第49話 騎士団長の息子はシングルで夜会に出る

まさか、他国で夜会に出るとは思わなかったが、これも早くアリスの元に帰るためだ。仕方ない。


今回はリンスが第二王女のシンシア様をエスコートして、王子が第一王女のマナリア様をエスコートしていた。そして俺は一人で来ていた。ペアが多い中で一人なのは浮くが、アリス以外の女を同伴するつもりは一切ない。むしろ、夜会でアリスを晒すのも嫌だが、そこは貴族なので譲歩するしかない。


「皆の者、よくぞ集まった。今宵は特別な夜だ、何故なら、我が妹である第二王女のシンシア・サルバーレが隣国であるランドリー王国の第二王子のリンス・ランドリー殿と婚約を結んだのだ!」


おお、っと盛大な拍手が起きる。挨拶としてリンスとシンシアの二人が前に出て話そうとするが、恥ずかしそうにしてるシンシアに微笑んでからリンスは口を開いた。


「皆様、はじめまして。ランドリー王国、第二王子のリンス・ランドリーです。この度私はサルバーレ王国の第二王女であるシンシア様と婚約をさせていただきましたが、これは始まりにすぎません。私の友人が前に言っておりました。『結婚はゴールではない。スタートライン』だと。その通りだと思います。これから先、私とシンシア様には様々な試練が待つでしょうが私は負けません。シンシア様を必ず幸せにしてみせましょう」


そのリンスの演説に顔を真っ赤にしているシンシア。すでに羞恥プレイとか鬼畜だなーっと思いつつその後は自然と進行していく。二人がメインになって挨拶周りをしはじめたのを見て俺も行動に移る。まず、何人かの貴族に無難に挨拶をしながらそれとなく様子を見る。かなりの人数がいるが全員と話す必要はない。それなりに見極めてから話かける。


そうして何人かしてから、ようやく本命を見つけたので俺はその男に挨拶をした。


「初めてまして、フレデット伯爵」

「失礼ですが、どなたでしたかな?」

「ランドリー王国、ロスト子爵家のエクス・ロストと申します」

「ランドリー王国……リンス様のお連れの方ですかな?」

「ええ、そうなります。護衛と言えばいいのでしょうか」


警戒している相手にそう言うと、少しだけ安心したように気を緩めて言った。


「リンス様のお側にいなくていいのですかな?」

「ええ、私より強い人間がいますのでご心配なく。それよりも、フレデット伯爵は最近、何やら新しい商売を始めたとお聞きしたんですが詳しく教えていただけますか?」


その言葉にギクリとする男。分かりやすすぎて貴族に不向きだと思っているとなんとか取り繕って言った。


「残念ながら、企業秘密です。信用がモットーなので」

「それは残念。そうそう、今宵は私達はこの夜会から離れられませんが、フレデット伯爵はお一人で来られたのですかな?」

「ええ、妻は置いてきました」

「ほぅ、そういえばフレデット伯爵には愛人がいると伺ったのですが、そちら様は連れて来なかったのですか?」

「だったらなんですか?」


俺の執拗な質問にイラッとしてきているので俺はそれに拍車をかけるように言った。


「酷い男ですね。嫁と愛人を放置して夜会にくるなんて」

「関係ないでしょう」

「ええ、関係ないですね。ですが、私は少しだけあなたに警告をしたくてここに来たのです」

「警告?」

「ええ、もし少しでもあなたの心に家族への良心が残ってるならすぐにでも手を退くことですね」

「……何の話ですか?」


とぼける男に俺はあくまで微笑んで言った。


「わからなくはないでしょう?思い当たることがあるなら、すぐにでも手を引くこと。出来ないならあなたの人生は本日で終わりを迎えるかもしれませんね」

「くだらない。なんだその馬鹿げた話は」

「本当にそう思うなら構いませんがね。そういえば手元のワインは飲まないのですか?」


一滴も減ってないそれを言うと男は明らかにこちらを睨んで言った。


「だったらなんだ」

「お噂だと、フレデット伯爵は随分とお酒にこだわりがあるとか。王族の品でも飲めませんか」

「そ、そういう貴殿も飲んでないではないか」

「護衛ですからね。どうしてもと言うなら飲みましょう」


俺は近くの給仕の侍女からワインを貰うと一気に飲む。そしてグラスを返してから微笑んで言った。


「これで満足でしょうか?」

「貴様は何をしたいんだ?」

「お気づきでしょう?」

「知らないな」


そう言ってから立ちさろうとする背中に向けて最後に言葉をかける。


「後悔はないんですね?」


返事はなかったが、背中でそれを確認してから俺はため息をつく。柄にもなく説得をしようとした結果がこれだから俺はかなり口下手なのだろう。ちらりと見るとリンスとシンシア様が近くで他の貴族と話しておりリンスは俺と視線が合うと頷いた。


それだけで、この場を任せろと言っているようなものなので俺は最後にサルバーレ国王陛下に視線を向けて確認を取ってからこの場をあとにする。これから先は戦場。いかに早くにこの件を片付けて、この場に戻ってくるかの競争だ。大変だけどアリスの元に早く帰りたいので頑張ろうと思うのだった。



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