第47話 騎士団長の息子は姫様に会う

「お初にお目にかかります。私はサルバーレ王国、第一王女のマナリア・サルバーレです。こちらが妹の第二王女の……」

「……し、シンシア・サルバーレです」


ウェーブのかかった金髪の美少女と、その後ろでガチガチに緊張している姉にそっくりな美少女。サルバーレ王国の二人の姫様が目の前にいるが、不思議なほどに何の感情もわいてこない。アリスに出会う前ならそれなりにみとれていたであろう、美少女なのだが、アリス一筋の今では全くいいとは思えない。まあ、そんなことは口にはしないが。


「はじめまして、ランドリー王国第二王子のリンス・ランドリーです」

「同じく、ランドリー王国第一王子のメイス・ランドリーです」

「お話は兄から聞いております。えっと、そちらの方は……」

「お初にお目にかかります。ランドリー王国、ロスト子爵家のエクス・ロストです」

「彼は、私の友人で次期騎士団長候補なのです。私と兄の護衛のために同行して貰ってました」


そのリンスからの紹介に姉のマナリアがしばらく俺をじっと見てから思い出したように言った。


「もしかして、あなたが噂の騎士様ですか?」

「噂とは?」

「近隣の国で噂になってるんです。なんでも悪の王子からか弱き公爵令嬢を救った騎士がランドリー王国にはいるとか」

「なるほど、だそうですが騎士様?」

「だそうですよ、悪の王子様」

「いや、そこで俺に話をふるなよ!」


そうして王子をからかってから俺は少しだけ考えてから言った。


「まあ、その噂が本当かどうかはわかりませんが、確かに私は今の婚約者をそこの当時悪だった王子様から奪いましたよ」

「まあ、素敵。もっと詳しくお話聞きたいわ。ねえ、シンシア」

「は、はい……」


ガチガチに緊張しながら答える妹のシンシア。それを見てリンスは微笑んで言った。


「シンシア様、もう少しリラックスしてください。私達は友好のためにこちらに来たのですから」

「あ、ありがとうございます、リンス様。すみません、どうしても知らない人は緊張するので」

「もう、すみません妹が。この通り大人しすぎるのであまりお気になさらず」

「いえいえ、私も昔は口下手だったので気持ちはわかりますよ」


嘘つけと、リンスにツッコんでやりたいが、少なからず姫様にアプローチをしはじめているリンスの邪魔はしたくないので黙っている。そんな俺に構わずにリンスは言葉を続ける。


「シンシア様にはシンシア様のペースがあるでしょうからゆっくり仲良くなりましょう。私はシンシア様のような女性は好きですよ」

「ふぁ!?」


赤くなるシンシア。これを意図的にやってるのだろうから本当に器用な奴だと思っていると、マナリアが微笑んで言った。


「本当に、ランドリー王国には素敵な殿方が多いのですね。騎士様しかり、リンス様しかり。騎士様はまだ学生なのですか?」

「ええ、来年卒業したら騎士団に入ります。そして婚約者と結婚します」

「でしたら、その時は是非ご招待ください。騎士様の婚約者さんに是非お会いしたいです」

「ええ、アリスも喜ぶでしょう」

「アリスさんと言うのですね。騎士様はアリスさんとはラブラブなのですか?」


その質問に答えるのは簡単だが、俺はそれに微笑んで言った。


「失礼ですが、私はあまり自分の情事を人には他言しません。なので秘密とさせていただきますが、ご想像通りとだけ言っておきます」

「ふふ、そこまで殿方に想われたいものです。そういえば、リンス様には婚約者はいますか?」

「残念ながら素敵な女性は多いのですがなかなか私のことを好きになってくれる人は多くないので」

「あら、そうなのですか?でしたらシンシアとかは如何でしょうか?」

「お、お姉ちゃん何を……」


焦るシンシアにマナリアは軽くウィンクしてからリンスを見て聞いた。


「友好目的なら、そういうことのためにこちらにいらしたのですよね?見たところリンス様とシンシアは相性良さそうですし、リンス様さえ良ければ貰ってあげてください」

「お、お姉ちゃんじゃないの?」

「私はあまりリンス様とは相性良くないみたいです。なんだか近い雰囲気を感じますし」

「うう、でもでも、リンス様にいきなりそんなことを言ったら迷惑じゃないの?」

「確かにそうですね」


その言葉に少しだけ悲しそうにするシンシアにリンスは微笑んで言った。


「せっかく口説く用意をしていたのに台無しじゃないですか」

「え……?」

「シンシア様のお気持ちが宜しければいつでも我が国に妃として来てください。待ってますので」

「じ、冗談ですよね?」

「いえいえ、本気ですよ。一目惚れというやつです。政略結婚するにしてもどうせなら好きになった人と結ばれたいと近しい誰かさんに習ったので」


こちらをチラリと見てくるリンス。まあ、俺としてもどちらかが、ヒットすればありがたいと思っていたが、まさかリンスからここまで積極的に行くとは思わず少しだけ驚いてる。嘘を言ってる様子はないし、多分本気なのだろう。その言葉にしばらく唖然としてからシンシアはポツリと言った。


「……よ、よろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ」


こうして呆気なくリンスの婚約者が決まってしまった。隣で空気になっていた王子は今度別の手札として使うおうと思いながら、早くアリスの元に帰りたいと願うのだった。







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