第45話 騎士団長の息子は隣国の王に謁見する

「よくぞ参られた、リンス殿。メイス殿もお変わりないようで何よりだ」

「お久しぶりでごさいます、サルバーレ国王陛下」


先頭で挨拶をするリンスの前にいる人物こそ、サルバーレ王国の国王陛下であるジル・サルバーレ様だ。後ろに控えるメイスとその隣にいる俺を見てからサルバーレ国王陛下は眉を潜める。


「そちらの後ろにいるもう一人はどなたかな?」

「ご紹介いたします。我が親友にして、次期騎士団長であるエクス・ロストで御座います」

「お初にお目にかかります。ランドリー王国現騎士団長、ベクトル・ロストの息子のエクスと申します」

「ベクトル殿の息子か。貴殿の父上には何度か稽古をつけてもらったこともある。ベクトル殿は息災か?」

「ええ、頑丈なのが取り柄ですから」


そう言うとサルバーレ国王陛下は小さく笑ってからリンスを見て言った。


「さて、確かリンス殿がこちらにいらしたのは我が国との交友のためとか。聞けば貴国では何やら騒動があって、王位継承権が貴殿に移ったと伺っております」

「ええ、その通りです。諸事情により私が王太子を名乗らせていただいております。学園ももう少しで卒業ですので、早めに貴国と仲良くさせていただきたいと思い本日は足を運びました」

「ほほう、それはそれは。では、貴殿が国王になった暁には是非式典に呼んでいただきたいものだ」

「ええ、その時には是非に」


少しだけ会話をする限りにおいては別段欠点らしきものは見えない。確かにすこしばかり無理をして話しているのはわかるが、良くも悪くも普通につきる。まあ、世間話程度だからの評価だが。


「そうそう、確かこの後は我が姉妹達とお茶をする約束があるとか。リンス殿とメイス殿の花嫁候補の参考になれば良いのですが。いや、もしくはエクス殿も候補に入るかもしれませんね」

「陛下、僭越ながらひとつだけ指摘させていただきます。エクスには既に素敵な婚約者がおりますれば、あまり刺激をしないことを願います」

「ほう?素敵な婚約者とな。そういえば、メイス殿は王位継承権を返上した時に婚約破棄なされたとか」

「ええ、それが何か?」

「いえいえ、私もあくまで噂でしか知りませんが、なんでもそこにいるエクス殿がメイス殿から婚約者を奪ったという噂があるのですよ。これは誠でしょうか?」


前言撤回。思ったより面白い男かもしれない。でも、あまり能力がありそうではないな。そんな評価をしながらチラリと視線を王子に向けると少しだけ不機嫌そうにしていた。まあ、自分の傷口を抉られれば当然の反応か。ふと、リンスからの視線を感じたのでそちらを向くとどうするかという疑問をこちらに向けてきていた。俺は少しだけ考えてから事実を言うことにした。


「僭越ながら、誠の話でございます。私が当時メイス様の婚約者であったアリス・ミスティ公爵令嬢を結果として頂くことになりました」

「ほう、それはそれは。とても興味深いですな。是非お話いただきたいものだ」

「陛下、恐れながらそれは出来ません」

「ほう、何故だ?」


そう聞かれたので俺は笑顔で答えた。


「嫉妬にございます」

「……嫉妬とな?」

「はい、ここで陛下が私からアリスの話を聞けば陛下は興味を抱いてしまいます。その場合私は陛下に大変恐縮ですが、あらゆる負の感情を嫉妬という形にして表してしまいます」

「お、おい、エクス。その辺で……」


珍しく焦ったような王子を横目にしながらも俺は言葉を続ける。


「私はアリスを心から愛しております。それはもう、他人から見れば歪んでしまっているほどに。なのでそれをこの場で表すことは出来ません」

「ふふ、僕にはのろけるくせに?」

「殿下、それは殿下を真の友と認めてのこと。陛下とはそういった間柄ではありません。故に私は拒否させていただきます」


かなり不遜な発言に周囲が唖然とする中で、陛下だけは大きく笑って言った。


「ははは、これは愉快。若輩とはいえ国王に対してここまで清々しく断る人間はそうはいまい。自国の民なら優遇したほどだ」

「恐れ入ります」

「エクス殿。貴殿の結婚式には是非とも私を呼んでくれたまえ。貴殿をそこまで魅了したミスティ嬢を一度この目で見てみたいからな」

「ええ、ただし私のアリスに如何なる情を抱こうとも私が立ち塞がりますのであしからず」

「ベクトル殿の息子ということは貴殿も凄い剣の腕を持っているのだろう。どうだ、いっそ我が国に来ないか?それ相応の爵位を与えよう」


その言葉に驚くリンスと王子だが、俺はそれを笑顔で断る。


「申し訳ありませんが、すでに我が国でのアリスとの人生設計を立ててしまったのです。私はこれ以上の爵位も地位もいりません。好きな人と生涯を共にできればそれだけでいいのです」

「そうか、気が変わったらいつでも来てくれ。我が国は騎士の質が低くてな。貴殿のような目的がハッキリしている騎士を欲しているのだ」

「微力ながら、友好の証として助力はさせていただきます」


こちらから色々手助けして恩を売れればかなり優位な立場になれる。そんな感じでサルバーレ国王の国王との謁見は無事終わるのだった。






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