第44話 騎士団長の息子は作戦会議をする

「それで、なんで俺はこの場に呼ばれたんだ?」


王城のとある一室にて、そう疑問を口にするのは攻略対象の王子のメイスだ。ちなみにその他のメンバーはリンスと俺の合計3人。このメンバーで集まってすることと言えばそこまで多くない。


「メイス様は、隣国のサルバーレ王国についてはご存知ですか?」

「名前は知っている。確か海に面していて漁業で有名な国だろう?我が国ともそれなりに長い付き合いのある国だ」

「ええ、我がランドリー王国とも友好的な関係にありますが、最も大切なのは、あの国が東の大陸との玄関口になっていることです」


海を挟んで東にはいくつかの国があり、そことの貿易の一番盛んなのは玄関口たるサルバーレ王国なのだ。


「そのサルバーレ王国は今、大変不安定な情勢にあります。ひとつには国王暗殺。先代の国王陛下が暗殺されて、変わりに王太子が国を背負ったのですが、どうにもこの新しい国王は国を上手くまとめられないようなのです」

「無能な王に民がついてくるわけないか……」

「ええ、以前のあなたよりはマシですがね」


そうして軽く毒づいてから俺は続けた。


「そして、一番の問題が薬の売買と人身売買の所謂闇商売の増加です」

「薬の売買?そんなもの何が問題なのだ?」

「兄さん、この場合の薬は、人体に影響のあるヤバいもののことだよ。使えば気分がよくなるけど、依存性があって副作用の大きいもののこと」

「そ、そんな危険なものがあるのか!?」


馬鹿王子の反応をスルーしてから俺はリンスの言葉に頷いて言った。


「そして、この騒動の原因にはとある組織が関わっている。それが、『プロメテウス』」

「薬の名前と組織名が一緒なんだね」

「そう、奴らはこの薬で利益をあげつつ、ある種の宗教のように人を増やしているようです」


攻略対象の一人だった、マルケス・ステレオはいつの間にかその組織に関わっていた。おそらく俺がアリスを守ったことによって、彼の生活も一変したのだろうが、同情はしない。アリスを守るためならそんな些末なことは捨て置く。外道と言われても俺は大切なもののために全力をつくす。


と、そんな俺の決意とは裏腹に王子は若干口元をひくつかせながら聞いてきた。


「そんなヤバい話に何故俺を混ぜるんだ?」

「決まってます。あなたをこの件に巻き込むためです」

「じ、冗談ではない!何故そんな恐ろしくことに巻き込まれなければならない!俺は帰らせてもらう!」

「まあまあ、お待ちを」


そうして首根っこを掴んで逃がさないようにしてから俺は言葉を続けた。


「明後日、サルバーレ王国にこのメンバーで向かいます。今の国王陛下との謁見と、二人の姫様とのお茶会があります」

「なるほど、つまり僕か兄さんをその姫様とくっつかせたいと?」

「うん、理解が早くて助かるよ。内情を探るには身内になるのが手っ取り早い。あわよくばあの国への影響力を強くしておきたいからね。今後のために」

「……エクスは、この件がすぐには片付かないと?」

「ああ、短期決着が理想だが、向こうはかなり根を下ろしている。完全な駆除にはそれなりに時間を要するだろう」


向こうの総本山があの国にあるとは俺は考えていない。むしろ、東の大陸から渡ってきたと言われても納得できるほどだ。だからこそ、あの国との仲を強くしておきたいのだ。そのためにこちらが使える手札は二枚。このどちらかに餌がつけば文句はない。


「そ、そんなことのために隣国まで行くのか?」

「ええ、二人の容姿なら大抵の女性は落とせます。その容姿を活用してなんなら、メイス様は隣国で次の国王にでもなってください」

「はぁ!?なんなのだそれは!」

「これもれっきとした仕事ですよ。もちろん断っても構いませんが……ちなみに向こうの姫様はなかなかの美少女だとか」


そう言うと少しだけ興味を持ったようなので単純で助かると思いつつ俺は言った。


「本当に合わなければそれなりに仲良くなるだけで構いません。元々そちらはついでなので。ただ上手くいけば事が一気に動きますから」

「俺は……」

「僕はなんでもするよ。この国を守るためなら。それにエクスを見てて折角だから婚約者が欲しかったしね」

「だ、だが、父上がなんと言うか……」

「すでに許可は得てます」


あの狸親父なら面白いと言ってあっさり了承するだろう。


「ま、リンスは嫁探し、メイス様は婿入りのための見定めくらいの気持ちでいてください」

「ぐっ……わ、わかった」

「素直に了承してくださって助かります。断ったら流石にこの話を露見したくないので処分に困るところでしたからね」


笑顔で言うと乾いた笑いを浮かべる王子。まあ、ぶっちゃけこんな政略結婚なんてあまり好むところではないが、先にこちらに依頼してきたのはリンスだ。ならその責任は取って貰わないと。まあ、流石に王妃としてあまりにもふさわしくなければスルーでいいが、リンスにはかなり期待しているのだ。早くこの件を片付けないとアリスとイチャイチャできないしね。そうして作戦会議を進めるのだった。



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