさせたのはこの時のための下準備でもある。リンスといい婚約者同士、利用できるならさせて貰わないとね。その俺の言葉にミスティ公爵は少しだけ複雑な表情を浮かべてからため息をついて聞いてきた。


「式場はどこだ?」

「我が領地のブレーメン教会です。孤児院も兼ねてますが」

「孤児院だと?」

「ええ。最近私の領地で私とアリスが何度か訪れている場所です。アリスはすでに領民からもかなり慕われていますから」

「あ、あれは、エクスが人気だからですよ。私は何も……」

「いやいや、アリスの優しさを皆わかってるからね」

「エクスの方が優しいです」

「アリスの方が優しいよ」


二人でそう言うと向かいから笑い声が聞こえてきた二人で見ると、お義母様がえらく楽しげに笑っていた。


「ふふふ、本当に仲良しなのね。安心したわ」

「ええ。婚約者ですから」

「イサドラ……笑いすぎだ」

「いいじゃない。エクスくん本当にいい子だし私は気に入ってるわよ」

「だ、ダメです!エクスは私のですから!」


慌ててそう言うアリスにお義母様はくすりと笑って言った。


「安心なさい。取らないから。にしてもアリスは独占欲強くて大変でしょう?」

「いえ、むしろ私がアリスのことを愛し過ぎているので軽いくらいです」

「それは凄いわね。私なんてこの人からそんな台詞を聞いたことないわよ。いつも難しい顔して、それでいて変にプライド高いのか私のこと好きなのに言葉にしないし」


その言葉にバツが悪そうな表情を浮かべるミスティ公爵。まあ、言葉にしないと伝わらないものだしね。相手に自分の気持ちを分かれというのはある意味傲慢とも言えるからね。


「まあ、そんなところも好きなんだけどね」

「それはそれはお熱いことですね」

「ふふ、まだまだ若い人には負けないわよ?」

「お義母様は十分若いと思いますよ?」

「あら、ありがとう。でもアリスが隣で嫉妬してるわよ?」

「ええ、わかっています」


俺は少しだけふくれるアリスに微笑んで言った。


「そんな顔しなくても俺はアリス以外の女性を愛せないから大丈夫だよ」

「わ、わかってます。ただ、お母様は私より美人ですから」

「それはお義母様が年を重ねて美しくなっただけだよ。アリスはこれからもっと美人になるって思うよ。まあ、今の可愛いアリスのことが俺は大好きだけど」

「エクス……わ、私もエクスのこと大好きです」


そんなやり取りを微笑ましそうに見ていたお義母様に対してミスティ公爵は少しだけ呆れたように言った。


「なら、好きにしたらいい。私は口出しはしないからな」

「私は賛成よー。たまにはそういうのも悪くないし」

「ありがとうございます。お義母様には結婚の件で少しばかりお手数をおかけしますが……」

「ええ、楽しみにしておくわ」


そんな感じで俺達の結婚式の会場が正式に決まったのだった。








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