第48話 騎士団長の息子は感心する
「にしても、リンスがあんな風に告白するとはな」
姫様達とのお茶会が終わってから、本日は泊まることになったので一息つきながら部屋の準備を待っていると王子がそんなことを言った。
「ああいうタイプが好みだったのか?」
「ええ、大人しいですし、可愛いですし、なにより多少いじっても可愛い反応しそうですから」
「ドSだな」
「君に言われたくはないよ。エクス」
俺は別にドSではないので気にせずにのんびりしていると、王子が俺を見ながら申し訳なさそうに言った。
「すまない。やはり俺には荷が重かった」
「お気になさらず。メイス様には別で頑張って貰います。理想はもう一人のお姫様を堕としてもらえば良かったのですが、どうにも彼女には想い人がいるようですので仕方ないです」
「は?そうなのか?」
「見ればわかるでしょう」
妹をわざわざ差し出したのは自分の保身のため。もちろん善意もあっただろうけど、このお茶会が婚約者探しのものと知っていたからこそ、妹を生け贄にしたのだろう。
「そんなのわかるわけないだろ。というか本当なのか?」
「ええ、間違いないでしょう。相手はおそらく身近な人物で、でも知られてはならない関係……まあ、多分近くに控えていた執事がそうなのでしょう。時々こちらを警戒して見ていたので」
「執事?使用人と王族が結婚など馬鹿げてるだろ?」
「それは偏見ですよ。それに決して悪くない収穫です。この情報を知ってるだけであのお姫様と取り引きができる」
脅迫に使うもよし、協力関係を築くのもよし。リンス並みに演技が上手いようなので、どうやってもプラスの関係を築くことができるだろう。向こうも俺が察したことに少なからず気づくかもしれないが、それはそれでやりようもある。
「さしあたってはとりあえず、今夜の夜会。二人には頑張って情報収集と宣伝にあたってもらいましょう」
「お前はどうするんだ?」
「俺は別件がありますので、途中で抜けます。まあ、リンスなら問題ないとは思うけど、気をつけることだね」
「まあ、敵の懐だからね。油断はしないさ」
「お姫様は幸いなことにリンスのことを気にしている。外堀を埋めて完璧に落としてくれたまえ」
まあ、そんなことを言わなくてもわかってそうだが、一応そう言うとリンスは笑って言った。
「うん、頑張るよ。それはそうと、エクスはいつから僕の好みがわかっていたの?」
「最初からかな。情報的に一番合いそうなのがあの姫様だということはわかっていたからな」
「相変わらず凄いね。それで?エクスはわざわざここまでしてこの国で何をするつもりなの?」
「お前の頼みの通りだよ。ランドリー王国から薬をなくすための最善策を実行するだけだ」
わざわざ一晩泊まることにしたのもひとえに効率のため。一番早く終わるためにはこれが最善策だと判断したので仕方なくやっているだけだ。
「『プロメテウス』だったか?そもそもここに来たのに意味はあったのか?薬がランドリー王国の国内で売られてるならそこを潰すだけで終わるだろ?」
「そんなものいくら潰しても意味はありませんよ。薬というのは一度入ってくると追い出すのは面倒です。でも……仕入れができなくなれば話は違ってくる」
この国から薬が入ってこなくなれば、自然と国までは回ってこない。あとはじっくり追い詰めて潰せば楽になる。言うのは簡単だが、実行するのはかなり面倒。おそらくこの国の貴族の一部も加担していそうだから、ますます面倒だけど、今日の夜会という状況は使える。
昼間から薬の取り引きはしないだろう。おそらく夜の間の人が少ない時間に取り引きはされる。そして本日は夜会があるので、そちらに視線は向かう。だからこそ油断が生まれる。まあ、とはいえ一人で制圧するのは面倒だが仕方ない。
「一人でやるつもりか?」
「ええ、相手が何人いようと敵ではありませんから。むしろ味方がいれば足手まといになりますので」
「なるほどね、つまりはエクスは薬の出所を突き止めて潰して見せ物にしようとしているということか」
「正確には輸入ルートを潰すだけになるけどな。まあ、あの国王に貸しを作るのは悪くない」
あの国王には伝言を伝えてある。そのメッセージの意味がわかっていればきっと大丈夫だろう。もしそれもわからないようなアンポンタンだったら、生かす価値はないが、多分大丈夫だろう。
「とりあえずリンスはあのお姫様のお守りを頼んだ。本気で嫁にするなら言うまでもないけど」
「あれで嘘なんて言うほど外道ではないよ。まあ、それにエクスを見てて婚約者が欲しいと思ったのは本当だしね。王妃の務めは大変だろうけど、あの娘ならきっと大丈夫だと思うしね」
「全く、俺も早く終わらせてアリスの元に帰りたいよ。いっそのこと今から走って帰りたいくらいだ」
「隣国とはいえ、走っては無理だろ……」
「いえ、兄さん。エクスなら不可能ではないかと」
そんなことを話しながらもリンスが意外とチョロいことに感心するのだった。チョロいことは決して悪いことばかりでもないからね。
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