第46話 騎士団長の息子はハーフタイムに入る

「エクス!貴様なんであんなに危ないことを言ったんだ!」


謁見が終わってから与えられた部屋に着くと早々に王子がうるさくなった。さっきまでの大人しさが嘘のようにうるさい王子に俺は面倒くさいと思いつつ答えた。


「事実を言ったまでです。それにしても暗殺をしてまで王位を奪った男がどんな腹黒かと思ったら存外普通でしたね」

「人の話を聞け……って、は?暗殺をして王位を奪った?」

「ええ、そうですよ」


淹れたお茶を飲んでから俺は普通に答えた。


「さっき話していて確信しました。まあ、どんな思惑があるにしても、放置してもさほど問題にはならなそうですね」

「ま、待て待て!お前は前国王陛下があの方に殺されたと言うのか!?」

「さっきからそう言ってるでしょう?」

「そんな馬鹿な……」

「まあ、王族なら当たり前のようにありますからね。王位継承権の問題は。良かったですねメイス様。少なくとも今のあなたなら狙われる心配はありませんよ」


そう言いながらお茶を飲むとそれまで黙っていたリンスが苦笑して聞いた。


「なら、僕は狙われてるのかな?」

「どうかな。少なくとも今のランドリー王国に、リスクをおかしてまでメイス様を担ぎ上げる連中は多くないだろうね」

「ま、というわけです兄さん。あまり気にしなくてもいいかと。それにエクスが危ないことをするのはいつものことです」

「リンス、お前はなんでそんなに落ち着いていられるんだ?」

「慣れですかね。あとは信頼ですよ」

「信頼?」

「これまでエクスに任せてみて悪くなったことはありません。ミスティ嬢に危害を加えなければエクスは安全ですからね」


よく笑ってる親友に頷いてから俺は言った。


「ええ、アリスに危害が及ぶなら誰だろうと許しませんが、俺とアリスの仲を引き裂くような真似をしないで、穏やかに過ごさせて貰えれば友好的でいましょう」

「そ、そうなのか?」

「ええ、まあ、もっともさっきの問答でアリスに欠片でも邪な気持ちを抱いていたらこの国が消えるところでしたがね」


あの国王が見せたのは俺への興味。アリスのことなど微塵も考えてなかったのでギリギリ合格だ。


「というか、簡単にそんなこと言うができるのか?エクスが強いのは知ってるが、たかが一人の人間に出来ることはそこまで多くはないだろう?」

「甘いですね、兄さんは。ちなみにですが多分兄さんと僕が知るエクスの強さは手加減してのものですよ。本気を出したら本当に一人で国を滅ぼすかもしれませんよ?」

「そんな馬鹿な……」

「実際、素手でもこの城の人間を皆殺しにしてしまえるでしょう。本来人が持つべき力を遥かに凌駕しているのですよ」


当たり前のようにそう言ってからお茶を楽しむリンス。リンスの察しの良さに感心しつつも俺は言った。


「まあ、そんな過信をするつもりはありませんが、それでも客観的に見て俺はある意味兵器のような化け物ですから」

「化け物か……なるほどぴったりかもしれないな」

「そうかな?エクスは意外と理性的だし化け物だけでは不十分ですよ。そうですね……さっきの兵器という言葉が近いですかね」

「兵器がか?」

「ええ、道具というのは目的のために使うもの。エクスはミスティ嬢という目的のためにある力と言ってもいいでしょう」


上手い例えに感心するが、やはりこんな俺を心配してくれるのはアリスだけだと心から思う。アリスがいなければただの兵器として扱われていたか、化け物として迫害を受けるかくらいしか道はなかっただろう。そう考えるとやっぱりアリスは素晴らしい。


「しかし、アリスにそこまで魅力があるの――か」


その言葉が終わらないうちに王子の言葉は小さくなる。笑顔でプレッシャーをかける俺からの殺気を感じたからだろう。俺は怯える王子に笑顔で言った。


「メイス様。私の婚約者を名前呼びはいけませんよ?ミスティ嬢・・・・・でしょう?」

「す、すまない。えっとミスティ嬢のどこがいいのか俺にはわからないというか……」

「ええ、そうでしょうとも。メイス様はアリスの魅力なんてわからなくて構いません。それを知ったらあなたはこの世から消えてしまうのだから。いいですね?」

「あ、ああ。すまない」

「わかれば結構」


この男にはまだノロケるだけの価値がない。俺がアリスのことをノロケるのはその価値があると判断した者だけだ。誰彼構わず言うことはない。アリスの魅力を全員が知る必要はないんだ。必要なのは俺だけが知ることが多いこと。そして、アリスの理解者にはある程度は伝えてもいいとは思う。まあ、それでも嫉妬心はなくはないが、それくらいは耐えなくてはいけない。俺は我慢ができる男だ。自分が人より愛情表現が重いことはわかっているが今更どうしようもないので、そこは変えない。


それにアリスにはこの俺がいいと思われているのだ。なら、独占欲丸だしの素直な自分でいようと思う。無論アリスの前だけだ。用法要領は守って適切に対処する。ああ、それにしてもそろそろアリスに会いたい禁断症状が出そうだ。アリスに会いたい……







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