第42話 騎士団長の息子はスペックの違いに唸る
「また派手にやったものだね」
一仕事終えてから、引き取りのための騎士の部隊が到着すると同時によく知る人間がいることに気づいた。
「こんな時間に夜遊びか、リンス?」
「君が何かことを起こすと思ってね。無理言って着いてきたんだ」
「王太子なんだからもう少し立場を考えて動いたらどうだ?」
「君がいるなら、まず護衛は必要ないからね。それにしてもそこに倒れてるのはマルケス・ステレオか?」
呑気に気絶している攻略対象を見てそう聞いてくるリンスに俺はため息をついて言った。
「どうにも裏で色々と汚いことをやっていたみたいだからな。すまんがあれを更正は厳しいわ」
「汚いことね……具体的には?」
「人身売買とかそれにおそらくヤバイ薬の売買もしていたんだろうな」
俺は気絶している奴の懐からいくつかの物を取り出す。俺に仕込んだ猛毒の他に白い粉があったのでそれを見て確信した。先ほど奴には言わなかったが、奴の発した言葉……『プロメテウス』という組織名を聞いてから最近隣国で流行ってる薬の存在を思い出したのだ。薬の名前はそのまま『プロメテウス』。幻覚作用と薬物依存の影響がデカイ薬で、飲めば一時的に限界を越えて強くなれるそうだ。
ま、そうは言っても実際に強くなるのではなく、肉体の限界を越えて動けるようになるのと、その負荷を痛覚を麻痺させることで抑えるだけなのでほとんど自滅に近い代物だ。使用者にはデメリットしかないが、一度使えば止められないのが薬の恐ろしいところだろう。リンスは俺が見せた薬を見てから表情を苦々しくして言った。
「その薬……まさか『プロメテウス』か?」
「ああ、実際にこいつがさっき組織名を堂々とネタバレしてたからな。間違いないだろう」
「すまんが、ネタバレとはなんだ?」
「ああ、えっとな。事実を伝えることだ」
思わずそう言うとリンスは少しだけ考えてから呟いた。
「しかし、まさか我が国でもこの薬が出回っているとは思わなかった。君は知ってたかい?」
「いんや、おそらくまだこの国には入ってきたばかりなんだろう。だが早めに潰しておかないと面倒なことになるな」
薬というのは一度出回るとあっという間に広がってしまうもの。それを止めるためにはそれなりの労力が必要になるだろう。まあ、そこまで俺が面倒を見るかどうかは別だが。先のことを考えると俺が手柄を残してあっさりと騎士団長の椅子に座ってもいいし、仮にやらなかったとすれば場合によればそのツケが回ってくるかもしれない。とはいえ、それでアリスに被害が及ぶ可能性を考えると悩み所だ。
「エクス、頼みがある」
「聞きたくない」
「すでに君にはとんでもなく大きな借りがあるのは百も承知だが、それでも頼みたい。僕と一緒にこの薬をこの国からなくそう」
「役者不足だ。他をあたれ」
「君にしか出来ないんだ。力を貸してくれ」
そう頼まれるが、これ以上俺が手を出すとアリスとの時間をさらに奪われかねない。そんなことは許されない。国の危機よりアリスが大切なのだ。とはいえ、この件で俺は確実に連中から目をつけられただろう。早めに駆除しておかないとアリスにも火の粉がいきかねない。それはダメだ。
俺にはどんなことがおきても耐えられる。だがアリスに火の粉がかかるなら俺は何をしても相手を地獄まで叩き落とすだろう。まったく……まさか更正の次は違法組織の撲滅なんて正義の味方みたいで反吐がでる。
「まったく、大人しく年長者に任せてもいいんじゃないか?」
「それが出来ないのが僕だからね」
「本当に立派な王太子様でいらっしゃる」
「君が言うことかい?周りの騎士達の様子を見て気づかない?」
そう言われて作業している騎士達を見るが皆一様にこちらと視線が合うととても好意的な視線を向けてくる。男から貰っても全く嬉しくないそれを見ているとリンスは言った。
「皆君が成したことに敬意を持ってるんだよ。明日にはこのことが広がって君は密かな英雄になるだろう。人身売買などの違法な組織との繋がりがある人間を一人で片付けたヒーローだよ」
「この程度でヒーロー名乗れるのか。安いなヒーロー」
「それくらい元来平和な国ってことさ。騎士達なんて君が今すぐ騎士団長を名乗っても着いてきてくれるんじゃないかな?」
「だとしても、俺はアリスのために戦ってるだけだ」
「それがひいては国のため、民のためになるのさ」
よく口がまわるようで結構なことだ。本当にイケメンというのは口が達者で困る。俺も地味にイケメンなはずなのにコミュ力高くないのは基礎的なスペックの違いなのだろうか?
「それで、どうかな?」
「ま、これで一生返せない貸しを作れるなら悪くない」
「君は本当にミスティ嬢以外にはドライだね」
「当たり前だ。アリス以外にそこまで優しくする理由はない。それと、この件を解決したいならお前にもかなり頑張ってもらうことになるが構わないな」
「ああ、なんでもしよう」
「そうか、なら……」
そう言ってから俺はリンスの肩に手を置くと微笑んで言った。
「とりあえず、隣国の姫様口説いてもらおうか」
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