第71話 騎士団長の息子はヒーローになる
「エクス様。ありがとうございます」
「いえ。どうやら俺目当てで来たようなので未然に防げて何よりです」
縛りあげた男を放り出すと神父さんにお礼を言われるが、むしろ俺のせいで起こる出来事を未然に防いだだけなので礼とかは必要ない。そんなことを言うと神父さんは微笑んで言った。
「理由はわかりませんが、エクス様は私達の大切な領主になる方です。その方の敵なら私達にとっても敵です。それにこうして助けてくださったのが何より嬉しいのです」
「神父さん、エクス様!ご無事ですか?」
そんなことを話しているとシスターが神父さんに駆け寄る子供の後に続いてやってくる。アリスは状況を見てからまた少しだけ悲しそうな表情を浮かべているが、シスターは俺達を見てからほっとして言った。
「本当に良かった。お怪我はないんですね?」
「ええ。エクス様のお陰ですよ」
「エクス様。ありがとうございます」
そう言われてから子供達からもお礼を言われるが俺はそれに軽く頷いて流すことにする。
「エクス」
が、アリスの悲しそうな表情を見てから俺はなんとも言えない気持ちにさせられる。またこんな顔をさせてしまうとは本当に俺はダメだな。アリスは俺の足元に転がる男に視線を向けると小声で呟く。
「どうして……どうしてエクスばかりがこんな目に合うんですか?どうして皆エクスのことを襲うんですか?どうして……どうして私には……」
「アリス」
俺は思わずアリスを抱き締めていた。その表情は悲しげに歪んでおり、心から俺のことを案じてくれたことがわかる。
「アリス。心配かけてごめん」
「……許しません。私凄く心配したんですよ?」
「そうだろうね」
「へ、そんな化け者相手に心配だと?随分と酔狂なことだな」
見れば男の一人がギリギリ意識を取り戻したようだ。まあ、抵抗する兆しは一切ないが。
「……取り消してください」
「なに?」
「アリス?」
「エクスは化け物なんかじゃありません!エクスは私の大切な人です!化け物呼ばわりなんて許しません!」
「アリス……」
その嬉しい言葉に思わず肩に手を置くと意識がはっきりとしない男に俺は言った。
「少なくともお前らの言う人間らしさは俺達とは基準が違うようだ。他人の不幸を幸福としているような奴らと一緒はごめんだがな」
「よく言うぜ。お前だって俺らと同類だろ?」
「エクスは貴方達とは違います!」
「いやいや、その化け物も根っこの部分では俺らと同類さ。自身の快楽のために他人を貶められるような悪党だよ」
「そんなことありません!」
「アリス。もういいよ」
俺は男に近づくと地面に顔を叩きつけて黙らせる。その光景を見ていた子供達からは少しだけ畏怖と尊敬の視線を感じるが、そんなことより俺はアリスのフォローにまわる。
「アリス。俺のために怒ってくれてありがとう」
「当たり前です。エクスは私の大切な人ですから」
「そうだね。俺もアリスのこと大好きだ。だからこうしてアリスが俺を守ってくれることは嬉しいけど、無茶はダメだよ?」
「エクスの方が無茶してます。それにエクスの方が私のこと守ってくれています」
「心の話さ。俺は他人より少しだけ特異な力を持っているからね。それを関係なく愛してくれるアリスのことが俺は大好きなんだ」
正直、あんなゴロツキに何を言われても気にならないけど、こうして誰かが守ってくれるのは嬉しくなる。アリスは俺のために精一杯の勇気で強面の男に立ち向かってくれた。心配したけど嬉しいのだ。もし仮に俺が逆の立場で非力な女の子だったらこんな強面に立ち向かうのはかなりキツイだろう。涙を浮かべながらもこうして立ち向かってくれたことが何より嬉しいし、同時にもっと守りたいと思うようになる。
「……エクスはいつもズルいです。私の心をかき回します」
「アリスだってそうさ。いつも俺のことを魅了してくる。可愛い婚約者だよ」
「はい……」
そう言いながらそっと互いにキスをかわす。一瞬のような永遠を過ぎてうっとりとしているアリスは気づいてないのだろう。その光景を見ていた神父さんの苦笑を。シスターと子供達の好奇の視線を。この後の展開は容易に想像できるが、今だけはアリスとの時間を大切にする。人目があろうとなかろうと関係ない。アリスのことだけを考える。まあ、こうして一仕事終えた後ならなお深く繋がれるだろう。心が自然と高揚して互いの心が全て見えるようだ。アリスのことがなんでもわかって、アリスも俺の全てをわかるような深い絆。こうして視線を交わすだけでもかなりの充実感がある。やっぱり俺はアリスのことが真底好きだと心から思う。アリスも俺のことを好きだとわかる。両想いという現実が何よりの宝物だ。
願わくばこの時永遠が欲しい。いや、永遠じゃなくても。これから先の未来があるならなおいい。薔薇色の人生なんてご都合主義にはいかなくても、これから先が幸せであれば構わない。側にアリスがいるだけで元気が出る。何でも出来る。そんな気持ちになるのだ。まあ、ベタ惚れなんだろなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます