第43話 騎士団長の息子は称えられる

翌日、本日も残り少ない学生生活をアリスと共に楽しむべく登校すると何やら視線がいつもより多いような気がした。特別目立つようなことは何もしてないはずだが……強いてあげるならアリスといつも通り手を繋いで登校してるがそれこそ最近は皆見慣れてるはずなので首を傾げているとアリスが言った。


「なんだか皆さんエクスを見てますね」

「そうなのかな?俺はてっきり皆がアリスの可愛さに視線を奪われてるのかと」

「もう、エクスったら」

「あ、あの!」


そうして笑っていると、何やら一人の女子生徒が俺の前に立ちふさがった。見覚えのないその子は俺を真っ直ぐに見ていたのでおそらくアリスの友達というわけではないのだろう。まさかファン・ラクターの時のような面倒なパターンじゃないよなと思っているとその子は頭を下げて言った。


「ありがとうございます!ロストさんのお陰で友達が助かりました」

「何かなさったのですかエクス?」

「はて?全く心当たりがないけど」


友達を助けた?見も知らぬ他人の友達を助けた?全くわからない。そうして考えていると、彼女は嬉しそうな表情で語ってくれた。


「私の友達なんですけど、悪い商売に捕まってあと少しで人身売買に出されそうになってたんです。そんなところでそれを行うはずの商人から間接的に助けてくれたのがロストさんだと聞いてます。昨晩のことです」

「なるほど、そういうことか」


どうやら昨日の手柄を騎士達が持ち去らずに俺に恩を売ったというところか。いや、単純に善意でやってくれたのか。まあ何にしてもさっきのお礼の意味がわかって少しだけスッキリした。まあ、どのみち俺の手柄ではないので自慢をするつもりは毛頭ないけどね。しかし、昨日の今日でなんでそんなことを知ってるんだ?


「エクス、昨晩とはどういうことですか?」

「ミスティ様、ロストさんは昨晩とある闇組織の一部をたった一人で相手にして多くの人を救ったのです。私の友人もロストさんに救われて大変感謝しておりました。今は怪我で動けないですが後ほどお礼を直接言いたいといっておりました」

「そうですか……エクス、あのあと私を送ってからそんなことしてたのですか?」

「うーん、まあそうね」


アリスからの問いに思わず視線を反らしてしまう。別に俺は誰かを救いたくてやったことではないので評価なんていらないんだけど、それよりもアリスに裏でのことを知られたくないので反射的に目を反らしてしまう。別にやましいことは何一つないが、努力を知られたようでなんとなく気まずい。そんな俺を見てからアリスはため息混じりに言った。


「もう、危ないことしちゃダメですよ」

「ああ、危ないことはしないさ。昨日も別に危ないことはしてないさ」

「え?何十人もの武装した人間を一人も怪我をさせずに気絶させたと聞いてますが。しかも素手で」


そんな余計な情報を漏らしてくれる女子生徒。アリスがいなければ闇討ちくらいはしたかもしれない。というか……


「その情報は誰から聞いたんだ?」

「私の兄が昨晩居合わせたそうです。他の人もそれぞれ聞いたみたいで、ロストさんのことを探してました」

「つまり、もう学園中に広まってると」


なんてことだ。これではまるでヒーローみたいじゃないか。冗談ではない。そんな一方的な他人の評価なんてまるで価値がない。俺はアリスだけのヒーローでいたいんだ。やはり目立つ行動はなるべく避けて、他の人間を替え玉に使うべきかもしれないな。そんなことを考えていると、アリスが俺の胸に飛び込んできた。柔らかい感触に思わず緩みそうになる頬を抑えて俺は聞いた。


「どうかしたの?」

「エクス、無茶しないでください。エクスがそんなことをしたのにはちゃんと理由があるのでしょうし、現に助かってる人もいますが、こうして心配する私のことも少しだけ気に止めてください。エクスに何かあったらと思うと私……」

「アリス……」


こんな化け物スペックの俺のことをこうして真剣に心配してくれるのはアリスくらいだ。だからこそ、俺は彼女には決して裏でのことは悟られてはならない。化け物に出来ることなんてたかがしれてる。ならその化け物の力を奮うべきはこの大切な人を守るため。その根幹を忘れてはならない。


最近はリンスや攻略対象のせいで余計な厄介事まで背負うはめになったけど、俺はその根元を決して忘れてはならないと改めて思うのだった。だからこそ俺はアリスを抱き締めてから人目を気にせずに言った。


「大丈夫。俺は絶対にアリスの側から離れない。昨日も約束しただろ?ずっと一緒だ」

「はい……」


目の前でラブシーンを見せられて驚く女子生徒には悪いが、もうここは俺とアリスだけの空間なのだ。だからこそ、見せつけるようにアリスを優しく抱き締める。こうして自分のものだとしっかりとアピールをしておく。そして、昨日の出来事と関連つけて覚えてもらう。『騎士団長の息子は婚約者のためならなんでもする』そういう認識を持って貰えれば余計なちょっかいもなくなるだろう。






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